012話 勝てればいいんだよ


「攻撃ごとに毒になる判定があれば、カスダメをスリップダメージに変換できるだろ? 毒の苦しみで動きが鈍ってくれたら万々歳だな。あとはもうどうにでも料理できる」


「言ってることは正しいのになにかが間違ってるよ!」


「え?《暗殺者》とか《毒術士》ってクラスがあるし、別によくね?」


 名前で『毒殺します!』って全力のアピールしてるじゃん。


「そうじゃないよ……。《鬼武者》だったよね? 正面切って戦うような職業が武器に毒塗ってるんだよ?」


「え、ダメなの?」


「こいつまじかー。知ってたけど」


 なんだよその顔。


「毒が効かなそうな相手にもいいかなって、《呪縛攻撃》ってアニマもつけてみた。《呪縛》って状態異常が入るんだよ。相手の動きがかなり鈍るからめっちゃやりやすくなる」


「ひ、卑怯……!」


「え、そこまで言われる? 有効そうな戦法を突き詰めただけなんだけど」 


「……ステータスとアニマ構成見せてくれない?」


「いいぞ」


================

 コガラシ    :鬼武者

 レベル     :8

 HP      :4770/4770

 MP      :2268/2268

 物理攻撃力   :430

 物理防御力   :383

 魔法攻撃力   :153

 魔法防御力   :185

 敏捷      :232

 技術      :193

 侵食力     :238

 抵抗力     :182

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●キャパシティ上限:8 使用可能:0

◇《鬼武武術》 Ⅰ 基礎 消費1

◇《毒攻撃》  Ⅱ 常時 消費3

◇《呪縛攻撃》 Ⅰ 常時 消費1

◇《毒痺攻撃》 Ⅰ 常時 消費1

◇《反撃毒》  Ⅰ 常時 消費1

◇《反撃呪縛》 Ⅰ 常時 消費1

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「これ……全部状態異常系のアニマ? なんで地力を強化する方向にしなかったの?」


「それだと対応できない敵がいるじゃん? あのクソデカワニとかどうしようもないだろ」


「己の刀一本ですべての敵を斬り伏せる! みたいな気概はないのかー!」


「ない」


 いや無理だろあんなの。


「即答!」


「俺は現実主義者なんだ」


「嘘ばっかり。一応アニマの効果見せて?」


「はいよ」

 

================

●《毒攻撃》

◇常時発動します。

◇自身の物理的攻撃に、対象に悪性状態異常を付与する効果を追加します。

◇《毒》を付与しやすい性質の攻撃であればあるほど、付与する《毒》の効力と持続時間が上昇します。

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「他のは、与える状態異常が《呪縛》と《毒性麻痺》になってるだけだな」


「毒性麻痺って?」


「なんかこのゲーム、麻痺が二種類あるんだよ。《毒性麻痺》と《電気性麻痺》って分かれてる。ややこしいんだよな」


「あーなるほどね。原理の違いで分かれてるってことか!」


 対策するのに二種類必要なのは地味に面倒なんだけどな。こっちから付与する分には耐性の穴を付けそうではある。


「これ付与確率はどんなもんなの?」


「『現実と同じ』だと思うぜ」


「……え、ほんと? やばくない?」


「ヤバい。マジで付与できなかったことが殆どない。強めの敵は一回じゃ発症しなかったけど、仮面の囚人程度ならほぼ100%だ」


 そう。確率書いてないからまさかとは思ったけど、その通りだった。


 現実的に考えて、毒がたっぷり塗られた刃物で斬られたらどうなる?

