第27話
結局、見ていた冒険者の全員がコカトリスの卵の黄身を潰そうと頑張ったが、誰一人として黄身を潰すことのできる者はいなかった。
手伝いがあれば、少し早くプリンができあがるかと思ったけど、どうやら逆に時間がかかってしまったようだ。
オレは、コカトリスの卵の黄身を潰してそこにバッファモーのミルクを入れていく。それを冒険者の人に渡して、かき回してもらうことにした。これならば、コツもいらないし力も必要ないはずだ。ま、まあ、ちょっとだけバッファモーのミルクの粘度が高いから、最初かき混ぜるのが大変かもしれないけれど……。
「かき混ぜてもらえますか?今度は力もコツもいらないですし。」
「お、おう。」
「あ、ああ。今度こそは……。」
「……バッファモーのミルクってめちゃくちゃ粘度が高くなかったか?かき混ぜられるのかよ?」
「そうだそうだ。かなり力がないとかき混ぜられないんじゃないか?」
冒険者の何人かはバッファモーのミルクが粘度が高くかき混ぜるのには力が必要なんじゃないかと言う。もちろん、バッファモーのミルクだけをかき混ぜようとすると粘度が高いので力を相当必要とする。
「バッファモーのミルクと、コカトリスの卵を混ぜ合わせると不思議とバッファモーのミルクの粘度がなくなるんですよ。サラサラとした液体になります。」
オレはコカトリスの卵とバッファモーのミルクの組み合わせについて冒険者さんたちに説明した。コカトリスの卵と混ぜ合わせることで、サラサラな液体になると。
「本当かぁ?」
「信じられねぇなぁ。」
冒険者さんたちはバッファモーのミルクがコカトリスの卵でサラサラになるのを信じられないようだ。オレだって、やってみるまではわからなかったし、それは仕方の無いことだろう。
それにバッファモーのミルクと普通の卵の組み合わせでは粘度は変わらなかった。全然かき混ぜることができなかった。
他の魔物の卵でも試してみたがバッファモーのミルクと一番相性がいいのはコカトリスの卵だった。
「まあまあ。騙されたと思ってかき混ぜてみてください。」
オレはそう言って冒険者さんたちにボウルを持たせた。
恐る恐るボウルの中のミルクと卵をかき混ぜ始める冒険者さんたちの姿をオレはにこにことしながら見つめる。
「えっ!?」
「あれっ!!?」
「なんだ、これ……。」
「うぉぉぉぉ!すげぇ~。」
「面白いわね!これは面白いわ!!」
コカトリスの卵とバッファモーのミルクを混ぜ合わせていた冒険者さんたちの驚きに満ちた声が聞こえてきた。オレは、「うんうん。」とうなずきながらその声を聞いている。
「こんなにサラサラになるだなんて……。」
「これ、飲んだらどうなんだ?」
「飲めそうだな。これ。」
「飲んでみるか……。」
そう、コカトリスの卵とバッファモーのミルクを混ぜた液体はサラサラで飲んでも飲みやすそうだ。
って、そういえばオレ、この液体飲んだことがなかったかも……。
ああ。失敗したなぁ。プリン作るのに夢中になっちゃって、飲んだことなかった。どんな味がするんだろう。まあ、バッファモーのミルクとコカトリスの卵のまざった液体だから……。
砂糖が入ってないからちょっと微妙かもしれないけど、そんなにまずいということはないはずだよなぁ。
ちょっと飲んでみようかな。一口だけでも……。
「うわっ!まずっ!!」
「生臭っ!!」
って、考えてたら既に冒険者さんたちが一口ずつ口に含んでいた。
といっても、犠牲になったのは二人だけみたいだが。
どうやら、とても生臭い液体のようだ。
おかしいな。これに砂糖とバニラの実を入れると濃厚で美味しいプリンになるんだけど。生臭いってどういうことだろうか??
