第一章7話 中年は誰が為に化け物と対峙するのか、

シドーは集落に無事に入り、まずはジェフが休めるように彼に家へ行くことになった。集落の中心に近いところに彼の家はあった。この集落では小麦の他に各種季節の野菜などを栽培していた。作物は街へ届けられ商人ギルドで一括して品物を卸す。各集落から卸された品は商人ギルドが取りまとめ、それぞれ小売に分配され大衆に届くらしい。


「今も昔も物流は変わらないって事か。機能は大幅に劣るけど。」


シドーは独り言をつぶやく。


ジェフの家に着くころには彼は随分と容態が回復し荷台から降り、ドアを開けた。


「シドー、本当にここまで有難う。取りあえず中で茶でも飲んでいってくれ、あと腹は空いていないか?良ければ用意させるが、、、」

と言いかけたところで奥の部屋から女性と男児が出てきた。


「お帰りジェフ、作物は高く売れた?あとそちらの方はどちらさま?」

「おとーさん、おかえり!おしごとおつかれさまです!」

どうやらジェフの妻と子のようだ。

「マリー済まない。取りあえず話は後にしよう。なにせ彼は命の恩人でね。まずはお茶を出してくれないか?」

妻の名前はマリーと言うらしい。


「マリーさん、とお呼びしていいですか?初めまして僕はシドーと言います。」



「ええ、マリーで構いません。夫がお世話になったようで、、、すぐに冷たいものをお出ししますのでおかけになってお待ちくださいな。」

愛想の良い美人な奥さんだ、とシドーは少し羨ましく思った。


「で、そちらはジェフのお子さんかな?」


「あぁ、済まない紹介が変になった。妻のマリーと息子のテリーだ。」


「テリー君、初めまして。僕はシドーだよ。」


「はじめましてテリーと言います!なんかわからないけどおとーさんを助けてくれたんですね!ありがとうございまし!」

元気で利発そうな金髪の子供だ。マリーも多少毛色は違うものの金髪だった事もあり日本人はどうしてしまったのかとシドーは不安になった。


茶が丸テーブルに運ばれ、ジェフ、マリー、テリーそして少し離れてシドーが座る格好になった。

「マリー、実は作物を売った帰りに熱気でやられてしまってね。危うく死にかけたんだ。偶然近くにいたシドーに介抱して貰ったんだよ。」


マリーは驚いて「ジェフ!一体どうして、、、何年も荷運びはやっているのにそんなこと初めてじゃない?道中では水を絶やさないようにしていたのよね?」とテーブルを乗り出さんばかりにジェフに詰めよった。


「い、いやそれが、実はだね、、」

ジェフは気まずそうな顔をしてマリーに釈明する。

「道中で水筒の水を他の人に分けてしまってね。急げば大丈夫かと思ったけど、思ったより日差しがきつくて、、、気がついたら木陰で彼に水を飲まされて横になっていたんだ。」


「お人好しも度が過ぎるわ、何をやっているのよ!あなたに何かあったらどうするつもりだったのよ。まず自分の安全を一番に考えてと言うのはこれで何回目?」


マリーは心境は心配から安心に変わり怒りに昇格した。当然だろうなとシドーは苦笑した。このやり取りを見る限り彼は日常的に他人に善意を施しては妻に心配されているようだ。


「わかってるよ、心配をさせて済まないと思ってるよ。」

ジェフの弁解も恐らく『いつものこと』なのだろう。


「シドーさん、夫を救っていただき本当にありがとうございました。」

マリーが席を立ち深々と頭を下げる。夫にアタリが強いのも何度も心配させた結果で、根は優しくいい人のようだ。


シドー自身も人に会えると思って嬉しくて行ってみたら、たまたまそういう状況だっただけだ。

「マリーさん、座ってください。ほんと偶然でして。それにたいしたことしてないですから。」


マリーも引き下がらない。

「いえいえ、一歩間違えば死ぬところだったのですから命の恩人です!是非、何かお礼をさせて下さい。」


シドーが困っていると、ジェフが話に割り込む。

「と、取りあえず、シドーは腹減ってないか?マリーの作る料理は上手いぞ!うん。嫌じゃなければ是非食べていってくれ!あと、何も返せるものはないが落ち着くまでここの家で泊まって行ったらどうだ?」