 そりゃ確率とかで計算するまでもなく普通に毒に侵される。


「しかも斬りまくってればその分だけ判定されて、いつか毒になる。もっと言うと、斬れば斬るほど毒が累積している感じがあるんだよな」


「あー。『毒っていう状態異常=HPの8%ダメージ』とかじゃないってこと? うわーそういう感じかー!」


「そう。多分、『毒のスタック値に応じてダメージ』みたいな感じだぜこれ」


 このゲーム大分リアル志向だからな。毒に侵されてる状態で、さらに毒を浴びたら重症化するのは自明の理だ。


 でも。さらに強い点あるんだよなこれ。


「何よりヤバいのはただのHPスリップダメージじゃないってことだ」


「あー……。何となく察したけど続けて?」


「現実で毒に侵された場合、色んな症状が発生するだろ? 毒によって死に至る場合、平気な顔してていきなり絶命するってことはあんまりない。青酸カリみたいな即効性のある強力なものならまだしも、じわじわHPを減らしていく遅効毒だ」


「…………」


「つまり、毒が体を蝕んで色んな症状が発生する。毒にした仮面の囚人の動きが明らかに鈍ってたからな。まさかと思ったけど案の定だ」


 つまり、HP減少に多数のステータス低下や他の状態異常が付いてるのとだいたい同じってことだ。


 ものすごく強い。

 しかもこういう高難易度ゲームでそれだ。高難易度における状態異常は最強だし。


「もっと言うと、グレードを上げたら目に見えて強くなった。そこら中にいる仮面の囚人をちょっと斬りつけたら、バタッと倒れてそのまま死ぬぐらい」


「うわーーー……。そりゃ強いね。でもえげつないよ!」


「だよな。えげつないぐらい強いぞこれ」


「あ、いや、そういうことじゃなくて……まあいいや」


「ちなみに、《呪縛》は呪いで動きを鈍くする。《毒性麻痺》も通ればもう練習用のカカシとさして変わらない。逆に言えば、敵が使ってきた瞬間に地獄が始まるんだけどな」


「それはそうだね。でも《身体アニマ》に《毒耐性》ってアニマがあるから、そういうので対策取っていけってことなんだろうね。ちなみに、他二つは?」


「ああ、《反撃毒》と《反撃呪縛》か。こんな感じ」


================

●《反撃毒》

◇自身が物理的ダメージを受けた際に発動します。

◇自身の周囲一定範囲に存在する敵対者に、悪性状態異常を付与します。

================


「《反撃呪縛》は呪縛バージョンだな」


「もう……うん」


「こっちの攻撃すらまともに喰らってくれないような強敵相手でも、これとかで弱らせれば勝てるようになるだろ?」


「そうなんだけどさ! そうなんだけどさ! やり口が汚いよ!」


「勝てればいいんだよ。そんなことよりスペル作成のアドバイスないの?」


「そうだなぁ……」


 あっさり話題の転換に乗ってくれたトバリは、自分が開いていたウィンドウをこちらに寄せる。 


「《連結アニマ》は見た? スペルと一緒に開放されてるはずだけど」


「まだ見てない。それはどんなやつ?」


「一言で言っちゃえば、《スペルパーツ》そのものって感じ。装備すれば当然スペルパーツが増えるよ。それでこっからが大事なんだけど、《基礎アニマ》の中にあるスペルパーツは《連結アニマ》《常時アニマ》に同じものがあるっぽいんだよね」


「あ、そうなの?」


「うん。まだ開放段階が浅いから断言はできないけどね」


 ……お、ホントだ。連結アニマと、《鬼武武術》で使えるスペルパーツ両方に《斬撃》があるな。


「話を戻すけど、基礎アニマは一気にたくさん使えるようになる代わりに、パーツの効果が個別で取るよりも落ちるみたい。常時アニマのパーツを基礎アニマで賄っても、パッシブ効果発揮しないしね」


