第一章9話 中年は集落の長に啖呵を切り、長は仮初めの和解する。

シドーが門を抜け集落に入ると歓声に包まれた。周りから「あいつは何者だ?」とか「ありがとう」やら「凄い速さだったぞ。」等、彼への興味とか詮索が聞こえた。

取り囲まれそうになったので「縁があってジェフの家に来ているシドーと言います。お騒がせしました。あと、塀を跳び越えてすいません。」と言ってジェフの家に戻ろうとした。


シドーは門の存在と門番の役目を無視するわけにも行かないので便宜上謝罪しておいた。最も悪いとは全く思っていなかったが。


少し離れた所で、アンナと呼ばれた少女と母親が会話している、どうやら落ち着いたようだ。シドーはほっとした。近づいてみると、どうやら外に出た理由を聞いているようだった。


「なんで勝手に、一人で外にでたの?」

「薬屋さんであの子の薬を買いに行ったら売り切れで、外にある野草の中に薬草があればと思ったの。どの野草が薬草になるかは知ってたし、、、」

「だからって一人で勝手に行っては駄目よ。外はモンスターがいるってわかってるでしょ!」

「でも、この集落の周りには殆どいないと思って、いても見つかる前に逃げればなんとかなると。」


「あの子?病気の家族でもいるのかな?」

シドーは気になったので直接聞いてみることにした。

「アンナちゃん?もう落ち着いた?あの子ってのはキミの家族のことかな?その子の為に薬を探しに行ったの?」

「はい。けど上手く見つからなくて。気がつけば集落から結構離れてしまって、」

「それでモンスターに見つかって逃げてきたけど、体力が尽きて追い詰められた、と。」

「その通りです。ご迷惑をおかけしました。後助けてくれてありがとうございます。」

「まぁ、気をつけなよ。世の中何が起こるかわからないんだしさ。」

と言っていると母親が話しかけてきた。


「あの、、、先ほどは失礼しました。娘を救って頂いたのに何のお礼も言えずすいません。本当にお礼を言って良いか、、」

「別に良いですよ。たまたまそれが出来ただけで僕もモンスターと戦うのは初めてだったのでかなり怖かったですけど、、、おかげで良い経験になりましたから。」


親子に深々とお辞儀をされてジェフと一緒に家に戻ろうとした時だった。ざわざわと周りが騒ぎ出す。ざわざわした音の原因だろうか、少し離れたところから60代位の男が近づいてきた。人が道を空けている。どうやらお偉いさんのようだ。


「あの人がここの集落の長だ」

ジェフが囁いた。

同時に母子が慌てて長に釈明を始めた。

「長この度は本当に申し訳ありませんでした。」

「長、、、勝手に出て行ってごめんなさい。」

長は謝罪を言われたが、集落の皆が見ている手前それを簡単には受け入れることは出来なかった。


「アンナ、それにその母カイヤ。集落の掟は知っているな?」

「は、はい」

母子がおびえている掟とは何だ?カイヤと言ばれた母親の弁明を始めた。

「長!申し訳ありません。ですが薬草がなく病気の子供の為に出て行ってしまったのです。私からよく言って聞かせますので、どうかお許しを、、、」


勝手に外に出てはならないとかそんな所だろう確かにあんな化け物がいるとなると少女一人が出て行くのは危険極まりない。

「駄目だ、掟は掟だ。一歩間違えば村に危険が及ぶところだったんだ。掟破りを許すわけにはいかん。アンナはここから去れ。家族もかばい立てするなら共にここから去れ。」


シドーは最悪のタイミングを見てしまったとレイに心で話しかけた。

「(おい、レイ!なんか超が付く程閉鎖的な所だぞ、ここ。大変なことになってる。どうして俺はこんなトラブルにいつも遭遇するんだ?さっさとジェフの家に向かえば見なくてすんだのに、、、俺ってなんか悪い霊にでもとりつかれてるのか?)」

