寮での生活

 

 学園を出てから10分程、正確には学園の敷地内に有るらしいのだが、寮にしては大きな建物が見えてくる。


「………翼くん聞いてもいい?」


「ん?どうしたんだい?」


 目の前の建物を見上げながら、翼くんに聞く。


「これは寮?」


「そうだよ?優くんが今日から住む寮だよ」


 目の前の建物はどう見ても。


「ホテルだよね?それもリゾートとかにある高級な」


 しかも多分最高級とか、グランドとかロイヤルの付くタイプのホテル。


 いや、泊まった事無いからわからないけど、多分そうだと思う。


「うーん、まぁそうとも言うかな?でも、ここに有るのは寮だよ?ほら!」


 翼くんの指差す先には。


『天空学園第一寮』と書かれている。


「………うん、そうだね、寮だね名前だけは」


「そうだよ、我が天空学園の誇る学生寮だよ」


 本当に誇るべきものだね。


「さぁ、中に入ろう優くん」


「う、うん」


 しぶしぶ中に入るが。


ウィーン。


「おかしいよね?普通の寮に自動ドアはないよね?」


「さぁ優くん、あっちのカウンターで入寮手続きをするんだ」


「普通の寮にカウンターは無いよね?しかも大理石の………」


 中は予想通り高級ホテルのような作りになっている、しかもスタッフ付きで。


「………もう常識は捨てよう」


 カウンターに向かうと受付?の人が笑顔で向かえてくれる。


「ようこそいらっしゃいました、小守 優様ですね?」


「は、はい……」


「御待ちしていました、当寮のご説明は必要ですか?」


「お、お願いします」


「はい、では………」


 受付のお姉さんがリモコンを取り出しボタンを押す、するとカウンターの壁が開きスクリーンが出てくる。


「当寮は寮生の皆様に快適かつ安全に日々を過ごして頂くために………」


 その後、寮についての説明を聞いているのか、スパリゾートの説明を聞いているのかわからない説明を聞きエレベーターに乗る。


 うん、早めに常識を捨てたのは正解だったらしい。


「…………」


「優くん大丈夫?」


 若干ぐったりしながらエレベーターに乗っていると、サキちゃんが心配したように聞いてくる。


「うん、大丈夫だよ………」


「ははは、優くんはお疲れだね?」


「うん、今の数分でね」


 笑う翼くんに答えながらため息を吐く。


「じゃあゆっくり休むといいよ!あ、僕はこの階で降りるね」


 エレベーターが六階で止まり翼くんが降りる。


「じゃあまた明日優くん!」


「う、うん、また明日……」


 エレベーターの扉が閉まりまた上昇する。


「えっと、僕は何階?」


「私達は九階だよ」


 ん?私達?


「えっと、サキちゃんもここに住むの?」


「そうよ?私達は一緒に住むのよ?」


 へ?