 なるほどな。強さを求めて欲しいやつをピンポイントで選ぶか、纏めてお得にまんべんなく取るか、その辺りを考えろってわけだ。


「ちなみに基礎アニマと連結アニマ両方取ると?」


「さらに強くなる」


 性能面で高みを目指すなら同時取得、と。


 ふーむ。どうしようか。


 でも正直、スペルを使わないと簡単に倒せない敵ってのもそんなにいなさそうなんだよな。クソデカワニとか三つ首の天使とか、使っても倒せそうにないやつはいるけど。


 ひとまず、今までの戦法を補強する形で作ってみようか。

 ふむ。今あるのは……。


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●使用可能スペルパーツ

◇鬼武武術

《斬撃》《刺突》《剛断》《拡大》《飛斬》

◇常時アニマ

《毒攻撃》《呪縛攻撃》《毒痺攻撃》《反撃毒》《反撃呪縛》

================ 


 なるほど。こういうふうに表示されるのか。

 なら試しにこうしてみよう。


================

●《名称未設定》

《斬撃》+《拡大》+《毒攻撃》

◇消費MP  100

◇斬撃威力  0

◇斬撃範囲  0

◇斬撃射程  0

◇毒強度   0

◇毒持続時間 0

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 ふむふむ。この現在値0の数字を、プラスにするかマイナスにするかで効力を調整するわけだ。

 そうだな……。斬撃の威力を控えめにして、範囲と毒の強度に振ってみよう。


================

●《名称未設定》

《斬撃》+《拡大》+《毒攻撃》

◇消費MP  170

◇斬撃威力  -50

◇斬撃範囲  +50

◇斬撃射程  +20

◇毒強度   +40

◇毒持続時間 0

================


 よし。思ったよりMP嵩んだけど、とりあえずコレ使ってみるか。名前は……《毒撃拡大》でいいや。《呪縛》と《毒性麻痺》バージョンも作っとくか。


 《毒攻撃》で十分なような気もするけど、一応。


「……ん? あれこれって……。なあトバリ、これどういうこと?」


 アニマの内容を思い返しながらスペルを作っていると、ふとあることに気づいた。

 《斬撃+拡大》ができるのは分かる。というかこれが基本の使い方だよな。

 なんで逆の《拡大+斬撃》も作れるんだ?


「ああそれ? 順番でも効果変わるんだよね」


「マジで?」


「例えばさ……そうだね、せっかくだから実演するね! ついてきて!」


 楽しそうな表情のトバリに連れられ、祭壇を離れる。

 そして見つけた囚人にトバリは杖を向ける。ホントどこにでもいるなコイツ。


「まず、これが《鎖+誘導+束縛》だよ! “バインドチェイン”!」


 トバリの杖の前に魔法陣が現れ、紫色の鎖がジャラジャラと音を立て射出された。

 動きの鈍い囚人の腹に鎖が巻き付き、拘束する。


「鎖をロープ代わりに使うのか」


「そう。結構ガチガチに拘束できるんだけど、これ杖が使えなくなるんだよねー」


「ダメじゃん」


 味方がいないと近寄って物理で殴るしかなくなるな。でも相当がっしり拘束できてるから、力があればこのまま振り回したりもできそうだ。


「だから、多分正しい組み合わせはこっち! 《誘導+鎖+束縛》の“チェインバインド”!」


 今度は、鎖ではなく紫色の魔法弾が発射された。

 スイーッと飛んで行った魔法弾は、囚人へ当たるように軌道を曲げ、炸裂。


 その瞬間囚人の体から鎖が飛び出し、囚人を巻き込んで床や壁や天井に突き刺さる。

 雁字搦めに囚われた囚人は、か細く身じろぎすることしかできなくなった。


「へぇー……。なるほど。これは面白いな」


「そう! ホント面白いんだけど、色んな組み合わせを試してみないとダメでさー。しかも使ってみないと挙動がよくわかんないのいっぱいあるんだよね!」


「さっきの俺が見てた《拡大+斬撃》とかがそうだな」


 トバリの魔法から推測すると、《メインの効果+付加効果》みたいな形になるんだろうけど……《拡大》がメインだとどうなるんだ?


