第25話








「……シラネ様。プリン好きだったよね?」


「え?リューニャどうしたの?何を急に……。なんでプリン?」


「ぴぃ?ぴぃ?」


 泣き止んだシラネ様を見つめながらプリンを食べないかと問いかける。


 シラネ様の真っ赤な目がとても痛々しい。


 シラネ様は真っ赤な目でオレを見上げながら、不思議そうに首を傾げた。


 パーティーを組もうという話がなんでいきなりプリンに繋がるのか不思議に思っているようだ。確かに、何の脈絡もないからシラネ様が不思議がるのもおかしなことではない。


 オレには泣いている女の子を慰める術など持っていない。だけど、ここにはいくつものコカトリスの卵がある。バッファモーのミルクだってギルドにあるだろう。まあ、採れたてのバッファモーのミルクはないとは思うから、多少風味が落ちるのは仕方のないことだろう。


 オレにできるのは料理だけ。オレには料理しかできない。


 女の子は甘いデザートが好きだと聞くし、シラネ様もプリンを食べたら気持ちが浮上するかもしれない。


 そう思っての提案だった。


 でも、シラネ様はプリンを拒否するような表情には見えない。逆にどこかプリンを期待しているように目が煌めいたような気がする。……気のせいかもしれないけど。


「うん、今からプリン作るからね。ここにはオレたちが運んできたコカトリスの卵がいっぱいあるからね。みんなにプリンを振舞おうと思って。」


 そう言ってオレはシラネ様に向かってにっこりと微笑んだ。それから、オレはギルドマスターに視線を移す。


「すみません。ギルドの厨房をお借りできませんか?」


「あ、ああ……。」


 ギルドマスターはオレが急にプリンを作ると言い出したことに驚いているのか言葉少なに頷いた。


「それから、バッファモーのミルクと砂糖が欲しいんですけど……。」


「あ、ああ……。砂糖なら厨房にあるから使ってくれ……。だが、バッファモーのミルクなんて高価なもん何に使うんだ?」


「ありがとうございます。これからコカトリスの卵を使ったプリンを作るのに、バッファモーのミルクが必要なんです。普通のミルクだとちょっと味がいまいちなので。」


「はあっ!!?コカトリスの卵をプリンにだとっ!!しかも、バッファモーのミルクもかよ!あり得ないだろ。それ。プリンなんてそこらで買えるだろうが。わざわざ高価なコカトリスの卵とバッファモーのミルクを使わなくてもいいだろうに。そのプリン、一口いくらになると思ってやがんだ。コカトリスの卵だけで一ヶ月は楽に生活できるだぞ。バッファモーのミルクだってコップ10杯分もあれば、一ヶ月楽に生活できるぞ。あんた、金銭感覚大丈夫か?」


 なんだかギルドマスターに怒られてしまった。


 そう言えば、オレバッファモーのミルクの市場価格とか知らなかった。コップ10杯で一ヶ月楽に生活できるだけの収入になるのか……。意外と高いんだな。


 バッファモーからミルクもらうのなんてすごく簡単なのに。きっと子供でも入手できるぞ。オレだって、6歳からバッファモーのミルクもらって飲んでたし。


「そんなに高いんですねぇ。知りませんでした。でも、もうシラネ様にプリンを作るって言ってしまいましたから。」


「……はぁ。わかったよ。で、バッファモーのミルクはどのくらい必要なんだ。」


「えぇと、みなさんも食べますよね?プリン?こんなにコカトリスの卵があるので皆さんが食べるだけはご用意できると思いますよ。」


 さて、プリンを作ると言ってしまったけどどのくらいつくろうか。コカトリスの卵はまだあるし、ここに集まってくれている冒険者が一口ずつ食べるだけは用意できるだろう。あとは、ギルドの厨房がどれくらいの広さかによるけれど。


