011話 だから、武器に毒を塗る


《アンロック:スペルシステム》


《アンロック:連結アニマ》


 …………

 

「ふう……」


 人の指が口の中に歯のように生えている、ウルトラキモい蛙がポリゴンになった。


 ああいう人型じゃない敵はやり辛い。ただまあそんな固くなかったし、簡単だった。


 さて、どこに向かうかな。連絡取れねぇのが痛いな……。オウカも、アキカゼもトバリもどこにいるか全くわかんねぇ。


 俺はこのよくわからん迷路みたいな……建物? うーん、なんて言えばいいんだ……とにかく、ここに飛ばされてから、目についた敵を片っ端から斬りながら知り合いを探していた。


 道中アニマを開放できる《魂珠の碑石》と、スペルを開放できる《魔武の碑石》を見つけられたのは運が良かった。


 でも運が悪かったことが一つ。

 床が腐ってたせいで、それを思いっきり踏み抜いて落ちてしまった。戻ろうとして無理に階段を登ってたりした結果、違う場所に出ちゃってもう迷子だ。


 クソ、こんな歳になって迷子とか……。オウカに笑われる。


 まあ《魔武の碑石》を見つけたのは落ちてからだから結果オーライではある。


 帰り道がわかんねぇし、仕方ないから他の祭壇を探してウロウロしてる。


 ……お、こっち明るいな。ってことは……やっぱり渓谷か!

 ワイバーンに突き落とされてクソデカワニにパックンされたせいで、ものすごく行きたくない。


 ……いや、あの時より結構高い位置にいる。流石にワニも来れないだろ。それに、今はワイバーンも見当たらない。

 ……行くか。


 壁沿いにせり出した足場を歩く。右側には、ここからは繋がってないけど橋がある。

 左はそのまま通路だ。


 ……あれ、壁がさらに割れて、そこに沿って道が曲がってる。渓谷の分岐か?


 その奥はすぐに壁の中に入れるようになっていた。そして左にはちょっとした部屋。その中央には祭壇。あと、側に青い肌の悪魔。


 おっしゃ祭壇だラッキー……じゃねぇよなんかいる!?


「セーブポイントに敵を出すんじゃねぇ!」


「え!?」


「んぁ!?」


 喋った!?


 サソリの尻尾を揺らしながら振り向いた青肌の悪魔の手元には、ホログラフのウィンドウが。


 プレイヤーじゃねぇか! 紛らわしいわ!