 《斬撃+拡大》だと、『斬撃が拡大する』。じゃあ《拡大+斬撃》だと……『拡大した斬撃』?


 違いが分かんねぇ。


「さっきのバインド系魔法もさ、あれ《拘束》ってパーツ入れてないと鎖伸ばすだけになっちゃうんだよね。伸びる鎖で腹パンしただけになっちゃった」


「うわ、面倒くさいなそれ。1から作れるって言っても、そういう面倒臭さがあるのか……」


「消費MPとか威力とかも気をつけないといけないしね。繋げすぎると消費MP増えるし、威力上げすぎても消費MP嵩んじゃって常用できなくなるし、過剰火力になっちゃうことも多い。でも逆にさ、消費MPケチりすぎるともう悲しみを感じる威力になっちゃうんだよ!」


「自動設定とかねえの?」


「実はパーツ組み合わせたままの、威力とか何も弄らないデフォルト状態が一番バランス取れてるんだよね。でもそればっかりだと威力が欲しい時とかに物足りなかったり……!」


「なるほど……」


「しかも、さっきの“チェインバインド”みたいな付加効果付きだと、設定項目がめちゃくちゃ増えるんだよね!」


「具体的には?」


「えーと……『消費MP』『誘導弾のダメージ』『誘導弾の大きさ』『誘導弾の速度』『誘導弾の誘導強度』『誘導弾の射程』『拘束の強さ』『鎖のダメージ』『鎖の長さ』『鎖の太さ』『鎖の本数』『鎖の強度』『鎖の持続時間』……だったかな? こんな感じで、追加する効果によっては設定項目がバカみたいに増えて面白いよ!」


 め、面倒くせぇ。


「それでも、多分魔法職はスペルをメインとして戦うのがいいっぽいね。《基礎アニマ》の中の、〇〇武術と〇〇魔術の違いを見てみたけど、明らかに魔術の方がパーツが多かったし!」


「物理職は常時アニマでパッシブを積んで殴る。魔法職はスペルで臨機応変に戦う。って感じか。MPの総量も当然魔法職のが多いだろうしな」


「うんうん! それじゃまた一旦戻ってスペル設定しよう!」


「了解……ってちょっと待て」


 トバリと話していると、いつの間にか通路の奥から、何とも言い難い凄まじい見た目の何かが現れた。


 周囲には仮面の囚人が付き従うようにのそのそ歩いている。

 ……明らかにヤバい。


「うっわきっっっも!!!」


「今回のは特上だな」


 何と言うか……逆さにした人間の、頭から触手が生えて、それが足になっている。そして、ひっくり返った本来の脚の先に、肺と心臓をくっつけたようなグロテスクを極めたような頭……頭? があった。

 無数の仮面の囚人を引き連れるようにして現れたそいつは、ぐちゃりと臓器の頭を動かした。


「うぇぇ……!!!」


「うわぁ……。いや、引いてる場合じゃない。戦闘準備!」


 臓器の頭が動き……横に開いた。

 口かあれ? 見た目最悪すぎる……。こっちの見た目が人外だからって、敵をそれ以上の異形にする必要なんてねーだろ!


 そしてその口が、大きく息を吸い込んだ。


「……ヤバいな」


「う、うん……」


 心臓頭が咆哮を上げる。


「ビャギュアアアアアアアアアーーーーァァァァ!!!!!」


 思わず耳を抑える。ビリビリ震える空気。

 そして、咆哮に呼応し、周囲にいた囚人の仮面が弾け飛ぶ。肉の剥き出しになった悍ましい顔が現れる。


 さらに、囚人は両手足にギリギリと力を込め……。


「逃げるぞ!! 全力で走れ! 俺の方が敏捷は高いだろうけどお前に合わせる!!」


「了解!」


 手枷足枷を文字通り粉砕し、狂奔する囚人の群れが俺たちめがけ走り出した。

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