マリーもパッと明るくなり笑顔で

「ジェフ!それよ!是非そうしてください!」


シドーも身の振り方も全く決めていなかったので応じることにした。

「ではお邪魔でなければ少しだけお世話にならせて頂きます。」


「お邪魔だなんてとんでもない!」

「おとーさんのお友だちですか?シドー兄ちゃんって呼んで良いかな!ぼくうれしいよ!」

マリーもテリーも歓迎してくれている様だ。



「よし、じゃ晩飯が出来るまで集落の案内をするよ。一応狭い所だからみんなに顔を覚えて貰って置いた方が良いし、じいさん連中に俺の報告がてら紹介するから。聞きたいこともあるんだろ?」

「あ、そうだ。色々と聞きたいこともあったんだった。」



シドーは集落の各施設を案内して貰いながら集落の観察をした。ここは円形の集落で外との敷居として高さ3mほどの石積みの壁がある。集落は階層性になっているらしく中心に行くほど家の景観も立派なもとなっていた。


「中心部はじいさん連中とか集落の大事な仕事をする者、後は多少裕福な連中が住んでる。俺は外に出ると言う危険な仕事もしているから結構な内側に済ませて貰っているんだ。」


シドーは街と集落の道中に危険があるのか?と思った。ここの集落と街以外にも人間や動物が存在するなら、追い剥ぎとか野犬の様な?


「ん?と言うことは道中に追い剥ぎとか獣がでるの?」


「あ、あぁ、シドーはわからないんだったな。道中は野盗や獣も出るがもっと怖いのは魔物がでるんだ。野盗は金や作物で解決出来たり、道に出てくる獣なんかは追っ払えるが魔物は別だ。こっちが喰われる側だから死ぬまで追ってくる。俺たちは【ファーマー】だから戦う才能はないからまともにやっても勝てない逃げるのみだ。集落に連れて行く訳にいかないから必死で巻くか、逃げ切れなければ諦めてヤツ等のエサになるしかないな。」



集落を守るために犠牲になるという物騒な話も驚いたが、それよりもおかしな言葉に思わず聞き返してしまった。

「魔物?おとぎ話に出て来るあの?本当にいるのか?後【ファーマー】って何だ?農民ってことか?」



「ホントに何も知らないのか、、、少なくとも俺が生まれた頃には魔物は当たり前の様にいたさ。時々犠牲者が出てる。後、【ファーマー】ってのは生まれ持った技能と言うか、身に付きやすい技術と言うか、、、すまん。詳しくはじいさん連中に聞いてくれ。シドーは頭が良さそうだし理解できそうだ。俺は昔の歴史ともそーゆーの原理とかを覚えるのが苦手でな、、、」


そんな話をしていると集落中に聞こえるほどの音量でに鐘の音がなり出した。


「魔物がでたぞ!!誰かが引き連れてきたようだ!!すぐに門を閉めろ。中に入れるな!」



噂をすれば、とは正にこの事だろう。

『マスター!門の外で人間と何だか変な生命反応がありますね。これが魔物?あ、これ人間の生命反応が弱い!怪我か衰弱しているのかも。このまま門が閉まったらその人は食べられちゃうんでしょうか、、、?』



「(まじかよ、怖すぎだわ。と言っても俺にはどうすることも出来ないな。)」


『マスター!何を言ってるんですか?その腰に付けた刀は飾りですか?せっかく若くて健康な身体を手に入れたのに。今の身体とその刀なら大抵のものはやっつけられるはず!はず?』



「(レイ。俺に武道の経験はない!入院中にひたすら視聴可能なあらゆる武術の動画とか本も見たけど、こんな記憶は経験に入れちゃダメなヤツ!『俺は最強。但し脳内の想像に限る。』ってイタい人と同じだ。。俺が勝てるはずがなかろうよ。)」



