3 廃墟の街


輸送機が着陸のために高度を落とす大旋回をしているときに、良さそうな場所を見つけておいた。

捨てられた街。


到着してみると、街は捨てられてからかなり古い。

が、ほんの一部は要塞でもあったようだ。これは幸運だ。しかも地下壕もある。地下室ではなく、対爆撃用の地下退避壕だ。電気はないが、打ち捨てられたカンテラなどがあった。ソ連軍撤退後4派が争っていた時の名残だろうか。



要塞と言っても、見た目は大きな工場の外観だった。なので最初は工場だと思っていた。隠れるには丁度いい大きさの工場だと思って、入ったのだ。この廃墟の街には程よい小さく目立たない工場様の建物。


幸い、俺達が逃げてきた地域は砂漠ではなく土漠なので、俺らのトレースは難しいだろう。あとは念の為に航空機から見えないようにするだけだ。

なので工場はもってこいだ。人だけではなく車両全数をも隠せる。


開け放ってあるシャッターの中にトラックを突っ込む。ホコリがさほど立たないのは、シャッターが開け放ってあるからだろう。土漠や砂漠は遮るものがないので風が吹く。風が強いから砂漠ではなく土漠になる。

その代わり、遮るものの風上側には砂が積もっていく。ここいら土漠でも数年で小山になるかもしれない。

この要塞は街なかに工場のように偽装してあったので、周囲の建物が防砂林となり、ここが砂の小山と化すのを避けられていたのだろう。


全員をそのまま待機させた。

「建物の強度を調べてくる。ボロボロかも知れないので、安全性が確認とれるまでトラックの周囲にいろ。

倒壊や落下物があったらすぐトラックの下に避難しろ。」

と動かないように指示を与えて。


この建物をざっと見て回ったが、さほど危険な状態にはなっていない。降雨がほとんど無いのだろう。砂と日差しによる劣化くらいしか見て取れなかった。

昔の建物なので樹脂製品(プラスチックス)はほぼ使われていない、ということも、建物の劣化を抑制しているのだろう。

地下壕があったのは朗報だった。それで要塞だろうとチェックっしてみると、案の定、壁などの厚さが民間用工場などに比べ段違いだった。 




トラックの所に戻ると、全員いた。警告を理解できていたようだ。


「全員集合!」

「よし、では今までの事をまず全て説明する。その後食事をする。」



「パリに居た時に世界で同時にいきなり感染性の強い、ワクチンのまだ無い病原菌によるパンデミックが発生した。

世界各国大半は即時国境閉鎖、飛行機も止めた。だから俺達はフランスを出られないでいた。」


「でもー、待っていればおさまったんじゃないの?」

「挙手してから発言しよう。いいな?。そうだ、君の言うとおり収まるだろう、いつかは。で、俺は先程ワクチンがない、と言った。

ワクチンができるまでどのくらいかかるかわかるか?」

・・・・「はい・・」

「はい君」


「通常1年から3年以上かかるとのこと。それは人体による試験も含めてなので、ワクチン自体の大体が完成するまでは早くて半年でしょう」

「よろしい、そのとおりだ。今の技術ではそれがやっとだ。で、あのホテルに半年とどまるとしたらどのくらい資金が必要だろうか?わかる者?」

・・・・・・・・「はい!」

「君」


「ざっとの計算ですが、100人ほどが今の2人から倍の4人の相部屋したとしても25部屋掛ける2万円掛ける30日掛ける6ヶ月で9千万円です。」

「ごくろう。良い計算だ。で、大使館はその資金をかしてもくれなかった。うちらの修学旅行は 代理店を使っていないので、ツケは厳しい。避難先を紹介もしない。ただ待機していろ、だけだった。

で、更に、大使館は緊急避難用航空機の手配などもできなかった。本国が混乱しているのでそれが落ち着くまであそこの日本大使館が何か動きを始めるのは不可能だろう。こうゆう場合本来大使館が独自で動くものなのだが、我が国の大使館はそうではないようだ。

