幼馴染はもふもふが大好き。







「ふむぅ……!」

「このはさん、やっぱり好きだよな。こういうの」

「うん、大好き!」


 パフェをなんとか食べ終えて。

 俺とこのはは、向かいのペットショップの前にいた。

 案の定、彼女は子猫などの小さなもふもふに釘付けになっている。あまり推奨されることではないが、ガラス越しに子猫とハイタッチをして笑顔を浮かべていた。


 なんとも微笑ましい光景。

 俺は後ろから眺めて笑っている不審者になっていたが、それでも構わなかった。

 そう思っていると、不意にこのはが寂し気にこう口にする。


「でも、わたしの家――ペット禁止だから」

「そっか。アパートだもんな」

「うん……」


 しょんぼり。

 肩を落とすこのは。


 そういえば、そうだった。

 彼女は母親との二人暮らしで、ペット禁止のアパートに住んでいる。そうなってくると子猫は彼女にとって、好きなのに手が届かない存在なのだ。

 いまは楽し気に遊んでいるが、それって悲しいことなのではないか。


「ふむ……」


 俺はそこまで考えて。



「あぁ、もしもし? ――母さん?」



 おもむろに、スマホで母親に連絡を取った。





「ふにゃぁん……」

「このは? あまり抱きしめると、モモも苦しいからな?」


 そして、数日後のこと。

 我が家には新しい家族が増えたのであった。

 血統書付きはさすがに無理だったけれど、小さなミックスの子猫――モモが、このはの腕の中で喉を鳴らしている。

 これは簡単な判断ではなかった。命を預かるのだから、責任を負う必要がある。いくら大切な女の子のためとはいえ、安易には決められなかった。


「ももちゃん、むぎゅぅ……」


 それでも、俺は決断したのだ。

 彼女にとって必要なことは、きっと俺にも必要なことだから。

 母さんからは当面の小遣い停止を喰らったけど、これに関しては全然、痛くもかゆくもなかった。足りない分はアルバイトで稼げばいいのだから。


 自分の高校が、バイトを許可しているところで本当に良かった。



「ごろにゃぁん」



 そんなわけで、現在このははモモを抱きしめてベッドに転がっている。

 蕩けた顔をして。キョロキョロと落ち着きのない家族を、優しく撫でるのだ。今まで我慢してきた分、それが爆発している。

 俺はそれを見守って、静かに笑む。

 緩やかに流れる時間の中で、楽し気な彼女を眺める。それは、至福の時。



「みゃあ」




 そして最後に、少女の腕の中で短くモモが鳴くのだった。

 目を細めて。このはに、頬をこすり付けながら。


 

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