『いえマスター、急ぐので簡潔に報告します。私は解析で大体の強さを把握できます。私が肉体強化をサポートします。ですのでマスターとその刀ならぶっちぎりで勝てるはずです。最悪、勝てなくても今のマスターなら逃げ切れます!』


「(まじでいってるの?いやいや、行きたくないって!でも門の外で人が食い殺されるとかも夢に出てきて、後悔させられるのもなー。何の縁もない人に命懸けになるのもねぇ。まぁ注意を引きつけて逃げるとかだったらできるかな。)」


『マスター!助けるにしてももう時間ありませんよ。門が閉まりそうです!』


「進んで人助けをするタイプじゃないんだよ。仕方ない。新しい身体が何処まで動くのか試すために行くか!」


『それでこそ私のマスターです!さ、急ぎましょう。今から私が筋組織と心臓に干渉して一時的に筋力を高めるので頑張ってください!』



シドーはジェフを置いて門の外側に一目散に駆け出した。やはり筋力アップは伊達じゃなく短距離ランナーの速度で走り続けられる。全身に血が巡るのを感じる。


走りながらレイ会話する

「あと言っておくけど俺、無責任に『頑張れ』って言うヤツは嫌いだから。健康な時に『出来るからやる』って考えで動いてたら、気がついたら俺一人馬車馬の様に頑張る羽目になって。応援を頼んでも『シドーさんなら頑張れば出来ますから!』って逃げられてさ。もうトラウマだし二度とゴメンなの。だからそーゆーのなしで。好きなことなら自然に頑張れるもんだし。それを頑張ってるって自覚しないだろ?」


『すいません!シドーさんの気持ちも知らず適当なことを言って、、、気をつけます。散々頑張りましたもんね。これから楽しく生きましょう!それじゃ今からはこの世界の社会見学です!』

脳内会話を続けながら速度は更に上がり、もうオリンピッククラスだ。

「社会見学か。いいね!探求心をくすぐるわ!うんじゃ、この世界の化け物とやらを拝みに行きますよっと!」


しかしシドーの目前500mで今にも門が閉じかけている。このままでは間に合わない。そう感じた瞬間、左側の小屋の低い屋根が見える。跳べる!小屋の上まで跳び乗り、更に門の手前にある更に高めの屋根へと飛び移る。そのまま加速し、最後は詰め所の屋根から高さ3mの塀を飛び越えた。


跳び越えた先に視界に入ったのは巨木。このままでは激突する。とっさに空中で姿勢を制御し巨木を蹴ろうと足を突き出す、片足だと危険だ。両足に切り替え斜め45度で木を蹴る。大きな音と共に木のしなりで宙に舞う。シドーは身体を丸めて空中シドーは集落に無事に入り、まずはジェフが休めるように彼に家へ行くことになった。集落の中心に近いところに彼の家はあった。この集落では小麦の他に各種季節の野菜などを栽培していた。作物は街へ届けられ商人ギルドで一括して品物を卸す。各集落から卸された品は商人ギルドが取りまとめ、それぞれ小売に分配され大衆に届くらしい。