で、誰か?いつ頃落ち着くと思うか?合理的な理由を述べてほしい。誰か?」

・・・・・・・・


「ふむ、、まずワクチンができれば落ち着く。だが1年以上後なのでこれは考慮外。

次に、ウイルスに対する国内体勢が整えば落ち着く。1−2ヶ月で落ち着くと思う者いるか?」

・・・・・・


「そうだ。わからなくてあたりまえだ。国民全員に対する検査を常に行える状態が必要になる。それと充分な隔離施設。早急にそれを行おうったって、世界が同じ状況だ。検査機材の奪い合いが先に起こる。機材を生産しようったって数カ月かかる。国全体がそこそこ整うまで、まず速い国で半年がいいとこだろう。


ではパリにいた俺達はどうしたらよかったろうか?誰か?」

・・・・「はい、、」

「君」


「なんかしらの手段を使って、日本に帰らねばにっちもさっちも行かない状態に陥ることは見えているので、自力 で何らかしらの手段を探す、ですか?」


「そうだ。良いぞ。

先程は言わなかったが、多くの白人の国で、国内全域でかなりの問題が発生した場合、外人にその鬱憤はらしが向く場合が多い、外人とは見た目と言葉で判断がつく者達のことだ。そういう国では景気が悪くなっただけで迫害もひどくなるのば一般的だ。だから残っていたとしても、その問題で特に女子たちにすくなからずの被害はでていたろう。


日本大使館で何も得られなかった俺とサガラ教諭はその後フランス外務省に行き、日本に居るフランス人への緊急避難用航空機を送る場合乗せていってくれと頼んだ。彼らには快く承諾してもらえたが、「いつ出すか不明」と。

このような場合、計画と準備が整っても、俺達のことは忘れ去られている事が多い。なので待っていて連絡が来るのは50%以下だ。よほどの知り合いが居ればそいつが思い出してくれるだろうが、いかんせんそういう者はいなかった。


更に、日本にあるフランス大使館側が独自に動き、日本のキャリアを一台借り切って在日フランス人達をフランスに返す場合、フランスから日本に帰るその便に乗れる者達の選別はここの日本大使館が仕切ることになる。俺達の席はあるかどうか?厳しい所だ。しかもそれは完全な推測だけでどうなるかは全くわからない。


イミグレには、在フランス外人である我々を保護するように頼みに行った。が、ここも混乱でそれどころではないとあしらわれた。政府中央が落ち着くまで無理だとのこと。また、その保護施設での君たち女子の安全確保は学校側では無理だし、俺もそんなところで30人の護衛は不可能。


ただし、空港は機能している。つまり離発着の用意はできている。なので飛ぶ飛行機はあるはずだった。

ただしパリから日本に行くものはまずないので、日本の近くで比較的安全な場所、と言えば、バンコク行きなら少なからずあるだろう、なにせアジアで最も外人が行き来している場所だからだ。

よって、バンコクへ行く便を探した。輸送機でもいい、100人が乗れれば。


だが、今回バンコクへ行くと言っておきながら嘘だったのがリアド行きのあの便だ。

あの国は昔から悪事にことかかない。上がどうしようもない。が、世界であの国に逆らえる国はほとんどない。

今回、出国手続きしなかったよな?

あれで、我々はまだフランスにいることになっている。

サウジがお前たちを奴隷として売り渡そうが、健康な臓器を売り渡そうが、誰も咎めることはできない。

奴等からしたら鴨がネギ背負って来た、ってなわけだ」

「はいっ!」

「君」


「だったらなぜそんなのに乗せたんですかっ!!」

「俺は君たちを乗せていない。君たちが乗りたがったのだ。覚えていないのか?俺とサガラ教諭は反対した。怪しいと。しかし他の教諭全員が半狂乱になって乗るんだとごね、その扇動に乗った生徒たち大半もは狂乱達に賛同していたよな?忘れたのか?」

・・・・・・・

「俺達2人だけ乗らないでもよかったんだ。しかし、他に誰も”判断力”を持つ者がいなかった。仕方がないので乗っただけだ。リアドに着いて、俺もサガラ教諭も居なかった場合、君らのうち何人かはもうどっかの金持ちの家に売られていたろう。いい商品は早いもの勝ちだ。」

