第一章 17話 中年は難波の闇マーケットにたどり着き、今後を思案する

レイの定義について考えることを放棄したシドーは、ペアルックのレイに話しかける。


「なぁ、その身体ってまた俺の中に戻ったり出来るの?」

『今の時点なら戻れますが、成長してしまうとマスターの細胞と反発しちゃうので無理になります。整合性を取る方法が分かれば出来るのですが。まぁ、この身体自体はアバターなので本体はマスターの中ですよ。だから消えても問題はないですね。』


「とは言えなぁ。同じ記憶を持った別の生命って事だろ、、、何というか」

『あ、マスターってワープとかしたら自分と同じ別の存在とか考えるタイプですか?心配してくれるのは嬉しいですけど、別の自我があるわけじゃないし、そもそも疑似人格なのでご心配なくです♪』


これはワープ等で一瞬で別の場所に行った場合、別の場所の精神そのものは元のものなのか?と言う考え方だ。小指1本から再生できる事が仮に可能だとしてそれで再生した人間は果たして元の人間本人と言えるのか?というものだ。シドーはこれについて疑問をもつ人間だった。


答えの出ない事について考えることを止めて、シドーはこれからどうするかをなんとなしに思いながら大まかだが北西へ向かっていた。


向かう途中、あの集落の異常性が思い出される。閉鎖環境。ジェフという交渉人しか外には出ない。閉鎖環境にもかかわらず長達が自分には旅を勧めながらその夜襲われた事。もしかして集落に入った時点で少なくとも再び出ることは出来なかったのでは。または始末される予定だったか。あそこの文化にしても何というか不自然で無理に不便な生活をしようとしていた。門から出たら追放とかがおかしい。外の情報を入れないようにしているのか。。。


「って考えても自然信仰とかしか答えでないな-。大体ろくでもない目に何度もあったんだし思い出したくもないわ。てかどーでもいい。あの姉妹がかわいかった位しか記憶に残さないようにしよう。ジェフに結果として裏切られたわけだしなー。」


考えはそれで終わった。そろそろ昔どおりの日本地図なら大阪に入っても良い頃だ。あの辺りから旧線路沿いだと東大阪に入るはずだ。その証拠に生駒の山を越えていた。このまま行くと難波という街に着くはず。あれば、だが。


西へ方向転換してから暫く歩くと予想通り難波らしき街へ着いた、布施や鶴橋の街は見つからなかった。位置を間違ったのか無くなったのか。


難波の街の中にいた人に聞くと、ここは先の大戦でも被害が少なくビル群も使用がギリギリ可能な残骸として形で残っている物が多くある。と言っても元々地域柄、雑居ビルが多くその時点でキレイではなかったと言うのは仕方がない。今や廃ビル群の中では数々の闇マーケットがあるみたいで買い物が出来るようだ。


もっとも通貨は紙幣が使えるわけではなく金銀銅鉄の硬貨しかダメなようだ。紙幣なんて統治者の保証がなければただの紙切れだから当たり前なんだが。


当然お金を持っているわけも無く、持っていたイノシシの魔物のなめし中の皮を見せてみたら保存状態が良く好評で5万円で皮職人に売却できた。


ここで貰った硬貨が中銀貨と呼ばれるもので一枚1万円なのだそうだ。鉄は雑硬貨と呼ばれ1円硬貨のみ。小銅貨が10円、中が100円、大が1000円、その次は小銀貨となりこれが5000円、中が1万円、大が5万円。金貨はたった10グラムの小金貨で10万とか。知らない間にまた金の価格が上がったのかと、闇マーケットをぐるりと回ってどういうものが売れるか聞いてみた。


魔物化したイノシシの肉は実は高く売れるそうだった。狩猟が困難と言うのと肉をここまで運ぶのに品質を保つのが困難だからだ。その為、肉は一様に高く荒れる。後は動物、魔物の角と皮。ツメなんかも売れる。シドーはかなり勿体ないことをしたようだ。


あと道具などを売っている店で例のイノシシ石を見せると買取の興味を示された。。


これは魔石と呼ばれ、魔石を使って魔力のないものは魔法を使い、使えるものは自分の魔力を一時的に増幅したり、後は武器防具にはめ込んで攻撃や防御に効果を持たせることが出来るらしい。


魔石にも『獣の魔石』『鳥の魔石』等、元の魔物の生態で性質や効果が変わる。元の魔物の強さで濃度も変わり高級品になるらしい。ちなみに今回の獣の魔石は流通しているものでは下の中位で売れば5万にはなると言われたが、財布の圧迫と何かに使えるかもと思って売らなかった。肉や皮自体は見た目が変わらなければ動物でも魔物でも価値は変わらないそうだ。


「それなりの情報を収集出来たな。物価は高めだけど宿も取れるし調味料も揃えられる。取りあえず2万ほど使って醤油と胡椒と食用油を買えたよ。後はナイフと鉄串を買って必要があればその都度買い足そう。」


『そうですね。これからは私も食べたいですから。』


「そうだったな。それにしてもここは完全にものの売り買いしかやって無くて、世界の情報は余り入らなかったな。いずれ梅田まで出向く必要があるな。ところでレイ、相談というか提案があるんだ。」


『何ですマスター?基本的にマスターの話なら賛成しかしませんけど。』


「うん。ここらで周辺を探索しながら金策も兼ねて身体を鍛えようと思う。もしかしたらあの集落から追っ手が来るかも知れないからさ。それにこの刀も全く使いこなせてないし。あと能力もどう使えば効果的なのか分からないからな。」


『そうですねぇ。丁度南東あたりに生物反応が多数あるのでそこで鍛えながら、戦利品をここで換金するのがいいですね』


「良し決まった。場所は旧平野周辺だ!」


ここから、シドーは自身の潜在能力を知ることになる。

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