2-7 豪遊……!

絶海王を倒した2人は、その日はSP、MP尽きにより撤退。

翌日午前、改めてサマント湾の浜辺で残りのギガントクラブを討伐した。

絶海王が何体も捕食したおかげで、残りは5体もいなかったが。


「『サマント湾浜辺に出現したギガントクラブの群れの討伐』、完了したぞ」


そして同日午後、ツバサとルリは達成報告のためギルドに訪れていた。


「……はい?」


報告を受けた受付のお姉さんは文字通り目を丸くした。


「あー……とは言っても、全部俺たちが倒したわけじゃなくて、10体くらいは絶海王って奴が食いやがって……この場合でも依頼は達成って事になるのか?」


「絶海王!?」


お姉さんが声を張り上げる。森林王の存在はあまり知られていないようだが、絶海王の存在は知られているようだ。


「いや、その場合も依頼は達成で良いのですが……えっ、絶海王? あ、その、ギガントクラブの群れがいなくなっているのなら問題はありません。それよりも、絶海王が出たんですか!? 何処に? 被害は!? 何で無事なんですか!?」


「被害は……ギガントクラブの他はわからないが……俺たちが倒したからもう心配はいらないと思う。これが魔石だ」


「はへ?」


ツバサが大きな魔石を受付に出すと、受付のお姉さんが間の抜けた声を上げた。


「すみません、ちょっとスキル使わせてください。……えっ待って嘘じゃない……? マジ……?」


アリアークの町のギルド長と同じく、嘘を見抜けるスキルを使用したようだった。

それにしても、段々と口調が崩れてるぞお姉さん。


「えっと、はい。失礼しました。どうしよう……。まず、ギガントクラブの群れの討伐結果確認のために職員を派遣して……絶海王の方は……えー……依頼はそもそも出ていないけど、この町最大の脅威なわけだし何もないってわけには……よし、もう全部ギルド長に丸投げしよう!」


何だかやけくそ気味な結論を出すお姉さん。

だが、自分の解決範囲を超えた事態に自分の上司を頼るのは、組織としては正しい姿ではないかと、ツバサは思うのだった。




その後、ツバサとルリはギルド奥の部屋に通され、ギルド長から話を聞き、絶海王討伐の特別報酬を受け取った。

絶海王は不定期に出現し、運行中の漁船や浜辺近くの町を襲ったりしていたようだ。

討伐依頼を出そうにも、周辺の海域全般を住処にしているので出現するまで居場所がわからない上に、出現後は暴食の限りを尽くすと海に姿を消してしまうため、事後対応も難しい状況にあったという。

一度の被害は大きいが、遭遇頻度は年1回あるかないか。かつ討伐はSランクパーティークラスでないと不可能なレベルのため、依頼は出していなかったのだという。

確かに冒険者側としても、いつ現れるか全くわからない超強力なモンスターの討伐なんて言われても困る。割に合わない。


(そんな絶海王が昨日現れたのは……まさかルリの記憶の玉を持っているから、持ち主のルリに引かれた……のだろうか)


ギルドからの帰り道、ツバサはふとそんな事を考えた。

森林王も永らく出現報告がなかったにも関わらず、ツバサたちは遭遇してしまった訳で。


(だとすると……この先も、あんなヤバいモンスターを相手にしなきゃならないのか……?)


記憶の玉を持っているのが全て森林王や絶海王クラスとは限らない。

だが、二連続でこれだ。可能性は無視できないレベルにある。

そして、今までは何とかスキル・ドローで上手く乗り切ってきたが、あれはあくまで博打ということを忘れてはならない。

ツバサとルリ、2人の基礎戦闘能力の増強や強力な武器の入手など、パーティーの地力を上げる必要があるだろう。

幸い、絶海王討伐の特別報酬は破格だった。3年くらいは宿屋に泊まり続ける事が可能な額だ。

記憶の玉を持っていた青いドラゴンと森林王の魔石の鑑定はまだ終わっていなかったが、これが終わればまた報酬を受け取る事が可能なはずだ。ちなみに、追加で絶海王の魔石も預けてある。

