第26話








「じゃあ、まずはコカトリスの卵を割っていきますっ!」


 大して広くもないギルドの厨房に冒険者たちが集まっている。先ほど、ギルドの闘技場にいた面々だ。


 皆、オレがコカトリスの卵とバッファモーのミルクを使って作るプリンの見学に来たのだ。別に厨房に来なくても、みんなにプリンを提供するのは変わらないのに。


 みんなプリンを作る過程が気になるらしい。普通のプリンづくりと変わらないのにね。


 オレは木製のボウルを取り出し、その中に割ったコカトリスの卵を入れる。そして、グニグニと卵の黄身と白身を混ぜていく。コカトリスの卵の黄身は弾力が強いので結構力がいる。だが、不思議なことにコカトリスの卵は普通の卵と違って一定以上の強さで黄身を潰すと、サラサラとした液状になるのだ。


 これが普通の卵と違うところだ。普通の卵だと良くかき混ぜないとムラが出来てしまうが、コカトリスの卵は黄身さえ潰すことができればムラが出来るということがない。


 黄身をつぶしてサラサラな液体になったところにバッファモーのミルクを投入する。このバッファモーのミルクは粘度が高い。普通の卵とバッファモーのミルクをまぜても、バッファモーのミルクの粘度が高すぎてまぜることができない。


 けれど、バッファモーのミルクと潰したコカトリスの卵をあわせると不思議なことにバッファモーのミルクがコカトリスの卵に溶け出すのだ。


 この組み合わせを発見した時には、嬉しさで思わずガッツポーズをしてしまったのは秘密だ。


 バッファモーのミルクとコカトリスの卵を混ぜた液ができれば、そこに砂糖とバニラの身を少々入れてかき混ぜる。後は、器に液を流し込んで鍋で蒸かすだけだ。


 なので、手順としてはかなり簡単。


 これが普通の卵でプリンを作ろうとすると裏ごしをしたりいろいろめんどい。でも、コカトリスの卵とバッファモーのミルクを使えば裏ごしなんかしなくても極上のなめらかさをもつプリンが出来上がるのだ。


「なあ!オレにもやらせてくれないか。簡単そうじゃないか。まあ、コカトリスの卵を割ることができねぇけどよ。まぜるくらいだったらオレにもできそうだ。」


 プリンを作っていると、一人の冒険者が自分にもやらせて欲しいと声を上げた。首から下げているタグを見るとどうやらAランクの冒険者らしい。


 Aランクというと上位の冒険者だ。


 この世界の冒険者のランクはSランクからEランクまである。もちろんEランクが一番格下。その次にDランク、CランクBランクと続きAランクが通常取得できる一番上位のランクになる。


 そしてAランクの上にSランクが存在するが通常Sランクになることはない。Sランクといえば、古龍と一対一で戦えるだけの実力を持つ人間に与えられるランクらしい。シラネ様がそういっていた。


 Aランクの冒険者でも、プリン作りたくなるのかぁ。


 どうせまだ卵はあるし、ボウルもまだいくつも残っている。一つずつオレがまぜてもいいけど、料理人じゃなくたってコカトリスの卵とバッファモーのミルクを混ぜるくらいなら、できるだろう。


 そう判断したオレは、


「では、お願いします。コカトリスの卵はオレが割っておきますね。」


 と、手を上げてくれた冒険者の方に混ぜるのをお願いした。


「ああ!まかせておけ!コカトリスの卵は割れないが、混ぜるくらいオレだってできるぜ!」


「コカトリスの卵を割ってくれんだったらオレも混ぜてみたい!」


「オレも!!オレも!!」


「あたしもいいかしら?」


 数名の冒険者たちが自分たちも混ぜてみたいと声を上げた。中には女性の冒険者の姿もある。


「では、みなさんお願いします。」


 手があった方が早く進む。そう思ってオレは声をあげてくれた人たちにボールを私その中にコカトリスの卵を割っていく。


「まずは、コカトリスの卵の黄身をグシグシと力づくで押して割ってください。黄身が崩れるとするっと白身と黄身が混ざっていきます。黄身が崩れたら教えてください。次にバッファモーのミルクを入れていきますので。」


「ああ。わかったぜ。」


「おうよ!」


「ああ。それくらいならできるぜ。」


「ふふっ。簡単そうね。」


「お願いしますね。」


 コカトリスの卵の黄身を割るのはちょっとだけ力がいるけど、まあ問題ないだろう。コカトリスの卵を割るよりは力いらないし。


 そう思ってオレは冒険者さんたちが卵の黄身に挑む横で残ったコカトリスの卵をボウルに割り、混ぜる作業を再開する。


「ぐっ……。」


「うぅ……。か、硬い……。」


「むっ!むっ!」


「ちょ……な、なに、これぇ~。ぜんぜん卵の黄身が潰れないわよぉ!。」


 冒険者さんたちはどうやらコカトリスの卵の黄身をつぶすことができないようだ。


 おかしいな。それほど大変じゃなかったような気がするんだけど……。


「なにっ!?そんなに硬いのか!ちょっとオレにもやらせろ!」


「ええっ!料理人見習いの彼は簡単そうに潰してたけどなぁ。あんたらそろって演技でもしてんじゃねぇの?」


「そ、そんなことねぇって!この弾力がすごくて跳ね返されちまうんだよ!!」


「そうよ、そうよ!!あなたやってみなさいよ!!ぜんっぜん潰れないんだからっ!!」


「そんなに言うならオレが代わってやるよ。」


「オレも代わってやるぜ!」


 冒険者さんたちはそう言って代わる代わるコカトリスの卵の黄身をドスドスと力いっぱいこねくり回す。


 そんなにこねくり回さなくてもいいはずなのになぁ。子供の頃のオレだって、簡単につぶせたのになぁ。


 いや。でも、待てよ。


 コツを掴むまではなかなかつぶせなかったような気がするな。


 オレが考え込んでいる間も冒険者さんたちは代わる代わるコカトリスの卵の黄身をガンガンとこねくり回す。だが、誰一人として黄身をつぶせる者などいなかった。


「あんた……どんだけ馬鹿力なんだよ。」


「「「「「まったくだ。」」」」」


 冒険者さんたちの呆れたような視線がオレに降り注ぐ。


 いらないんだけど、そんな視線。


「あー。ちょっとコツがいるかもしんない。でも、コツさえつかめちゃえばそんなに力いらないんだよ。ほらっ。」


 オレはそう言って、女性冒険者の手からボウルを受け取ると、そっと優しく黄身を一突きした。その瞬間、君が潰れ白身と混ざり合う。


「「「「「はあっ!??」」」」」


 仲が良いのか冒険者さんたちの声が綺麗にハモる。


「えっと、黄身がね。ここが弱点だよって言っているところをついてあげるとそんなに力を入れなくても黄身が潰れるんだよ。うん。」


「「「「「はあっ!!!???」」」」」


「そんなこと聞いたことねぇよ!!!」


 ギルドマスターが叫んだ。
















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