「今も昔も物流は変わらないって事か。機能は大幅に劣るけど。」


シドーは独り言をつぶやく。


ジェフの家に着くころには彼は随分と容態が回復し荷台から降り、ドアを開けた。


「シドー、本当にここまで有難う。取りあえず中で茶でも飲んでいってくれ、あと腹は空いていないか?良ければ用意させるが、、、」

と言いかけたところで奥の部屋から女性と男児が出てきた。


「お帰りジェフ、作物は高く売れた?あとそちらの方はどちらさま?」

「おとーさん、おかえり!おしごとおつかれさまです!」

どうやらジェフの妻と子のようだ。

「マリー済まない。取りあえず話は後にしよう。なにせ彼は命の恩人でね。まずはお茶を出してくれないか?」

妻の名前はマリーと言うらしい。


「マリーさん、とお呼びしていいですか?初めまして僕はシドーと言います。」



「ええ、マリーで構いません。夫がお世話になったようで、、、すぐに冷たいものをお出ししますのでおかけになってお待ちくださいな。」

愛想の良い美人な奥さんだ、とシドーは少し羨ましく思った。


「で、そちらはジェフのお子さんかな?」


「あぁ、済まない紹介が変になった。妻のマリーと息子のテリーだ。」


「テリー君、初めまして。僕はシドーだよ。」


「はじめましてテリーです!なんかわからないけどおとーさんをありがとう!」

利発そうな金髪の子供だ。マリーも多少毛色は違うものの金髪だった事もあり日本人はどこに行ったのかとシドーは少し不安になった。


茶が丸テーブルに運ばれ、ジェフ、マリー、テリーそして少し離れてシドーが座る格好になった。

「マリー、実は作物を売った帰りに熱気でやられてしまってね。危うく死にかけたんだ。偶然近くにいたシドーに介抱して貰ったんだよ。」


マリーは驚いた顔で

「ジェフ!一体どうして、、、何年も荷運びはやっているのにそんなこと初めてじゃない?道中では水を絶やさないようにしていたの?」


「いやそれが、実はだね、、」

ジェフは気まずそうな顔をしてマリーに釈明している。

「道中で水筒の水を他の人に分けてしまってね。急げば大丈夫かと思ったけど、思ったより日差しがきつくて気がついたら木陰で彼に水を飲まされて横になっていたんだ。」


「お人好しも度が過ぎるわ、何をやっているのよ!あなたに何かあったらどうするつもりだったのよ。まず自分の安全を一番に考えてと言うのはこれで何回目?」


マリーは当然だが、心配から安心に変わり怒りに昇格した。当然だろうなとシドーは苦笑した。このやり取りを見る限り彼はどうやら日常的に他人に善意を施しては妻に心配されているようだ。


「わかってるよ、心配をさせて済まないと思ってるよ。」

ジェフの弁解も恐らく『いつものこと』なのだろう。


「シドーさん、夫を救っていただき本当にありがとうございました。」

マリーが席を立ち深々と頭を下げる。夫にあたりが強いのも何度も心配させた結果のようで、根は優しくいい人のようだ。


シドー自身も人に会えると思った興奮で行ったら、たまたまそういう状況だっただけだ。

「マリーさん、座ってください。ほんと偶然でして。それにたいしたことしてないですから。」


マリーも引き下がらない。

「いえいえ、一歩間違えば死ぬところだったのですから命の恩人です!是非何かお礼をさせて下さい。」


シドーが困っていると、ジェフが話に割り込む。

「取りあえず、シドーは腹減ってないか?マリーの作る料理は上手いぞ!嫌じゃなければ是非くっていってくれ!あと、何も返せるものはないが落ち着くまでここの家でしばらく暮らしていったらどうだ?」


マリーもパッと明るくなり笑顔で

「ジェフ!それよ!是非そうしてください!」


シドーも身の振り方も全く決めていなかったので応じることにした。

「ではお邪魔でなければ少しだけお世話にならせて頂きます。」


「お邪魔だなんてとんでもない!」

「おとーさんのお友だち?シドー兄ちゃんだね!ぼくもうれしいよ。」

マリーもテリーも歓迎してくれている様だ。



「よし、じゃ晩飯が出来るまで集落の案内をするよ。一応狭い所だからみんなに顔を覚えて貰って置いた方が良いし、じいさん連中に俺の報告がてら紹介するから。聞きたいこともあるんだろ?」

「あ、そうだ。色々と聞きたいこともあったんだった。」



シドーは集落の各施設を案内して貰いながら集落の観察をした。ここは円形の集落で外との敷居として高さ3mほどの石積みの壁がある。集落は階層性になっているらしく中心に行くほど家の景観も立派なもとなっていた。


「中心部はじいさん連中とか集落の大事な仕事をする者あとは多少裕福な連中が多いんだ。俺は外に出ると言う危険な仕事もしているから結構な内側に済ませて貰っているんだ。」


確かに街はともかく行き帰りの道中は危険があるのかもなと思った時、ここ以外にも人間や動物が存在してそれが賊だったり野犬の類なのだろうか?