 オレが周りを見渡して、プリンを食べる人を募るとみんなビックリしながらもおずおずと手を上げた。


 うん。全員だね。


「みなさん食べたいみたいなので、そうですね……一樽くらい欲しいですね。」


「はあっ!!!!?なにいってんだ。おまえ一樽だとっ!!」


「ええ。そのくらいないとみなさんにいきわたらないかと。」


「ちょっと待て、おまえ計算できるか?バッファモーのミルクがコップ10杯分で一ヶ月楽に生活できるんだぞ。一樽といったらコップ……何倍ぶんだ?」


「……はぁ。計算できないのギルマスじゃないの。コップ150杯分ね。ざっと一年以上は楽にくらせるわね。」


 ギルドマスターが計算できなくて首を傾げると、シラネ様がオレとギルドマスターの間に入って計算してくれた。


「そっか。バッファモーのミルクが一樽あると一年は生活できるくらいの資金になるのか。知らなかったよ。」


 オレは関心したように頷いた。


 そっか。バッファモーのミルクってそんなに高い金額で売ってたんだね。普通の人だったら気軽に買うことができないのか。まあ、オレも気軽に変えないけど。自分で採ってくればいいだけだし。


「っていうか、リューニャ。ギルドでバッファモーのミルク一樽買うだけのお金持っているの?あなたそんなにお金持ちに見えないんだけど。まあ、コカトリスの卵をいっぱい持ってたりとちょっと規格外なところはあるけどさ。」


 シラネ様が不思議そうな顔をしてオレに聞いてくる。


「あっ……。そっか、お金が必要なんだった。」


 ギルドでそんな高価なバッファモーのミルクを無償で提供してくれるわけないか…。お砂糖みたいに安くないもんね。


 そうなるとバッファモーのミルクを買わなきゃいけないんだけど、バッファモーのミルクが一樽で一年分の生活費に相当するだなんて知らなかったオレだ。そんな大金を持っているはずがない。


 っていうか、見習い料理人だからね。生活だってカツカツなのだ。


「はぁ……。もうっリューニャったら。皆を期待させないでよね!」


 シラネ様がため息交じりに言うと、オレとシラネ様とギルドマスターのやり取りをみていた見物人たちから声が上がった。


「なあ!オレたちがひとりずつコップ一杯分のバッファモーのミルク代を出したら足りるんじゃないか?」


「そうだな!バッファモーのミルク一杯分だったら出してもいい。それでコカトリスの卵を使ったプリンが食べれるんだったらもうけもんだな!」


「コカトリスのプリンなんて食べようとしてもそこらじゃ売ってないしな。」


「買ったらもっと高そうだしな。こんな機会でもなけりゃ食えないだろうし。」


「そうだな。それに、クイーンコカトリスに認められる瞬間なんて面白いもんが見れたしな!」


「なあ!にぃちゃん!コカトリスの卵は出してくれるんだろ?」


 どうやらみんなプリンが食べたいようである。


 一人ずつバッファモーのミルク代を出してくれるという話になった。それならば、足りるだろう。問題なくみんなにプリンを行きわたらせることができる。


「もちろん!コカトリスの卵はオレが持つよ!このコカトリスの卵だって全部ここにいるトリスがオレにくれたもんなんだ。実質ただで楽に手にいれたもんだから。あ、シラネ様のミルク代はオレが持つよ。オレがシラネ様に食べて欲しくて企画したことなんだから。」


「もちろんよね。うふふ。楽しみだわ。リューニャの作るプリン。」


「「「「「うぉおおおおおおおお!!!やったーーーーーー!!!」」」」」


 オレがコカトリスの卵は全部出すと言ったところ周りから歓声があがった。


 まあ、バッファモーのミルクも高価だけど、コカトリスの卵も高価なことには変わりないしね。


 そんなわけで、オレはギルドの厨房を借りてコカトリスの卵とバッファモーのミルクでプリンを作ることになったのだった。










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