 っていうか声からして……。


「……トバリ?」


「え? あ、もしかしてコガラシ!? うわーびっくりした!!」


 はぁー……。変に焦った。とりあえず祭壇に触れて、と。これでリスポーン更新だ。二度と触り忘れて戻されるなんてヘマはしない。


「なんつーか、めちゃくちゃ久しぶりに会ったような気分だな。難易度エグいせいで」


「わかる!! スペルを開放するまでめちゃくちゃ大変だったよ……」


「そうなん?」


「魔法職にしたから、スペルじゃないとまともな魔法が使えないんだよね。杖で撲殺するはめになったよ」


 えぇ……。あー……でもそうか。リアルじゃ魔法なんて使えねぇもんな……。


「最初っから使える魔法とかなかったん?」


「ない。ちなみに、最初の試練は容赦なく魔法撃ってきたよ」


「鬼かよ。難易度設定どうなってんだ……」


「その代わりって言ったら何だけど、割とあっさりスペルの《魔武の碑石》は見つかったよ」


「そうでもしないと無理ゲーだろ」


「ふふ、それよりどう? このアバター!」


「敵かと思った」


「なにー!?」


 青い肌に、白黒反転した目。曲がった角、コウモリの羽、獣毛に覆われた手。あとサソリの尻尾。悪魔然とした、中々に尖った姿だ。


「トバリらしいなとは思うけど……さっきの俺みたいに誤認されても文句言えねぇぞ」


「いいじゃん! せっかくだったんだし!」


「まあ人外になれるゲームなんてそうは無いわな」


 なれても追加部位とかの感覚ないしな。


「ところで何してたんだ?」


「スペル設定してた。もう魔武の碑石は見つけた?」


「ついさっきな。丁度いいや。俺も設定しよう」


 祭壇に触れてウィンドウを開く。


================

○アニマ装備

○スペル作成

○クラス取得

================


 増えてる増えてる。

 さて、やってみるか。

 まずはヘルプ、と。


================

●《スペルシステム》

◇スペルは、スペルパーツを組み合わせて自由に作ることが出来ます。

◇スペルは、威力、範囲などを自由に設定できます。

◇スペルは、設定した威力や範囲に応じて消費MPが決定されます。

================


「これで魔法作れってことか」


「あ、物理攻撃も作れるっぽいよこれ。純粋にスペルって名前になってるだけみたい。ほら、『アニマ』だって他のゲームで言うなら『スキル』って名前になるでしょ?」


「なるほど。……もっといい名前なかったのか?」


 自分で要素を組み合わせて使いやすいアクティブスキルを作れ、ってことか。

 組み合わせる要素によって、物理攻撃にも魔法攻撃にもなると。


 はーなるほど。


 パッシブスキルが『何でも使っていいよ』ってぐらいの丸投げっぷりだったけど、アクティブスキルは『自分で作れ』ってか。 


 《斬撃》《拡大》《射出》《剛断》など、単語の羅列がウィンドウに並んでいる。これが《スペルパーツ》ってわけだな。


「へぇ、やっぱり戦士職は戦士職っぽいスペルパーツが揃ってるんだね。対応するアニマが○○武術って名前なだけはあるね!」


 いつの間にか隣でウィンドウを覗き込んでいたトバリが言う。


「魔法職は違うのか? というかお前クラス何にしたんだ?」


「異教徒」


「えぇ……」


「一番ヒーラーっぽいのがこれだったの!」


「あー……。まあそうかぁ……。ヒーラーって基本光属性だもんな」


 ヒーラーは大抵神官とか、それに値するものがやるけど、このゲームだとそれっぽいのはもうなんか闇に汚染されてるような名前ばっかりだ。まあ、《崇拝者》とか《信悪者》とかより《異教徒》はマシだ。《信悪者》が何なのかは知らない。初めて聞いたわそんな言葉。


 でもよく考えたら全部似たようなもんじゃね?


================

◇スペルパーツは、アニマを装備することで使用可能になります。

◇スペルパーツは、アニマのグレードを上げると強化されます。

◇基礎アニマは多くのスペルパーツを使用可能です。

================


 へぇ。基礎アニマは一つでたくさん使えるようになる、と。

 なら基礎アニマのグレードを上げると、他より多くのスペルパーツが強化されるってことか。


「そう言えばコガラシはどんなビルドにしたの?」


「俺か? そうだな……」


 一言で言うのは簡単なんだけどな。


「このゲーム、基本的に敵が強いだろ? あと、キッチリ急所を狙わないと死なない」


「そうだね。そういう意味で誘導弾は上手く使わないとそんな有効打にならなくてちょっと面倒なんだよね」


「もう誘導弾あんの? まあとにかく。俺の戦法と相性が悪いんだよ」


「どういうこと?」


「相手の武器弾いて隙を作って一撃確殺。これができる相手はどうとでもなるから問題ない。でも問題は隙を作れないような相手だ」


「あー……カスダメが意味ないもんね」


「そう。実力が拮抗してて、削り合いになった場合勝つのは正直厳しい。このゲーム、敵はリアルと同じなのに、なぜかこっちだけ『HP制』なんだよな」


「え? そうなの?」


 あ、後衛職だからそんな傷を負うこともないから気づかなかったパターンか。寄られたらそんなこと考える間もなく終わるだろうしな。トバリはそもそも寄らせねぇだろうけど。


「端的に言えば、『HPが0になるまで死なない』代わりに、『かすり傷の累積で死ぬ』」


 あの『最初の試練』の龍人で例えるのがわかりやすい。


「左腕に斬撃を食らった時、体勢や痛みからして確実に腕を切断されてたはず。でも腕は飛んで行かなかったし、クッソ痛かったけど普通に動いた。欠損もしないって考えるのが良さそうだ。そう考えるとメリットみたいに思えるけど、でかいデメリットも備えてる」


「それがカスダメの累積かー」


「そう。現実でかすり傷をいくら喰らっても、即座に命に関わることはないだろ? 出血多量になるまで傷が出来れば別だけど、そうなる傷はそもそも致命傷クラスだ。だから向こうは、極論『カスダメならいくら喰らってもいい』。対してこっちはHP制。傷がつかない代わり、小さなダメージでもガンガンHPが減っていく。シンプルに不利だ」


「確かに、そう考えると厳しいね……。腕がなくなったりしないってのも前衛にとっては嬉しいことだとも思うけど」


「そう。一長一短なんだよ」


 俺の得意戦法は、隙をついて確殺か、カスダメの累積で削り殺すかなんだよな。後者が選べないのは結構キツい。


 あと、さっきの蛙みたいな、人じゃない相手もしんどい。俺の戦法は、相手が武器を持ってることを半ば前提としている。あの蛙は雑魚だったからどうにでもなったけど。


 オウカが『避けて隙をついて攻撃』なら、俺は『弾いて隙を作って攻撃』だからな。


「これを簡単に解決するには、カスダメを有効打にできればいい。ちゃんと相手を仕留められるような攻撃にすれば、少なくとも削り合いの時は同条件ぐらいには持ち込める」


「うんうん」


「だから、武器に毒を塗る」


「……ん?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る