「ん?と言うことは道中に追い剥ぎとか獣がでるの?」


「あ、あぁ、シドーはわからないんだったな。道中は野盗や獣も出るがもっと怖いのは魔物がでるんだ。野盗は金や作物で解決出来たり、道に出てくる獣なんかは追っ払えるが魔物は別だ。こっちが死ぬまで追ってくる。俺たちはファーマーだから戦う技術はないからな。集落に連れて行く訳にいかないから必死で巻くか、後は死ぬしかないな。」



集落を守るために犠牲になるという物騒な話よりも聞き慣れた、いやおかしな言葉に思わず聞き返した。

「え?魔物?おとぎ話の話じゃなくて?あとファーマーって農民って意味でいいのか?」



「ホントに何も知らないのか、、、少なくとも俺が生まれた頃にはそこらでちょくちょく被害が出てるよ。ファーマーってのは生まれ持った、、、それも詳しくはじいさん連中に聞いてくれ。シドーは頭が良さそうだしすぐに理解できそうだ。俺は昔の歴史ともそーゆーの覚えるのが苦手でな、、、」


そんな話をしていると集落中に聞こえるほどの音量でに鐘の音がなり出した。


「魔物がでたぞ!!誰かが引き連れてきたようだ!!すぐに門を閉めろ。中に入れるな!」



噂をすれば、とは正にこの事だろう。

『マスター!門の外で人間と何だか変な生命反応がありますね。これがモンスター?あ、これ人間の生命反応が弱い!怪我をしているのかも。このまま門が閉まったらその人は食べられちゃうんでしょうか、、、?』



「(まじかよ、怖すぎだわ。と言っても俺にはどうすることも出来ないな。)」


『マスター!何を言ってるんでるんですか?その腰に付けた刀は飾りですか?せっかく若くて健康な身体を手に入れたのに。今の身体とその刀なら大抵のものはやっつけられるはず!はず?』



「(レイ。俺に武道の経験はない!入院中にひたすら見た動画の中に剣術はあったけど通信剣道初段ってヤツだ。俺が勝てるはずがないだろ。)」



『いえマスター、急ぐので簡潔に報告します。私は生命力の大きさで大体の強さを把握できます。私が肉体強化をサポートします。ですのでマスターとその刀ならぶっちぎりで勝てるはずです。最悪、勝てなくても今のマスターなら逃げ切れます!』


「(まじでいってる?うわー。行きたくないなー。でも門の外で人が食い殺されるとかも夢に出てきそうだな-。何の縁もない人だろうけど、引きつけて逃げる位できるかな。)」


『マスター!助けるにしてももう時間ありませんよ。門が閉まりそうです!』


「進んで人助けをするタイプでもないのにな。仕方ない。新しい身体が何処まで動くのか試すために行くか!」


『それでこそ私のマスターです!さ、急ぎましょう。今から私が筋組織と心臓に干渉して一時的に筋力を高めるので頑張ってください!』



シドーはジェフを置いて門の外側に一目散に駆け出した。やはり筋力アップは伊達じゃなく短距離ランナーの速度で走り続けられる。全身に血が巡るのを感じる。


走りながらレイ会話する

「あと言っておくけど、俺なんでも頑張れってスタイルは嫌いだから。出来ればそーゆーのなしで。好きなことなら自然に頑張れるもんだし。自覚無しでさ。」


『すいません。気をつけます。散々頑張りましたもんね。これから楽しく生きましょう!今からこの世界の社会見学です!』

更に速度が上がりもうオリンピック級だ。

「社会見学いいね。探求心をくすぐるわ!ほいじゃ、この世界の化け物とやらを拝みに行きますよっと!」


しかしシドーの目前500mで今にも門が閉じかけている。これでは間に合わない。刹那、左側の小屋の低い屋根が見える。跳べる!小屋の上まで跳びのり、更に門の手前にあるより高めの屋根に飛び移る。そのまま加速し、詰め所の屋根から高さ3mの塀を飛び越えた。


