2 脱出


何気に気の合ったその教諭とは1年の頃からバカを言い合える仲だった、仲の良い兄弟のような仲とも言えた。なので、その夢のことも話していた。

今回、この件で教諭達や政府が使い物にならないと知り、どうすればいいのか?を考え始めた時、俺は勝手に幾つもの手立てを思いついていた、いや、今思えば思い出していた、かな?

それをその仲の良い教諭に話した。

「やっぱりな。」彼はそうつぶやいた。俺も薄々感づいていた。

教諭も俺もSFも好きだったのだ。SF好きの「まだ知られていない事実は無数に在る」という思考が根底に在る、という持論を、彼と俺は共有していた。


しかも今回の俺の案は合理的で納得行くもの。ただ、他の教諭に話しても彼らが理解できるだろうか?無理だ。「待機しろ、が大使館からの指示だ」としか思考できないだろう。

なので2人のみでの行動となった。

そして彼と2人だけならば、俺は英語どころかフランス語を使っても問題はない。


ホテルに戻り、他の教諭と喧々諤々の言い合いの末、空港ホテルに部屋が空いていたら移動し、大使館にホテルを変えたという報告だけしておけばいい、ということを彼らはやっと納得したようだった。

この程度すら容易に理解できない者達が教諭をやっているってすごく異常だと、議論ではなく言い合いになっているのを見てて思った。

「チッ、ガキかよ、、」



空港に移ってから翌日、バンコクまで行く便があり、確保できた。

だが俺は凄く嫌な感じがした。そのキャリアはサウジの国営航空。リヤド経由でバンコクに行くという。俺は今回は見送ろうと言ったが、仲の良い教諭が俺の意見を支持したのみで、他の教諭は全員乗るべきだと半狂乱になった。気持はわかかる。バンコクまで行ければ日本は目と鼻の先同様だ。日本人が凄く多いし生活も楽だろう。日本の学校も在るので受け入れてくれる可能性も大きい。今の俺達には可能性の塊の場所だ。


しかし、

案の定、その便はリアドまでだった。

「乗り換えるから、」と外に出され、

「他の便の予定が変更になった」と連れ出され、

着いたところが、空軍の滑走路脇にポツンポツンと立っているボロいレンガとモルタル作りの建物群の一つ。

それらは取り壊しすら面倒で、そのまま放置さらたように見える。が、意図的に残したのだろう。



俺のいた世界でもこの国の特に上の奴等の酷さは有名だった。誘拐や拷問や人身売買など当たり前に行う。

今回は混乱に紛れて俺達一行にフランスの出国手続きもさせずに搭乗させたくらいだ。つまり足のつかない上物だ、奴等にとって。


それを言うと仲の良い教諭は青くなった。

他の教諭は責任を彼に押し付け、だから言ったじゃないか!!とか半狂乱になっていた。俺達は反対したんだがな?お前らが半狂乱になって強行させたんだろう?生徒たちを扇動までしてたし、、

なかにはそれを上回る阿呆が居て


「何もそうと決まったわけではないだろう?!!ほんとに飛行機が無いだけで、俺達は待たされているだけかもしれないじゃないか!!待てばいんんだここで!!」と喚く。

んじゃ一人二人とどんどん連れ出されていったら、貴様は取り戻しに行くんだな?と訊くと、

「まだそんなよまごいごとを言うのか!!そんなことはありえない!!」

と。よくも根拠ゼロで言うよな?しかも自分の発言に全く責任を持たないのだこういう奴は。

まぁ、俺らの国では今はそんなの当たり前にあることだが。



「男はまぁ、どーでもいいわ、でも女子は奴隷としてすぐ国内の有力者達に売られてしまうぞ?どうする?」とその教諭だけ呼んで話した。

全員では100名以上、内女子のみだと30名そこそこ。

素人で、子供、パニックになりやすそうだ。この上もない足手まとい、、、そんなのをこの危険地域からの脱出及び安全圏までの移動。しかも、、その教諭は一緒に行かないで残る。なぜか?俺とこの教師が出てしまったら、残った者達は全く使い物にならないからだ。そして残った者達も俺が連れて行く連中同様以上の足手まといだ、特に教師連中が全くダメだ。どちらがいいか?と問われれば人数が少ないほうがまだマシだ。しかも女なら即射殺はないはずだ。

かつて無いほどのミッション。しかも報酬は無い。更に、経費は俺の自腹だな。


「おまえ一人でなら楽々逃げられるだろう。が、この拉致誘拐をいくら本国に連絡したとしても、相手がサウジだと全く動かないだろう。なので、すまん、悪いが、女子たちだけでも、頼めないか?」

