2-8 サンミャクノススメ

「ルリ、そっち行ったぞ!」


バトルコンドルなる大型の鳥モンスターを斬り捨て、ツバサが叫ぶ。


「サンダー・バイト」


慌てた様子も見せないルリが手を前方にかざす。それに呼応するように出現した雷の蛇が、もう1匹のバトルコンドルを貫く。

その一度で仕留めるには至らなかったが、雷の蛇はUターンし再度バトルコンドルに襲い掛かり、今度こそ息の根を止めた。

獲物を一撃で倒せなかった場合には、サンダー・バイトはこういう挙動になるらしい。


モンスターを片付け、2人はふう、と一息吐く。

食事処と宿屋で豪遊した翌日から連日、ツバサとルリはギネラ山脈のモンスター討伐依頼を受け続けている。

本日で、開始からちょうど5日目を迎えていた。

本来の目的は記憶の玉探しだが、この山脈はあまりに広く複雑、かつモンスターの数が多いせいで難航していた。

まず、行きたい方向に行けない。

ルリが何となくの記憶の玉の方向を感知し、その方向を目指すのだが、山が連なっているせいで真っすぐ向かう事ができず、山を迂回していたり、通れない道を避けていたりすると、いつの間にか見当違いの方向に出ていたりする。

そして、モンスターだ。

この山脈のモンスターはその多くがCランク相当。

HPにすると、約80~200程。それらと視界も足場も悪いこの山脈で戦うのは、結構大変なことだった。

場所によっては規模の大きな魔法は使えず、自然、近接戦闘担当のツバサの出番が多くなる。

アルテマソードのおかげで攻撃力は格段に上昇しており、先ほどのバトルコンドルのような、防御力がそこまでなさそうなモンスターになら一撃で50ダメージくらいは入るようになっている。

