第3話 ママしゃんと初めてのバスタイム。

「キッちゃん!今日はお風呂入るよ!!」

げっ…。お風呂って、あのジャージャーお湯が出てびしょ濡れになるあのお風呂!?


やだやだやだやだ!!僕は家の中を逃げ回り、ママしゃんはそれを追い掛ける。「キッちゃん!!ママも一緒に入るから!!」


…え?ママも一緒に!?

なら入るーーーーーっ!!やったやったぁ!!

僕はちょこんとママしゃんに抱き抱えられ、湯気がたっているお風呂へと足を踏み入れた。

…やっぱりちょっぴり怖い。


ママしゃんの…は、裸っ!!

チラチラ見ては、緊張から口をペロペロしてしまう。


「さっ、ママにだっこして洗おうね!」優しい洗い方。痒い場所まで丁寧に洗ってくれる。

ママしゃんは裸で寒くない!?大丈夫!?

優しいシャワーで綺麗に洗った身体を静かに流してくれる。


そして、心地よい温度の湯船にママしゃんと一緒に浸かり…

僕は目がトロンとしてしまう。


「上がろうか。」えっ、もう?

ヒョイと抱えられ、僕はタオルでワシャワシャされる。そして、お得意の身体をブルブル攻撃!!「うわぁっ(笑)キッちゃん!!」

…ご、ごめんママしゃん。でも、これ犬の特性みたいなものなんだよぉ。


そして、大好きなドライヤー。

ふわぁぁぁー…、気持ちいいー…。

思わずウトウト。はっ!と目を開けると、目の前には笑顔のママしゃん。そして、ブラッシングされてはまたウトウト…。


それの繰り返しで僕は綺麗犬に大変身!!匂いもいい香り!!

これでママしゃんと散歩デートするんだから!!


「キッちゃん、4時だからお散歩行こうか!!」「キャンキャン!!」

やったぁ!!お散歩デートだぁ!!

みんなに見せびらかしてやるんだからね!!


「あら、可愛いチワワちゃんねぇ!」

おばあちゃんそうでしょ!?

「可愛いーーっ!!テクテク歩いてるーっ!!」

でしょでしょ!?そこのおちびさん、分かるねぇ!!


ママしゃんも嬉しそう!!僕はフンフンと鼻をお日様に向けながら歩く。

人間の言葉では「鼻が高い」って言うのかな!?


今日は気分がいい。

ママしゃんも気分が良さそう。ママしゃんが笑顔だと僕も嬉しい。

…嬉しいのに…。


「飯が不味いんだよっ!!」「ご、ごめんなさいっ!!」「このクソ女がっ!!酒も出せねぇのかよっ!」「いっ、今すぐ!!」「この役立たず!」「痛いっ!!」


どうしてこの男の人はママしゃんをいじめるの!?

辞めろ!ママしゃんを叩くな!!ママしゃん、僕をケージから出して!!僕がやっつけてやるんだから!!


「ギャン!!ギャンギャン!!」


「うるせぇ!!クソ犬!!蹴っ飛ばすぞ!!」「キッドには手を出さないでっ!!」「…今、俺に口答えしたな?」「キッドには絶対手を出さないで!!」「このクソ女めっ!!」


なんて僕は無力なんだ。どうして僕は犬に生まれてしまったんだ。

悲しい、悔しい。

ママしゃんが…ママしゃんが床に頭を何度も叩きつけられていのに。

僕は見ている事だけしか出来ない。


「キッちゃん、うるさかったね。ごめんね…」

涙で濡れる顔を舐めてあげる事しか出来ない僕は本当に情けない犬だと思った。



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