2.

「ちょっと! ここの資料棚、いじったの誰!」


「あ、さっき整理したのは私ですけど」


「整理? これが? 年代順にしてあったのに、バラバラじゃない。使いづらいから、すぐに戻して」


「……すみません」


 またやってしまった。年代順より、物品で探すことが多いから並べ替えたのに。どうしていつも、裏目に出てしまうんだろう。


 ファイルの背表紙と中身を確認しながら、入れ替えていく。重たいファイルを抱えながらの作業は結構腕にくる。二度手間で筋肉痛になるとか笑えない。今日帰ったら、お風呂でよくマッサージしなくちゃ。いやいや、冴島さんに料理を振る舞うんだった。こんなことで筋肉痛になってる場合じゃない。


 時計を見ると十一時五十分。やばい、急がないと午後になっちゃう。


 ファイルを整理しながら、スーパーで買うものを考える。今日は寒いから、グラタンとパスタとスープにしよう。エビも冷凍じゃないやつにして、下処理の復習しよう。あと、買うものはなんだっけ。お酒は買ってきてくれるから、バゲットも用意しておこうかな。バターってこの前買ったっけ。覚えてないな。こんなことなら、朝、冷蔵庫の中身をしっかり確認しておくんだった。


「柴田さん、これチェック頼める?」


「はい。あ、えっと」


 突然枝野さんに声をかけられた。考え事をしていたせいで、声がちょっと裏返ってしまって恥ずかしい。


「急ぎで悪いんだけど、午後持ってく資料だからすぐやってもらっていい?」


「あ……、はい、分かりました」


 ファイルの整理はほぼほぼ終わっている。手に持っていたファイルを急いで棚に戻し、渡された資料を持って机に戻る。頼まれたからにはちゃんとやらなきゃ。


「お昼行ってきます」


 あちこちであがる声でもうお昼なんだと知る。みんながお昼で居ない間に終わらせて帰ろう。


 PCのデータと照らし合わせて、数字のミスがないかチェックしていく。


「あれ? 柴田さん、午後休じゃなかったっけ?」


 同期の小波くんが声をかけてくれた。


「あ、うん。そうなんだけど、資料チェック頼まれちゃったから。これ終わったら帰ります」


「チェックくらいだったら振ってくれたらいいのに」


「ありがとう。でも、もうちょっとで終わるし大丈夫」


「そう? それならいいけど」


 じゃ、と小波くんはお昼に出てしまった。


 最後の一ページをチェックして、終わった安堵感からため息がこぼれる。多分これで大丈夫。ポストイットにメモを書いて、枝野さんの机に置いた。


 時間は十二時四十分。帰ろう。

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