とはいえ、一人だけでさばき切れない状況も多く、ルリの魔法発動回数も多くなる。

結果として依頼達成後、ある程度ルリのMPが少なくなってきたら安全策として一度撤退……を続ける羽目になり、日々ばかりが過ぎていく。遅々として進まない。

本日も結構長い間山脈に滞在しているところだ。


「ルリ、MPはそろそろ危ないか?」


「うん。帰り道を考えると、そろそろ退いた方がよさそう」


ツバサが聞くと、いつもの無機質な声音でルリが答える。


「わかった。退こう」


結局今日も記憶の玉は見つからなかったが、仕方がない。安全第一だ。

肩を落とし、踵を返そうとしたその時、前方の大きな岩陰の方から物音が聞こえてきた。何かがいる。


「新手か!?」


機会があれば言ってみたかった台詞を言ってツバサは身構える。

現れたのは、数メートルはあるドラゴン型のモンスターだった。

体色は茶色で、翼はなく四足歩行をしており、背中に岩のような棘が剣山のように無数に生えている。絶対あの棘飛ばしてくるぞこいつ。


・ガイアドラゴン

 HP380 MP50 SP50

 弱点:なし


ステータスを確認。今までこの一帯で出会ったモンスターの中でも一番HPが高い。

これまでの経験もあり、HPの高さはほぼそのままモンスターの総合的な強さに直結していることはわかっている。間違いなく強敵だ。


「シャイン・スピア」


いつも通り手の早いルリが魔法を発動する。強敵が現れようと一切怯まないその姿勢は流石である。

光の槍は相も変わらず容赦のない頭部狙い。だが、竜の頭部は易々とそれを弾いた。硬い。


「ルリ」


「魔法属性付与:シャイン・スピア」


ツバサの剣が光のオーラを纏う。

強敵相手にはまず強化。2人のこのところの基本戦術だ。

付与する魔法はルリの判断だ。最近はサンダー・バイトであることが多いが、この相手には通りが悪いと思ったのだろう。ツバサもそれには同感。

ガイアドラゴンは咆哮を挙げると共に、背の尖った岩のような棘をツバサに向けて飛ばしてくる。ホントにやってきやがった。

棘と言ってもその1つ1つの大きさは1メートルを超える。それが計5発。


「気刃!」


ツバサは剣を振るい、光属性が付与された気の刃を放つ。その光刃は岩の棘とぶつかり、破壊した。止められる。

それを確認した刹那、ツバサは追加で4発放つ。全て相殺。だが、剣の纏う光が消費され、弱まっていく。過信はできない。


「アイアン・フィスト」


そこでルリの魔法が炸裂する。岩のこぶしが直上からガイアドラゴンの頭部を殴りつけ、その巨体がよろめいた。

光の槍は効果が薄かったが、こちらは効果があるようだ。硬い相手には質量のある攻撃がやはり有効ということか。


「アゲイン、アゲイン」


それを見抜いたか、ルリが同魔法を連発する。

右から、左から、順にガイアドラゴンを殴りつける。その隙にツバサは再度ステータスを確認。半分程度は削れている。

このまま続けていれば勝てそうだが……。


「! 危ない!」


よろめきながらも、ガイアドラゴンはルリの方を向き、口を開いた。そこに光が収束していく。攻撃の予兆である事は明確。

ルリの回避能力はそう高くはない。攻撃は基本的に魔法で相殺するスタイルだが、そうできなかった時、HPの低いルリは……。

ツバサは即座にガイアドラゴンの前まで駆け抜け、ガイアドラゴンの顎を、下からアルテマソードで思いっきり突く。


「その口を……閉じろッ!」


剣が砕ける事も辞さない全力の突きだ。

しかしガイアドラゴンの身体は硬い。その口を閉じさせるまでには至らない。

だがルリが危ないのだ。更に押し込む。

徐々に剣先が鱗を突き破り、その奥の肉まで抉っていく感触が伝わってくる。


「シャイン・スピア。アゲイン」


追撃。ルリの唱えた魔法が、今度はガイアドラゴンの両目に突き刺さる。

竜の防御力は流石に目までは及んでいない。そこへの的確な攻撃が致命打となり、ガイアドラゴンは遂に倒れ伏し、消滅した。


「危なかったな……無事か、ルリ」


「うん。ツバサは、平気?」


「大丈夫だ」


互いに無事で一安心していると、ツバサの脳裏にメッセージが浮かぶ。


『スキル習得:ステータスリンク(ルリ)』


久々のスキル習得にツバサは歓喜する。

しかし、(ルリ)……?

どういう事かと詳細を確認すると、こういう事らしい。


『対象の人物(ルリ)と一定距離にいる場合、全ステータスが上昇する。』


なにこれつっよ。

ここのところずっとルリとひたすら戦闘していた事が習得の鍵だったのだろうか。


「ルリ、今なんかスキル覚えたか?」


こういうのは相互に覚えるものではないだろうか?

そう思ったツバサはルリに問うと、ルリは小さく首肯。


「うん。ステータスリンク(ツバサ)だって。ツバサも、同じやつを?」


「やっぱりか。俺もそうだ」


「おそろい」


……。

そう言われると少し照れくさいのだが。まあ、相手はルリだ。深く考えないようにしよう。




日が傾いたころ、2人はギルドに帰還した。

受付で依頼達成の手続きを済ませる。

ちなみに、預けていた記憶の玉持ちの3体のモンスターの魔石の鑑定は数日前に終わっている。

めちゃくちゃな値段が付いたが、お金に困っていない事と、大金を持つ危険性もあるので、ギルドに預けたままにして貰っている。

なお、ルリの最初の記憶を持っていた青いドラゴンについては完全な新種らしい。

森林王と絶海王は元から存在していたモンスターに記憶の玉が入った……ようだが、青いドラゴンだけはそうでなく、『記憶の玉がそのままモンスターに変化した』のかもしれない。予想の域を出ないが。


「あと、その他のモンスターの魔石も換金頼む」


これもいつもの日課だ。ギルド受付のお姉さんも慣れた手つきで魔石を受け取り、換金作業に入る。


「? 今日は見慣れないのがありますね」


魔石を種類別に分けていたお姉さんが疑問の声を上げる。


「多分ガイアドラゴンのやつだな。今日初めて会ったし」


「ガイアドラゴン……それはまた大物ですね。まあ、お2人の事ですし、今更驚きはないのですが」


少々、呆れ気味に返される。


「そこの2人、ガイアドラゴンを倒したというのは本当か?」


不意に背後から声が掛けられる。

ツバサが振り向くと、そこには冒険者と思わしき男が2人いた。

歳は共に20代前半と思われる。背も共に同じくらいで、ツバサよりだいぶ高い。180センチは超えている。

そして、特徴的な事に顔つきがとても似ている。双子だろうか。


「おっと、急にすまなかった。私はダイン。そしてこちらはカイン。共に勇者パーティーの一員だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生した瞬間に無口で無表情な銀髪美少女と衝突して互いに記憶を失った話 ヤミヤミ @yamiyamidark

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