彼にそう言われてしまえば、俺はイヤとは言えない。実の兄貴のような感じだったから。

 


   ーーーーー



俺は闇に紛れて武装を失敬し、離陸間際の輸送機をハイジャックし、女子たちを乗せて飛び立たせた。

通常の大型輸送機であれば無給油でバンコクくらいまで飛べるはず。


そのはずだったのだが、燃料は満タンだと確認したのだが、しかし燃費が通常よりかなり酷かったのか、ぎりぎり持つと思っていたのだが全然だめで、なぜかそこはアフガン上空で、そこで 燃料切れ。積載物を投下して軽くし、直線縦2キロほどある土の街道があったので、そこにめがけて大きく旋回しながら高度を落とす。つっても慣性飛行同様なのでかなり早く高度を下げる。その街道をめがけて胴体着陸。

勿論街道などトラックがすれ違える程度しかない。が、何が隠れているかわからんのっぱらよりはまだマシ。生き残るにはこの「まだマシ程度」も充分重要な要因だ。


ただ、輸送機は目立つので、すぐに来るだろう、お迎えが。

このお迎えが、、敵になるのか味方になるのか?

レーダーマップで見ていた限り、駐留NATOが支配する地域。

安全?いやいや、極上商品だろうよ奴等には。

向こうでも有名だった、NATOの支配地域から住民達がいなくなると。

NATO軍の臓器売買と麻薬売買は有名だ。だが、誰もそれについて阻止どころか批難することもできない。

その現場を見てしまった者達は存在しない。存在させないのだ奴等が。正確には”存在をその場で消す”だな。



俺らがこの機に乗っているなど世界の誰も証明できない。

なので今までになく安全で、しかも日本人、若くきれいな臓器だ。しかも同業者のサウジから飛んできて、更に「事故機」だ。そして30人以上いる。

これほどおいしいものなど無い。難民収容所どころの騒ぎでないくらいおいしいだろう奴等には。

だが、奴等はそれをまだ知らない。たぶんサウジ側は俺達が乗っていることなど言わないはずだ。自分の得物をわざわざ進呈するような民族性ではない。



なので、機の停止と同時に搭乗員を縛って放置。有るだけの武器弾薬、救急キット、水、簡易食料などを奪い、女子たちには2つほど丘を超えた2キロほど離れた茂みに伏せているように言いつけた。

「隠れた後は絶対に立つな、四つん這いもだめ。動く時は匍匐しろ。服の汚れなんぞ死ぬことに比べりゃなんてことないだろう?一人見つかれば全員が死ぬ。」

奪った荷物が多くとも、人数が居るので一人あたり僅かな荷物だ。

全員に聞いたら運転したことが在るという者がいたが、今回は皆と一緒に行かせる。その運転経験が海外だったのでマニュアルでの運転もやったことが在るというのがありがたかった。


2キロでも土漠は歩きにくい。しかしもう着いた頃だろう、30分は経過している。

不時着機のほうにもやっと出迎えの奴等が来た。トラックがいるのは、何か奪えるものがあるだろうという期待からだろう。勿論救助用救急車など連れてきていない。助ける気など僅かもないのがよくわかる。

10キロ程度しか離れていない僻地の小さな基地から半時もかけるのは、「どうせ行き場がない」とたかをくくっているから。NATO支配下のアフガン政府軍しかも僻地もいい所なので、余計だらけているのだろう。


偵察用航空機を出していないのは、基地にそれがないから。勿論他のヘリなどを持つ基地には言わない。獲物を取られてしまうからだ。ということなどが状況から判断できる。


6−7人しか来ていないのは、たかが輸送機なのであまり額を得られないとわかっているのだろう。人数が多いと分け前を与えるとボスの取り分が減る。


200m程離れた小さい丘の上に潜む俺。

パン、パンパンパパン、パンパパンパパン、パン・・・・ 


クリア


ジープを先にいただき、奴等の武器弾薬等を全てジープに乗せ、茂みまで走り茂みにぶち込み、ホロをかけて上に枝をぶちまけておく。

小走りで輸送機まで戻り、トラックもいただく。荷台に死骸を乗せていく。

女子たちに見えないところにトラックを停めて軍服上下を脱がせてから死骸を茂みに隠す。発覚を少しでも遅らせるため。軍服はあとで女子達に着せるため。

トラックを女子たちの方に戻し、荷物と全員載せる。

ジープは運転したこと在るという者のうち自信があるという者に任せる。

助手席にはしっかりしていそうな子を載せ、2人にはヘルメットをかぶらせる。


では出発だ。

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