第6話 DVサイクルの現実。何故か戻ってしまうリアル。

「クワァァァーー。」「おはよう、キッちゃん。」

…ぐっすり眠ってしまった。身体は…もう痛くない。

ここは何処だろう?クンクン匂いを嗅いでみると、どうやら家の近くの公園らしい。


「寒くない?大丈夫!?」僕はママしゃんの手を舐めてみる。

「良かった。お腹空いたよね!?ご飯、どうしようか…」


その時。いつもの「あいつ」が現れた。


「かおり。」「あなた…」「昨日はすまなかった。」

かおり!?かおりって、ママしゃんの名前っ!?

いつも「お前」とか「てめぇ」しか言わなかったから初めて知りました。

…可愛らしい名前ですねぇ…。


「あたしはいいの。キッドにした事が許せない。」「キッドにももう絶対しないよ。本当にすまなかった。」「…本当にキッドだけには辞めて。」「分かったよ。だから戻って来てくれ。」


ママしゃんダメです!!また元の生活に戻ってしまう。この男は反省なんてしてない。今夜もきっと、ママしゃんは怒られてしまう…。


「グルルルッ…」「キッちゃん!?」「キッド、ごめんな。もう2度とあんな痛い思いさせないからな。おやつ、あげるから戻っておいで。」「ヴヴーッ!!グルルルッ!ギャンギャン!!」


「俺にはかおりしかいないんだ。」


泣きながらママしゃんにすがる男。僕は許さない。

大好きな僕の彼女であるママしゃんをいつも殴って叩いて。

僕は…絶対に許さない。


「今回…だけ…」えっ!?ママしゃんっ!?

「ありがとう、かおりっ…!!」


こうして、ママしゃんと僕はまたあの家に戻った。

この日の夜、男は機嫌が良くママしゃんにも優しかった。

そして、僕もケージに入る事なく、ママしゃんの膝の上でウトウトとしていた。


こんな毎日が続くなら、ママしゃんは泣かずに済むのに…。

時折、あいつは俺に媚びを売ってきたが、唸りつけてやった。

俺はママしゃんみたいに甘くはない。

1度された事は2度と忘れない。犬だからってバカにするな!


でも…やっぱり僕が思ったり通り、こんな穏やかな日は長くは続かなかった。

何日が過ぎた日から、あいつはまたママしゃんにも悪口を言っては叩く様になった。


そして、僕はまたケージに入れられ、その様子を吠えながら見ているだけ。ママしゃんを助けるなんて事は出来ない。


ただ、唯一。

あいつは僕がどんなに吠えても、僕に手を挙げる事はしなくなった。


だから、ママしゃんは今夜もあいつに殴られながら夜を過ごす。

我慢我慢の長い夜。それでもママしゃんは「痛い!」と叫びながらもあいつに謝り続ける。

僕は吠える。いつまでも吠え続ける。


僕が、本当は涙を流している事なんて知らずに…。



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