そう、金はあるのだ。ならすべきことは一つだ。


「ルリ、買いに行くぞ」


「パン?」


ルリが神速の反応を見せる。だがそうじゃない。


「この町で一番の装備を手に入れる。金にモノを言わせてな」


「ツバサ、何か悪役っぽい」


「……悪かったな」


「でも、賛成。あと、今夜は一番良い宿に泊まろう。金にモノ、言わせる」


何だこいつ天才かよ。


「いいな、もちろんそうしよう」


「あと、今夜は、ごちそうにする」


「ウチのルリはホント天才だなぁ!」


「えっ……」


ついテンションが上がりすぎてしまい、ルリにドン引かれてしまう。

金は人を狂わせるってホントだったんだな。


「……とにかく、まずは装備だな。お互い、最高の装備にしてギルドで落ち合おう」


「うん。パンも、買う。いい?」


「好きなだけいいぞ」


その返事に少しだけ瞳を輝かせ、ルリは小走りに去っていった。

最近少しだけ、表情が豊かになった気がする。


(これも記憶が戻ってきた影響なのかな)


そんな事を考えながら、ツバサも装備を整えるべく武具屋に向かった。




数刻後、ギルドにて。

先に着いたツバサが待っていると、ルリは沢山のパンを抱えて戻ってきた。

……とはいえ、ちゃんと装備も新しくなっているようだ。

相変わらず白魔導士風のローブなのは変わりないが、新たに、胸の部分に青い宝石がはめ込まれている。

ローブは腰から先で分かれており、そこからいつもの青いひざ丈のスカートが見え、覗く白く細い太ももがやはり眩しい。

まるで聖女だ。超似合っていた。コングラッチュレーション。


「これ、強いモンスターの魔石を加工して作られた素材で出来てて、魔法と物理の耐性がかなりあるみたい。高かったけど」


おまけに防御性能も高いときた。

ツバサはというと、軽鎧を新調し、剣もこの町で最高のものにした。

細身の長剣で、その名も『アルテマソード』。名前からして強そうだが、ちょっと名前の圧が強すぎて不安になる。大丈夫だとは思うが……。

そして、今回新たに盾を購入した。

ステータスが上がったからか、最近はほとんど剣を片手で振っていたので、空いた左手で防御ができないか考えたのだ。

剣の腹で防御するにも限界があるし、盾で防ぎつつ剣で攻撃できるようになれば戦略の幅も広がる。

幸い、高価な盾は金属製の割に軽くて耐久性も高く、使いやすそうだった。

ちなみにこれにも魔石を加工した素材が使われているようで、ある程度、魔法の耐性もあるらしい。


「ルリ、お金があるって、素晴らしいな……」


「うん、パンも、こんなにたくさん買えた」


さっきは突っ込まなかったのに主張してくるのか、それ……。

両手いっぱいのパンさえなければ、今のルリは『○○教会の聖女です! 奇跡とか起こせます!』とか紹介しても信じてもらえそうな格好なのに、パンのせいで台無しである。こんな聖女はいない。

まあ、パンはさておき。


「この先の事だが……次の記憶の玉の在り処はわかるか?」


「途中、地図を確認してきた。多分、ギネラ山脈ってところ。ギルドにも、そこの依頼があった。この町から、行ける距離」


「じゃあ、そこの依頼を受けつつ、記憶の玉を探すか。……次はナントカ王とかじゃないモンスターの中にあればいいけど」


「……うん」


ルリの表情が心なしか少し曇って見える。

ツバサが『次も上手くいく保証はない』と心配していたように、ルリも心配なのだろう。


「まあ、その時はその時だ。とりあえず今日くらいは」


日も傾いてきたことだし。お金もあるし。


「ごちそうで」


「最高級宿屋で」


「「豪遊しよう」」

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