「生臭い……ですか?」
「おうよ!生臭くて飲めたもんじゃねぇ。」
「なあ、あんたはこれ飲んだことあるのか?」
「いいえ。ありませんよ。では、砂糖とバニラの実を入れてプリンにしちゃいましょうか。」
生臭いものをあえて飲む気はしない。
さっさと加熱してプリンにしてしまおうと、オレは冒険者産たちからボウルを受け取りプリンの型に液体を流し入れていく。
そしてお鍋で蒸すこと10分。
美味しい美味しいプリンのできあがりである。
「はい。できましたよ。コカトリスの卵とバッファモーのプリンです。」
オレはそう言ってできたてホヤホヤでアツアツのプリンを皆の前に置いた。個別盛りするだけの器はあるだろうか。
「うまっ!!」
「なにこれ!!美味しい!!」
「オレにも!!オレにも食べさせろよ!!」
「ちょっ!!おまえ食べ過ぎ!!他の奴の分も残しとけって!!」
ちょうどいい器がないかと思ってまわりを見回している間に待ちきれずに冒険者の一人がプリンをつまみ食いしたようだ。それを封切りに、周りで見ていた冒険者さんたちが次から次へとプリンに群がっていく。
オレは慌ててシラネ様とトリスとぴぃちゃんの分のプリンを確保する。
その間も冒険者さんたちのプリン争奪戦はヒートアップしていく。
「わかるわ。その気持ち。このプリンとっても美味しいもの。」
「妾の産んだ卵が役に立っているようでなによりじゃ。」
「ぴぃ~!!ぴぃ~!!」
シラネ様たちは冒険者たちのプリン争奪戦に加わることなく、オレが確保したプリンをまったりと味わっている。
ぴぃちゃんは美味しい美味しいと、まだ飛ぶことができない小さな羽を懸命にパタパタさせて全身でプリンが美味しいとうったえている。
うん。作ってよかったな。皆喜んでくれているみたいだし。
「美味しいから皆に広まって欲しいんですけどねぇ。」
「そうね。でも、原価が高すぎて普通の人は買えないわね。それに食材を集めるのも大変よ。」
「うっ……。」
シラネ様のツッコミに思わず呻いてしまう。
確かに食材に魔物のミルクや卵を使っているから高くなってしまうのだ。
っていうか、コカトリスの卵やバッファモーのミルクを買ったことがなかったから、こんなにも高いものだとは思わなかった。これでは完全に一般庶民には手が出せないだろう。
「う~ん。まあ、妾のように無精卵をため込んでおるコカトリスも大勢いるからのぉ。そやつらから卵を譲ってもらえばよいのじゃ。無精卵は妾たちにとってあっても仕方がないものじゃし、喜んで譲ってくれると思うぞ。」
「えっ!?それほんとう!?」
トリスの言葉にいち早く反応したのはシラネ様だった。
っていうか、無精卵だったらコカトリスたちも喜んで譲ってくれるのか。オレ、そんなこと知らなかった。って、シラネ様も驚いているからシラネ様も知らなかったのだろう。
でも、無精卵の卵をコカトリスたちが譲ってくれるというのならば、市場にコカトリスの卵が出回りだして今より価格が落ちるだろう。そうすれば、少しはプリンを安く作ることができる。
「本当じゃ。無精卵は温めておってもヒナは孵らぬからのぉ。皆自分で食っておる。じゃが、飽きるからのぉ。他の食べ物と交換してやれば喜んで応じるじゃろ。まあ、食べ物には困っていない個体もおるから……その場合は直接交渉してみるとよいのじゃ。」
「へぇ~。」
なんだ。直接交渉すれば、コカトリスから逃げも隠れもすることなく卵をもらうことができたのか。そっかそっか。今までコソコソ逃げ隠れしてたオレが馬鹿みたいだ。
「じゃあ、バッファモーのミルクは?」
シラネ様がトリスに尋ねる。
「知らぬのじゃ。妾はバッファモーじゃないゆえ、他の種族のことなど知らぬ。」
トリスはバッファモーのミルクについては知らないらしい。まあ、多種族にはそれほど感心がないってことかな。
でも、コカトリスの卵のことだけでも聞けてよかった。
「バッファモーのミルクは後で調べるとして……。トリスの情報はとてもためになったよ。ありがとうな。」
「うむ。もっと感謝するのじゃ。」
「はいはい。ありがとう。トリス。」
お礼の言葉とともにトリスの頭を撫でるとトリスは満足したように微笑んだ。
うん。トリスも以外と可愛いかもしれない。
見習い料理人はテキトー料理で今日も人々を魅了する 葉柚 @hayu_uduki
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