『マスター、、、マスターの身体をくまなくチェックしましたが、そんなものはどこにもいませんでした!もう運命とかでは?可哀想に。』


「(現時点だけならあの親子の方が可哀想だろ。こんな世界で安全な場所から放り出されたら野生の獣かさっきみたいな魔物のエサまっしぐらだろ)」

『そう思うのなら、助けてあげればどうですか?マスターって論破するの得意でしたよね。』

「お前、また勝手に俺の記憶見たな。。。くそ、しょうがねぇな。」


シドーはいかにも申し訳なさそうに会話に割り込んだ。

「えーと、長さん?長様、私ジェフさんの家で一晩お世話になる予定だった旅人のシドーと言う者ですが?」


長は話の腰を折られたのか、機嫌悪そうに「長で良い。今、こちらの話しをしている。よそ者には黙っていて貰おうか。」と答えた。


しかしシドーにとっては想定通りの答えだった。

「確かによそ者です。でもよそ者からしてもあなたの仰ることにおかしな点が幾つかあると思いますが?そのまま追放なんかしたら長にとっても良くないのではないかなぁと。」


長は苦々しい顔をこちらに向けた。

「何なんだ、よそ者が。何がおかしいと言うんだ。」

シドーはここらの中でガッツポーズをした。話を聞く体制に入った。ここで話を聞かず終わられたら第一関門で終了だった。

「差し出がましいようですが、勝手に出て行った娘を見逃した門番の責任はどうされるおつもりで?門番の仕事を全うしていないことになりますよね。」

「確かにそうなる。それは別で罰を与える」


門番は恨みがましい目でこちらを見る。シドーは、すまんな。ちょっと巻き添えになって貰うよ、と思いながら続けた。

「更に門番を命じているのは長ではないですか?」

「そうだな。」

「では、命じた以上、任命責任が生まれますよね?娘一人すら見逃す門番を配置して集落を危険にさらした責任。もしもそれが魔物が入って来たのだったら?」

「だまれ!それはそうだがよそ者にいわれる筋合いはない!」


すっかり頭に血が上っているようだ。シドーは心中で「(よし怒らせてよそ者扱いしてきた。これで第二関門突破だ。)」


シドーはそのまま落ち着いた口調で話を続けた。

「では、よそ者の立場で言わせて貰いますね。襲われた時点でアナタの集落の住人の女性を門番じゃなく私が助けた、この報酬はどうお考えですか?こちらも命を張って戦って住人を助けたわけですから。お礼を言われて「はいさよなら」って訳にはいきませんよ。もちろん私は集落の長であるあなたに請求します。追放する権限があるなら請求される責任もありますよね。」

「何が欲しいんだ!言ってみろ!!!」

もうカンカンだ。ここが勝負所とシドーは一気に攻めた。


「集落の全ての作物一年分。大事な住民の命ですしそれくらいの価値はあるのでは?命張って助けたんだ。私の生涯稼ぐ金とまで言いませんが、それくらいは頂かないと割に合わない。それを貰って私はさっさとそこの親子と出て行きますよ。まぁ、私はそこの親子に報酬の作物を渡してどこか別の場所まで護衛でもするつもりです。それか、この親子の集落での居住権。」


全然物価がわからないが、見た所ここの集落は裕福さが感じられる。この辺が妥当じゃないかと選択を迫る。この追い込みに長が乗るかどうか、ここの集落の住民は一年分の収穫を渡して追い出す程度の価値なのか?と長の器量の問題にすり替えたのだ。別に米一粒とか極端にしてもよかったがそれをやると頭に血が上った長がキレて失敗する可能性がある。妥当な対価をシドーに渡し、親子とともに追放したら長の権威は失墜するのでは?と問うているのだ。


「ぐぐぐ、、、く、く、うわあっはっはっは。言ってくれるじゃないか。よし、俺の負けだ。お前さん最初から自分の仕事料とアンナの掟破りでチャラって腹積もりだったな。参った参った。確かにこれで追放したら俺は信頼を失うわ。たった作物一年分程度で親子を追放したなんて長として失格だ。」


論理のすり替え成功だ。掟を守ると言う論点から、母子を作物一年分程度にしか見ていないかの人間性の問題にすり替えた事が成功した。冷静に考えたら理屈に穴があるのだが、そこを敢えて突っ込まず、意図を知って乗ってくれたようだ。本当の賭けは『長は本当は追放したくないけど、皆の手前掟を簡単に破れない』だ。


「ありがとうございます。さすがに長と呼ばれるだけの方ですね。寛大でいらっしゃる。」

「久々に大層な詭弁を聞かされた。後で俺の所に顔を出せ。気に入った。大したもんだ。お前には何の特にもならんのに。」

「ま、それはそれで得るものがありましたよ。ここが良い集落って事もわかりましたし。」

「おう、お前も予定がないならしばらくここにいろよ。」

「ありがとうございます。ジェフさんのところで晩ご飯を頂くことになってたので私も追い出されなくて助かります。」


そこでジェフが忘れてたとばかりに長に話し出す。

「あ、そーだ、長。品物売った帰りに日差しにやられて倒れちゃってさ。ヤバいところをその人に介抱して貰ったんだよ。俺の命の恩人でもあるんだった。」

砕けた物言いから関係の近さがわかる。もしかしてジェフのこの集落ではそれなりの者なのだろうか?


「おい、それを最初に言え!行商役の命の恩人なら村の恩人じゃねぇか!すまん。シドーだったか。これはきちんとお礼をさせて貰わないといかん様だ。」


「俺みたいな行商役は危険が伴うし商人とも交渉するから集落ではそこそこ大事なんだよ」

そっとジェフが耳打ちした。それなら最初に言えばこんな博打を打つ必要もなかったのにと、少し恨みがましくジェフを睨んだ。


「よし、これでこの問題は終わりだ!解散!今夜は二回もうちの住民を救ってくれたシドーの歓迎会をするぞ!」


住民から「おおーっ」と歓声が上がる。あ、これは何かにつけて飲みたくなる集団のアレだ、とシドーは感づいた。


『やりましたね、マスター!課題が残る論戦でしたが成功したから良しとしましょうよ。』

「(だよねー。すり替えに気づいて貰って長の器の大きさに賭けるなんて論戦とは言えないよ。あれで失敗したら作物貰ってあの家族と追い出されるところだったわ。まぁ結果オーライだね。)」


ジェフが横にいたので「奥さんの晩ご飯を早めて貰って、それ食べてから歓迎会に行こうか」と提案したら、いつの間にか横に妻のマリーがいて「シドーさん、ご立派でした。ご飯はこんなことがあったんで遅れそうって伝えに来たんだけど。作る必要がなくなりそうね。長の歓迎ならご馳走がでますよー。」と笑顔で話しかけてきた。


「いや、俺はマリーさんの手料理が食べたかったんだけどなぁ、、、」

「嬉しいこと言ってくれますね。じゃ明日はそうしましょう?」

「ですね。今日はみんなで長にご馳走になりましょう!」


その後、集落全体でどんちゃん騒ぎとなり、シドーはこの生活で初となるまともな食べ物をたらふく食べ、酒を飲み。健康な身体に感謝したのだった。

「(あー健康に生きれるってそれだけで最高だわ。)」

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