第5話 ママしゃんと僕の家出。

今日でどうやら僕は生まれて7ヶ月になるらしい。

「キッちゃん!!今日はお祝いしようね!!」

目の前に出されたのは真っ白い丸い…なんだこりゃ!?

クンクンしてみると、甘くて美味しそうな匂い。


「待てだよ、待て!!」ママしゃんはそう言うと、細長い棒に何やら熱いものを付けた。


「ハッピバースデー!!キッド!!」ママしゃんが熱いもの消す。そして、その棒が取り除かれる。


「よしっ!キッちゃん食べていいよっ!誕生日おめでとう!!」


食べ物…なんだよね!?僕はペロッと舐めてみた。

お、おいしーーーーっ!!

ハグハグハグッ…!!「あははっ!(笑)キッちゃん慌てて食べ過ぎ!!」

こんなに美味しい食べ物があったなんて知らなかったんです!ママしゃんに感謝です!!

ママしゃんは、いつも僕に優しい。

優しい笑顔で、優しい抱っこで、優しい声で。

こんな時間が続けばいいのに…。


「何でビールが冷えてねーんだよっ!!」「わ、忘れててっ…、今冷たいのを買って来ます!」「誰の金で買うんだ?あ!?俺の金をむやみやたらに使うんじゃねーよ!!」「あなたのビールを買いにっ…!!」「だからぁー…、口答えすんなって言ってんだろーがっ!!」


まただ。一体いつまでこんな夜が続くの!?

ママしゃんが死んじゃう!!助けなくちゃっ!!

僕はケージをカシャカシャと手で動かす。でも、なかなかケージの扉は開いてくれない。


「ギャワンッ!ギャンギャン!!」「うるせぇバカ犬っ!」「グルルルッ…!!グルルルゥゥゥ…ギャンギャン!!」「この犬っ…!!」


男の手によって、ケージが開いた。僕は直ぐ様男のかかとにかじりついた。


「いってぇ!!」「キッちゃん!!」「この犬っ!!」「キャインッ…!!」「辞めてーーっ!!」


僕は首を捕まれ、床へと思い切り叩き付けられた。

身体が…痛い。でも、ママしゃんを守らなきゃ…。


「てめぇがこんなクソ犬買って来るからだろうがっ!!」「キッドになんて事するのっ!?」「噛んで来たバカ犬がわりぃんだろっ!?」


ママしゃんは僕を毛布にくるむと、そのまま家を飛び出した。

走って走って…辿り着いたのはまた病院。

「先生っ!キッドが主人に叩き付けられてっ…!!」「えっ!?」先生と呼ばれる人が僕の身体をペタペタと触る。目には光が当てられて眩しい。


「先生っ!キッドは大丈夫ですかっ!?」「触っても鳴かないので折れたりはしていないでしょう。大丈夫ですが、心の方が心配です。今夜はずっと側にいてあげて下さい。急変したらすぐ電話下さいね。」


「犬にも「心」がありますから。」


ママしゃんに、また迷惑を掛けてしまった。

ごめんね、ママしゃん。僕、心は元気なんだけど流石に身体がまだ痛いや…。


「キッちゃん、ごめんね。ごめんねっ…」

ママしゃん、泣かないで。僕まで悲しくなっちゃうよ。

「クゥーン…クゥーン…」「寒くない?今夜はお外で過ごす事になっちゃうけど…本当にごめんね。」


ママしゃんと一緒なら何処でも大丈夫。

ママしゃんを早く笑顔にさせてあげなくちゃ…。

僕は痛い身体を頑張ってお越し、ママしゃんの顔をペロペロと舐めた。


「くすぐったいよ…(笑)」


笑ってくれた。良かった…

こうして、僕はママしゃんの胸に抱かれいつの間にか眠ってしまった。






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