4 偽装要塞


一晩一班ごとにワッチの仕方を教える。5日、俺はほとんど睡眠不足だ。

朝は体力づくりを兼ねた退避訓練。ランニングをしながら「空、退避」と俺が言ったら空から見えない物陰に隠れる。「12時、退避」は前方から見えないように隠れる。3時は右真横。


その後建物内で朝食。夜など寒い場合はスープだけ温める。焚き火は一階のでかい倉庫のようなところでのみ。

食料も少ないので一回の食事は少ない。皆常に空腹だ。が、危機感が空腹にまだ勝っているようなので、イラつきによる喧嘩などはない様子。


俺は5日に渡ったワッチ訓練後一日ぐっすり眠ってから、夜中に出かけた。





ライトを消しブレーキランプも消したジープを、事故機にたかりに来た奴等の基地、僻地の小基地近くまで走らせる。基地から1キロ弱離れたの小山の背後に隠す。

双眼鏡で2時間程みていると、警備の巡回すらしてない様子。夜間は門兵のみだということ。


その日は倉庫、食堂、兵舎、ガレージの位置確認だけしてもどった。



戻ってから、班長達に銃の扱いを教えた。

弾倉への弾の詰め込み方、弾倉の脱着の仕方、弾の装填、安全装置の使い方、引き金の引き方。

そして「安全な扱い方」。引き金をひく時までは、引き金に指を載せるな、を徹底させた。トリガーガードの上に人差し指を乗せておく。

安全だし、ひく時に迷いが出る暇がなくてよい。


M16なので軽く、扱いやすい。故障し易いが。ここらは土漠だからまだマシだ。砂漠になったら少々不安。

今日は実包を渡さずに、一日中担いでいろ、時間が在ればイメージトレーニングで39発撃ったら弾倉交換。遠い所、近い所、と同じ距離ではなく違う距離を次々に狙って引き金を引いてみろ、と。一応やり方を教えた。

「数え間違えていても1,2発残ってもいいから弾倉を変えるイメージで。打ち尽くして再装填の手間とその間の危険性を考えれば1−2発の無駄はなんでもない。が、実戦では余裕ができたら弾倉は回収すること。余裕がなければしなくてよい。命かけて回収するものでもない。」


その夜中、俺は基地に忍び込み、M16の弾薬の木箱1つ頂いた。

木箱は長さ1mほどとちいさいがかなり重い。この体には堪える。ので、背負う形で田植えほどの前かがみで小走りで戻る。

今俺達には銃は十丁余りある。全員には必要ない、逆に危険だ。

いざという時に最低でも”パニクりながらも冷静に成れる”者、できればパニクらない者だけに使用させる。

全体を見た所、そのような者は10名居るか居ないか、程度。班長は全員その資質が在ると見えた。だから今はとりあえず銃弾さえ有ればよい。

敵の基地から無事に戻ると、ワッチはしっかり監視していた。




翌日から地下壕内で射撃練習。カンテラしかないが、若いから目が良い。

この地下壕は車両が出入りできるシャッターがあるだけあって、かなり広い。端から30mはゆうにある。

縦横がこの建物の大きさ全ての大きさだろう。


ガラクタにヘルメットをかぶせ、地下壕の端、シャッターの前に立てかけた。射撃位置とは逆の端だ。

「ヘルメットの下、ココに当たれば満点だ」

最近の兵士はボディアーマーを来ているのでボディを狙わない。

あれ?以前の俺の時代はそうだったが、この時代はどうなのだろう?とりあえず先進国やNATO軍はボディアーマー着ているはず。


他の子達は走り込み、棒きれで剣術もどき。剣道をやっている者を指導者とした。だがスポーツではないので

「相手を殺すための武術を、おまえが考えて、皆に教えてくれ。それが皆の命を守ることになる。ただ、怪我をしないように工夫して稽古させてくれ。ここには病院は無い。」と。



射撃手として選別した10人のうち、半数はかなり上手かった。姿勢もすぐに身についた。

残り半数はビビリが在って上達を阻害している様子。それでもこの年齢の女の子が、狙って引き金を引けるだけまだマシだろう。


「君たちは自分が生き残るために、君たちは”君たちを蹂躙し殺そうとする者達を殺す”事をしなければならない。自分や仲間を助けるために、相手を殺さねばならない。ゴキブリを潰すのと一緒だ。そう気にするな。