「ええ!?い、一緒に!?」


 驚いている間にエレベーターは九階に着く。


「さあ、早く降りて優くん」


「は、はいぃ」


 どぎまぎしながら降りると。


「はいこれ」


 鍵を渡される。


「優くんは一号室、私は隣の二号室、何かあったら呼んでね?」


「あ、一緒ってそういう……」


 そりゃそうだよね、同じ部屋なわけないよね。


「あれー?ひょっとして同じ部屋に住むって思った?」


「ち、違!」


 いたずらな笑みを浮かべるサキちゃんに慌てて答えるが。


「ふふふ、優くんのエッチ……」


「っ~」


 その場に居たたまれなくなり部屋に逃げる。


「………うーん、ちょっと攻めすぎたかな?」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

恥ずかしさのあまり、しばらくベッドの枕に顔を埋めていると。


リーリーリー


「わっ、びっくりした……」


 備え付けの電話が鳴った事に驚いた。


「はい、小守です……」


『やぁ優くん、部屋はどうかな?』


「あ、翼くん、うんすごく快適だよ」


『ふふ、それは何よりだよ、所でそろそろ夕飯にしないかい?良かったら一緒に食べようよ』


「あれ?もうそんな時間?」


 見ると時計の針は七時を過ぎていた。


『一応二十四時間食事はできるけど、そろそろいい頃合いじゃないかな?』


「う、うん、直ぐに行くよ」


『ゆっくりでいいよ、あ、ご飯の後お風呂も案内するから、準備してから三階の食堂に来てね』


「わ、わかった」


 電話を切って慌てて準備をする、と言ってもタンスにある着替えと浴室にあったお風呂セットを、部屋に備え付けてあった袋に入れるだけ。


「本当に何でもあるなこの部屋………」


 部屋を出ると既にサキちゃんが待っていた。


「ご、ごめん遅くなって……」


「う、ううん平気……」


 な、何となく気まずい。


「じ、じゃあ、行こうか?」


「そ、そうね、食堂は三階だね」


 二人でエレベーターに乗り三階に行くと、既に沢山の生徒が食堂に向かって移動していた。


「これ大丈夫かな?席ある?」


「大丈夫だと思う、確かここの寮生全員が入れる位の大きさのはずよ」


 そんなに大きいんだここの食堂。


「あ、優くんこっちこっち」


 食堂の入り口に差し掛かると翼くんが待っていた。


「ごめんお待たせ」


「ははは大丈夫だよ、さぁ、中に入ろう」


 中はかなり広く、確かに全員が入れる位の広さは有るように思えた。


「僕達の席はあっちだよ」


「席が決まってるの?」


「うん、僕達は上位だからね」


「上位?」


「そ、ここでも学園でのランクは関係しているんだよ」


「そ、そうなんだ」


 案内されたのは食堂の真ん中辺り、ここでも目立つ位置なんだ………。


 座る椅子もふかふかな豪華な物だし、何となく扱いが特別だし、落ち着かない。


「さて、じゃあ三人ともよろしくね」


「はい、優くん待っててね」


 食事はバイキング形式なのだが、取りに行くのはサキちゃんと翼くんの側近さん二人だけ。


「僕達は基本的に待っているだけだよ」


「自分で取ってきちゃダメなの?」


「そうだね、自分で取ってくると側近の人達が周りから良くない眼で見られちゃうんだよ」


「そうなの?」


「うん、まぁ、そう言う物だと割り切って貰うしかないんだよ」


 ここで僕が取ってくるとサキちゃんに迷惑になるのか………。


 あまり気は進まない、だけど慣れるしかないのかな?文化の違い、そう思うしかないのかな?


「…………」


 見ればサキちゃんが、翼くんの側近さん達に色々聞いていた、大変そうにしている姿が映る。


「………ねぇ翼くん、僕はサキちゃんに何をしてあげられるの?」


「うーん、まずはちゃんと感謝をする事、あとはちゃんと見てあげること、優くんはここから始めようか?」


「うっ、うん、がんばる……」


 他にも有るらしいのだが、僕にはまだ難しいらしい。今の僕に難しいって、ひょっとして普段翼くんがしてるような振る舞いかな?………うん、僕には出来そうにないな。


「お待たせ優くん」


「サキちゃん、あ、あ、あ………」


「あ?」


「あり、ありが、とう……」


 面と向かって言うのがこんなに大変な言葉だったっけ?感謝を伝えるって大変なんだなぁ。


「ふふふ、どういたしまして、さぁ、食べよう?」


「う、うん……」


 顔を赤くして眼を反らす僕を、嬉しそうに微笑むサキちゃん。


「うーん、先は長そうだね」


 しみじみ言う翼くんの言葉に苦笑いしながら夕飯を口に運ぶ。


「………わぁ、これ美味しいね」


「ここの料理は、元三ツ星レストランのシェフが作ってるからね」


 どうりで美味しいわけだ。そこでふと気付く。


「………僕、テーブルマナーとか知らないけど」


 急に食べるのが恥ずかしくなり箸が止まる。


「あはは、そういったものは無いよ、安心して」


 そう言う翼くんは綺麗にフォークとナイフを使っていた。


「……改めて住んでる世界の違いを見た気分だよ」


「その世界にこれから優くんも入っていくだよ、明日から本格的に授業が始まるからね」


「不安だなぁ」


 ため息を吐きつつ、ご飯を食べる。


「食べ終わったらお風呂に案内するよ、この寮はお風呂も自慢だからね」


「うん……」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 夕食後、翼くんと寮備え付けの浴場に来た。


「……予想はしていたけどすごいね」


「でしょう?」


 浴場は銭湯処かスパ位の豪華さはある。


「ジャグジーに、炭酸泉、打たせ湯、露天風呂まで……」


「あ、露天風呂に行くときは気を付けてね、覗きが居るときがあるから」


「覗き!?」


「あ、大丈夫、女の子の覗きだよ?」


 そう言う心配をしている訳じゃないんだけど。


「………」


「露天風呂気になる?」


「い、いや、決して覗かれたい訳じゃ……」


「わかってるよ、大抵は側近の子達が防いでくれるから安心だよ、行こう優くん」


 翼くんに押される形で露天風呂に出ると。


「ふぁぁ、すごいね」


「ふふふ、開放的でいいよね」


 翼くんと湯船に浸かりまったりしていると。


『え!?小南さん親衛隊になったの!?』


 大きな女子の声が聞こえた。


「翼くん、ひょっとして隣って……」


「うん、女子風呂だよ」


 別にどうする気もないけど、何となく恥ずかしくなる。


『はっ!?と言うことは今隣には、小守くんと星川くんが生まれたままの姿で………』


 何だろう背筋がぞくぞくする。


『は、離して小南さん!私にはその姿を生で見て後世に伝える義務が!』


 覗こうとしてる!?


「つ、翼くん!そろそろ中に入ろうよ!」


「え?もういいのかい?もう少しゆっくり露天風呂を楽しんでも」


「う、うん、大丈夫だから、そろそろ内湯に行こう、ね?」


「優くんがそう言うなら」


 翼くんを今度は僕が押す形で内湯に入る、今後は露天風呂に行かないようにしよう。


 その後ようやくゆっくり湯船に浸かりお風呂を出ると。


「あ、サキちゃん」


 既にサキちゃんは出ており少し待たせてしまった。


「サキちゃん、ありがとう」


「ど、どうしたの優くん?」


「優くん、さっきより素直にお礼言えてるね」


 翼くんが少し苦笑いしていた。


 部屋に戻りベッドに横になると直ぐに睡魔に飲み込まれた、疲れもあったのだろうけど、これからの生活に楽しみがあったからか、幸せな気分で眠りに着けた。

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