第一章6話 中年はディストピアに気づかず満喫する

容態が回復した金髪の男ことジェフを荷台に乗せ士道はジェフの暮らす集落へ向かっていた。


「兄ちゃんありがとな。助けてもらった上に運んで貰ってよ。俺を乗せて運べるなんて意外と鍛えてるんだな。北西の街に品物を届けた帰りによ、ふらーっと来たらだんだん気分が悪くなって、兄ちゃんがいなかったらヤバかったよ。」


「熱射病ですよ。帽子も被らず水分取ってなかったらこの日差しだと死ねますよ?助けたことは気にしないで下さい。なんかの縁でしょうし。それに集落?にも興味がありますし。」


「(おい、レイ!どういうことだよ。人がいただけじゃなく集落とか街があるって言ってるぞ。絶滅してねーじゃねーか。)」

『マスター、だから言ってるじゃないですか。崩壊したって。絶滅したわけじゃないんですって。取りあえず様子をみましょうよ。ワタシもまだ何年経ったかも把握できてませんし。』

「(そうだよな。取りあえず人間がいることもわかって安心したし、流れに任せるしかないか。)」


「兄ちゃんどうした、急に黙りだして、、、それにアンタの喋り方変わってるな。どっか遠くの訛りか?」

多少不審げにジェフが問いただしてきた。


「え?あ、まぁ確かに遠くですね。うん遠く。ところで今西暦何年何月です?元号とか?」


「西暦?元号?兄ちゃんおかしな事を言うなよ。今は新歴1033年7月、まぁ夏ってのは何処の地域でも同じだろ?というかお前本当に誰だ?」


「うーん、、わからないんですこれが。名前はシドー。気がついたらこの奥の山にいた。それ以外はホント全然。」

ここで士道は石嶺士道という名を隠してシドーと名乗った。


「シドー?おとぎ話の大魔王みたいな名前だな。いや悪い。人様の名前にケチ付けるつもりじゃないんだ。親が付けてくれた大切なものだしな。探索者ってのもわからないようだし記憶喪失なのかな。なんかわからないけど大変だったんだな。けど冗談でもあの山から来たとか言うなよ。あそこは神がお住まいの山で立ち入り禁止だからな。」

ジェフは横になりながらも少し強い口調で言った。


「そ、そうなのか。頭でも打ったのかな、、本当にわからないんです。山は気のせいだったのかも?ふらふらと歩いていたので。気を悪くしたなら謝ります。」


「助けて貰ったしシドーは悪い奴には見えないから聞かなかったことにしておくよ。後は集落の年寄り連中にでも聞いてくれよ。俺と違って昔のこととか詳しいし。」


台車を引く士道の背中越しにジェフの優しさが伝わる。悪い人間じゃなさそうだ。士道は親は当時で言うところの『毒親』で、どうしてこの親から生まれたのか呪ったこともある。幸い縁を切ることには成功したが、なかなか修羅場だった。


「(取りあえず記憶喪失って事にしたけどこれで正解だよな。無くてもいい記憶だし思い出すのも辛いことの方が多すぎる。もう楽に生きたいな、、、)」


『マスター!黄昏てないで元気出してくださいよー。こっちまで悲しくなります、、、』


「(悪い。ちょっと、な。もう大丈夫だよ。)」


『あ、後マスターって意外と丁寧に話せるんですね。私に対してと扱いが全然違う、、、』


「(あー、そりゃ元はそこそこなオッサンだから。見ず知らずの他人様とお前と同じ口調はいかんだろ。)」


『え?もしかしてワタシってト・ク・ベ・ツってヤツですか♪キャー突然告白されちゃったー。マスターなら良いですよ。ワタシ嫌いじゃないですしー』


「(なにがだよ、この人工知能が!体内に同居している時点で運命共同体。いわば家族みたいなもんだろ?)」


『え?付き合うのもプロポーズもすっ飛ばして家族!マスター大胆!』


「(チガイマス、、、多分妹でもいたらこんな感じだったかも?)」


『うーん。妹かぁ。まぁ現状それで良しとしときますか。』


「(なんだよ、変な言い方して。それと良い機会だし言っておくけど俺の記憶に関するところを緊急事態を除いて許可無くのぞき見するなよ。えーと確か長期記憶は海馬から大脳皮質だっけ。短期記憶は前頭葉?そこはは別に良いけど。)」


『大体マスターの認識で合ってます。確かに人の過去とか詮索するのもダメですよね。スミマセン興味があってつい。気をつけます。触れられたくないことだらけですもんね、マスター。アンタッチャブルマスターに改名しましょうか?』


「(余計な気遣いは良いし、変な名前をつけるのもダメ!とにかく約束だ。同居する上での最低限のマナー。)」


『りょ!』


「(、、、そういやアナタギャルでしたね。その言い方には違和感しかない。。。)」


「シドー、シドー。」

ジェフが声を掛けているのに気づいて脳内会話を急いで終わらせた。


「あ、ご免なさい。ちょっとぼーっとしてましたね。なんか見るもの全てが新鮮な気がして。」


「そっか。まぁ、わからないんだからそうだよな。それよりそこの脇道に入ってくれるか、その先なんだ。」


「わかりました。この脇道ですね。お、ここからは奇麗な道だ。引く力が少なくて済みますね。」


「ここまでしか整地してないもんでな。重かっただろ。ありがとな。」


この時代は舗装された道路なんて当然無く、昔ながらの土と砂の入り交じった地面をゴロゴロと荷車を引いていたので、意外に大変だったのは内緒の話だ。言われた通り脇道から10分ほど行くと、山の中腹にある林の中をくりぬいたように集落があった。近づくにつれ段々と景観がはっきりしてくる。西洋のおとぎ話で見たような石積みの家、高い建物でも2階と屋根裏程度に見える。多少大きめな家は集落の長の屋敷と言ったところか。大体50程度の建物がある。人口は2~300人程度だろう。これがこの時代の規模でも小さいことを願うばかりだ。


申し訳程度の柵があり、その切れ目は出入口か、門番の様な村人が一人立っていた。

ようやくついたのだ。

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