跳び越えた先にみえるのは巨木。このままではぶつかる。とっさに空中で姿勢を制御し巨木を蹴ろうと足を突き出す、片足だと危険だ。両足に切り替え斜め45度で木を蹴る。木のしなりで宙に舞う。シドーは身体を丸めて空中で二回転をし、地面に着地。不気味なほどに身体の反応が良い。レイのナビ通りに再び駆けた。


『マスターいました。少女一人と、、、あれが化け物?魔物ですね。』



シドーの視界には、恐怖で腰が抜け、座り込んだ少女がそのままの姿勢で真っ青な顔をして後ずさる。まだ生きていた。シドーは魔物に視点を移す。少女の前にいるのは全身が緑色をした異形の生物。


身長150cm程度か。その身長には不釣り合いな長い手と短い足を生やし、体毛はなく、裸に腰布を巻いている。手には棍棒のような鈍器を持っている。今から少女を撲殺して喰うつもりか。恐がらせるのが好みなのか醜悪な笑みを浮かべている。あれで殴られたら女性は恐らく即死か、気絶。気絶だと生きたまま食われるのか?助けなければ!シドーはさらに駆けた。



「あれってゴブリンって奴か?昔、空想本で見たものにそっくりだ。絶対あの腰布が臭いって噂になるやつだ。スライムと並ぶ知名度抜群の雑魚モンスター代表!」


と言ってみるものの、シドーは全身恐怖に襲われていた。彼にしてみれば長い眠りから覚めた後の数時間で命のやり取りである。怖い、殺されたくない。何より痛いのが嫌だ。恐怖が頭をよぎる。折角生き返ったのにわずか数時間で、体験したことのない状況に流された。



間に合ったか?停止して対峙しながらつばを飲み込む。深呼吸を一つ入れる。10mほど先のゴブリン?はシドーが盛大に蹴った木のきしむ音と突然一人の人間が出てきたことで注意が女からシドーに移っており「ギギッ?」と首をかしげながらこちらを見ていた。しかし醜くニヤつくと再び女を襲おうと棍棒を振り上げる。この距離では少女の前で庇うのは間に合わない。シドーは即座に小石を拾いゴブリンに投擲。命中だ。見事に左目に直撃する。ゴブリンは潰れた目を押さえギギーと嫌悪感のする叫び声を上げてジタバタしている。


今しかない、シドーはポーチから万能錠と固形食料を出し口に含みガリガリに噛みつぶしそれを水で一気に流し込む。一連の無理な運動の清算をしなければ。そして過負荷をかけたことで回復後は更に身体はより強化されるはず。いわゆる超回復だ。出来る手は全て打つ。そしてレイに回復を指示した。



『マスター、回復も速度は早めますので一瞬で終わりますがその分痛みが数十倍になります。構いませんね?』

「わかってる。肉体の再構成だろ?筋肉痛の長時間の痛みを一瞬で済ませるって事だ。激痛で意識を失わない様、気合いを入れてるから、、やれ!!」


「行きますよ、3、2、ドン!」


レイが脳内で言うやいなや一瞬強烈な痛みと疲労がシドーを襲う。


事前に飲んだ薬のおかげで直ぐに痛みは消え栄養が補給されてシドーの気力体力ともに充分だ。さらに超回復で筋力も運動神経もほんの数分前より成長している。やるしかない、今やらないと死人が出る。そう念じシドーはゴブリンとの距離をあと少しで刃が届く距離まで詰めた。


ゴブリンらしきモンスターも注意をシドーに移した。完全に敵と認識したようだ。


今、新世界で生き延びるための試練が始まった。

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