”自分の身を守る事を行う”は、世界では”アタリマエのこと”なのだから。


他の子達にはなかった資質を君たちは持っている。戦える資質、だ。勝てる資質、だ。

あのヘルメットをかぶっているのは、君たちを嬲りものにして、その後内蔵を売りさばいて金を稼ごうとしている鬼畜どもだ。生かしておくと被害者ばんばんを出す奴等だ。

撃ち殺せ。」





翌日夜中には保存食を盗りに行った。何箱かを丘の手前まで一箱づつ運び、あとはゆっくりと丘の向こうのジープに積み込んだ。

これで彼女たちに、毎回腹八分までは十分に食わせていける。



さて、これからどちらに向かおうか、、山積みになった荷が落ちないようにジープを走らせながら俺は考える。

国境を接している国はタジク、ウズベク、トルクメン、イラン、パキ、細い回廊抜けて中国との国境がほんの僅かに。

中国は問題外。あんな回廊通れない。タジク方面も山岳地帯多く、しかも多くの軍が駐留している場所が多い。

ウズベクも国境が短いので警備も厳しいだろう。


なにせNATO軍は中央アジア攻略の拠点としてアフガンを必要としているのだから、そっちの国境は難しいのは当然だ。

で、パキスタン。問題なければそっちに行くのが良いのだが、いかんせん陸軍がなぁ、、

本来パキスタンは反米。陸軍はその最たるものだった。

だが、政府は米支配下で、そのジレンマを長く抱えておかしくなっている。そういう方向になるように仕向けられているのかもしれんが、何にせよ安全とは言い難い。


残るは海か、イラン。海は俺は不得手だ。ドコにどの国の哨戒線があるのかさえ全く知らない。100人乗れる船は大きく、当然警戒される。なので排除。

危険性を前もって予測できないことはしない。


イラン。喧伝されていることとは裏腹な国。こちらの裏を取れれば、安全は確保されるだろう。

基本的に日本や日本人に対しても悪意は無い。国民もパキスタンやインドよりよほど温厚で人が良い。

しかもNATO支配区域から出てかなり行き、国境だ。経路の安全性は高いと思える。その国境を超えてしまえば人身売買も皆無な今時珍しい国に退避できるのだ。実質的には、世界で人身売買が無い国はほぼ無い。


だが、

イランとアフガンの間の国境に、NATOがへんな部隊を潜ましている可能性も少なくない。対イラン工作のためだ。

あそこら辺に常駐しているという噂はかなり以前から有る。


なんでこんなところに落ちやがり、、、、トルクメンくらいであったらどんだけ楽だったか、、、

いや、原因は飛行士達だろうが、奴等が計器に細工したのを見抜けなかったし、地上の景色を確認していなかった俺が悪いのだ。異常に高度を上げていた時点で気づくべきだった。寒くて思考も落ちていたというのもあるし、それが奴等の手の一つだったかもしれない。

何にせよ、一度雲の下に出させれば、海ではないとすぐにわかったのに、、、

まぁ、、海で燃料切れより万倍マシかもしれんが、、


でも、なぜ飛行士達がアフガンを目指した?か意味不明だ。わざわざイランを迂回しパキ領空をそのまま北に向かうなんて、、計器を細工したがいいが、自分らも位置不明になったのか?




などと思案していたら到着。

100m程離れた所で停止し、ワッチに合図を送る。むこうからOKの合図。

車を一階のガレージの奥に入れる。


食料などをトラックの荷台に積み替える。いざという時に即逃げられるように、あまり物資を建物内に持って行ってない。



翌々日夜、基地を偵察に行った。今日は侵入しないでほどほど見たら引き返すつもりだった。


基地に煌々と灯りが灯っている、夜中なのに。

気付かれたかな、、先日はかなあり多く頂いたからなぁ、、、


しかも、その小さな基地からあふれるほど車両が多い。重砲も何門も外に放置している。

装甲車が1両。ゲリラか盗賊レベルだと思われた様子。

その程度だと思われているのであればヘリなど出さないだろう。


ここの政府軍には「飛ぶもの」は虎の子だ。敵側に携帯式対空ミサイルとかあったりしたら大変だ。

なので砲撃+地上部隊のつもりなのだろう。

そして、あの砲であれば地下壕どころか建物も結構へいきだろう。他の一般民家は勿論破壊し尽くされるだろうが。

つまり、奴等はこの地下壕のある施設のことを知らないか忘れ去っているか、だ。4派時代などもう数世代も前のことだろうから、そんなものかもしれない。




俺は帰ってから全員起こし、食事を作らせ取らせ、その間に湯をばんばん沸かして、食後に浴びさせた。

パリ以来の湯浴みだろう。いかにお湯を使っても、拭くだけだと限度もあるし気持が違う。

今はもう井戸を使い切っても良いのだから。


湯浴みが終わった者達は学校の制服を着、一部の銃を持った者達は制服の上に軍服を着させた。



全員湯浴みが終わり集合した。

軍服を来た者達に、全員の前で注意を与える。全員知っておくべきことだからだ。


「捕虜になりそうだと思ったら必ず軍服を脱げ。ヘルメットも捨てろ。向こうの軍服を着ているとその場で処刑されても仕方がない。ただ、戦闘中には制服では目立ちすぎるので命の危険が有る。なので銃を持つ者たちだけ軍服とヘルメットが必要だ。」


その後順次荷物の積み込みに入った。

全て終えた頃、ドーン、という音がし始めた。砲撃音。

「全員地下壕に退避!注意しながら急げ!」


皆走り込みと柔軟やら棒きれでの打ち合いなどで体が結構出来上がってきている。

しかも暴飲暴食は無く、必要最小限の食事のみ。狼とまでは言えないが、野生動物並に締まってきている。

走ったり階段を降りる姿を見ても、体幹ができてきている。

こういうのは銃を訓練させたら面白いのだが、残念ながらそんな時間はない。

即席の場合、体を作ったらすぐ銃をもたせる。その後時間があれば体術。




地下壕に退避し四半時ほど経つと砲撃も少なくなった。

俺は屋上に出て地上軍の進行の土煙を確認した後、

俺らは車に乗り込み、出発した。

基地を背に、つまり敵側を背にし、俺らのいた廃墟の町を間に挟み、そのまま直進した。先にあった小山を超えてから3時方向に向かう。少しの間小山を影にできるから。

ここは土漠だ。道など見えない。無いのだろう。


延々と遅い速度で走る。土漠を早いスピードで走るとタイヤをやられてしまう。なので馬がのんびり走るスピード程度で走る。




日が落ちてから野営。トラックは運転手が2人いるので昼に交替。朝は未明前に起きて出発。

昼間の食事は車内で行う。極力停止しないで距離を稼ぎたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る