鍋消し魔vsラーメンJK


 鍋の透明度を上げると頭痛が柔らぐ気がした。

 だから、私はあらゆる場所で鍋の透明度を上げる。

 身内のパーティーでやるとバレかねないので、やるのは鍋料理を専門に出すチェーン店だ。

 それでどれだけの人達が火傷を負おうと心は痛まない。私を常日頃から苛む頭痛、それが柔らぐなら、私はきっと世界だって滅ぼせるだろう。

「待て」

 今日も今日とて行きつけの鍋チェーン店『オン・ビーフ』で鍋を思う存分消した私は、その帰り道。女子高生に呼び止められた。

 ……なんだろうこの匂いは。ラーメン?

 とんこつスープの匂いの女子高生は私にお玉を突き付けて言う。

「貴様だな。鍋消し魔は」

「そんな仇名がついてんだ。うん。そうだけど?」

「覚悟――っ!」

 私が肯定すると、少女は突撃してきた。

 少女がお玉を振る。すると、

「――ラーメンっ!?」

 お玉の穴を通った空気はアツアツのラーメンになった。クソっ! そんな能力があってたまるか――私は飛び退る。

「一芸特化型だとは、思わないでいただきたいですね!」

 少女が目に手を突っ込む。

 玉子だ!

 アツアツの半熟ゆで玉子が投げつけられる。

「クソっ。なんてもったいないことを。食べものに失礼だと思わないのか」

「アンタに言われる筋合いはねぇんじゃボォケェェェェ――っ!」

 少女が舌を引き抜いた。今度はチャーシューだ。

 髪は海苔に。

 指はもやしに。

「このっ……イカレラーメンJKがっ!」

 私は次々に少女の出したものの透明度を上げ、消していく。ラーメンの具とはいえ、能力によって精製されたものだ。放置しておくのは危険。

「――ぐっ」

 まただ。また頭痛が。

「もらったァ!」

 少女が飛び上がる。ああ、これはまずい――少女は飛び上がるとともに出来立てラーメンになった。御丁寧に丼どころか白米までセットになってる。

 だが、全身をラーメンに変えたことが仇になった。

 私の能力は、任意の、生物以外のモノの透明度を上げる能力。透明度を100%にすれば、消滅させることも可能――!

「そうすると、思いました」

「!?」

 少女が体を元に戻して言った。

 彼女は右に黒の箸、左に蓮華を構え、こちらに接近。

「あなたの頭痛の原因、その能力ごと――いただきます」

 私の体から麺とスープを取り出した! ずるる、と一気にすする!

 この匂いは、塩……だろうか。

 あっさり目の香りに包まれながら、

「……美味でした。ごちそうさま」

 少女のそんな言葉を聞いて、私は意識を失った。

(了)


(お題「透明度」「頭痛」「鍋」)

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