・・・・・

「今回も、リアドの空軍基地のあのボロ屋で、俺がサガラ教諭に頼まれなければ今回の作戦は無かった。俺一人なら余裕でどうにでもできたし、サガラ教諭一人だけなら俺は何の問題なく連れ出せた。

だが、サガラ教諭に”もっとも危険に晒されている女子たちをたのむ”とお願いされたのだ。俺には拒否できなかっただけだ。


今回も、燃料が持ちさえすればバンコクに強行着陸し助かったはずだった。が、メンテナンスもろくすっぽできていないのか、あの機体は従来の倍以上燃料を食いやがって、、、せめて欧州の機体だったらあそこまでゴミではなかっただろうに、、


だが、どんな状況でも助かろうと努力すれば助かる。

あのまま事故機に残っていたらリアド並、いやそれ以上の危険が女子たちにはあった。

奴等救急車すら連れてこなかった。しかしトラックはあった。つまり「助ける気はないが、お宝はいただくぞ?」だ。

そういうところが多いのだ世界では。」

依頼じゃなきゃこんな面倒くさいことしたくない。


「はい」

「君」

「で、今後の計画は?」

「良い質問だ。つまり今までのことを理解したからこそ出る質問だろう。」


「まず、ここで君たちに必要最低限のことを覚えてもらう。なぜか?

それはココからバンコクの様な安全な場所まで行くには更に幾度か危機を乗り越えなければならないからだ。

そして、全員揃ってそこにたどり着きたいと思っている。

今日までの疲れも在るし、ここで少々滞在し、君たちがもしはぐれても、一日二日くらいは自分でどうにかできるくらいになってほしい。」

「はい」

「君」


「1日2日持たせられればどうにかなるのですか?」

「俺が迎えに行く」

(((((ほうっ)))))


「・・はい・・」

「君」

「あの、、あなたは、、一体、、誰なんですか?」

・・・・・

「・・見たままだ。吉田吾朗、君たちの同級生。であり、いろいろな経験を持っている者だ。それだけだ」

・・・・



「よし、班分けする。運転出来る者を除き、5列に並べ。」

・・・・・

「俺から見て左から第1班、で、右端の君のところが第5班だ。班長は、、

ここは君、ここは君・・


たぶんその班で最も引率力のある者を選んだはずだ。皆班長に協力し、自分達のすべきことを上手く行えるように助け合い、伸ばしていくこと。

嫌がらせやいじめ、我儘が酷いと俺が思ったら、捨てていく。

そういう者が一人でもいると全員が危険に巻き込まれることになるからだ。


第一、トラックの荷台から食料を降ろす、手伝ってくれ。

第二から第五、幾つかの部屋を掃除し、住めるようにしてくれ。

はじめ!」


さっさと動く者はさっさと動き始めた。何をどうしていいのか見当つかなそうな者は、さっさと動く者を追う。

今までの安全な場所でだったらダラダラするような者は、いなかった。

少なくとも、最低の危機意識を全員が持てた、ということだろう。

優秀な班長が班員に声をかけ始める。それを見て他の班長も同様にしていく。



「運転できる者は俺と一緒の班だ。今日からこのトラックを運転し、この建物周囲を回っていろ。1,2、3速で。明日は俺が更に教えるので今日中にそこまでできるようになっておいてくれ。もしバックするときは、必ず一人が後方で車から離れて、後ろの安全を確認して声掛けすること。轢かれるなよ?病院は無いからな。」

「「はい、、、」」

「不安がるな。運転程度、失敗しても誰もしからないし叱らせない。ただ、失敗や上手く行かない場合は、なぜうまくいかないのか?どうしたらうまくいくのだろうか?と二人して考え、話あえ。いいな?」

「「はい!」」


その後、簡易食による食事。全員でのミーティング。班長を集めてのミーティング。

そして、俺が井戸を発見してきたので、火をおこして一度沸かして飲料水を確保させる。

そしてその井戸水で布を濡らして体を拭く。水がどの程度持つのかわからんのであまり使えない。

そして就寝は、適当にごろ寝。

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