第20話
「……可愛い。」
卵から孵ったクイーンコカトリスのヒナを見て、シラネ様が呟いた。
オレは卵から孵ったクイーンコカトリスのヒナを見る。確かにものすごくおどろおどろしいほどの魔力を放ってはいるが、見た目はとても可愛らしい。ふわっふわのピンクゴールドの毛は確かに可愛らしい。目もまんまるできらめいているようにも見える。純粋な目をしており、見ている者を癒やしてくれるようでもある。強大な……凶暴なほどの魔力を持っていなければ、だが。
そんなクイーンコカトリスのヒナを見て、可愛いと言ってのけるシラネ様って随分肝が据わってるんじゃないか?先ほどまでクイーンコカトリスが襲来すると怯えていたシラネ様はどこにいったというのだろう。
まあ、オレとしては別に構わないけど。
「確かに可愛いね。でも、お肉もすっごく柔らかそうだよね。それにプリプリしてそうで美味しそうだよね……。」
オレとしてはクイーンコカトリスのヒナを見て可愛いという思いよりも美味しそうだと思ってしまった。まあ、でもこんな小さな生き物の命を奪おうとは思わないけど、興味がある。
「ぴぃぃぃっっ!!?」
「はあああああっ!?食べるだとぉ!!何を言っているんだっ!」
「はあ。リューニャはどこまで行ってもリューニャね。」
「なにを言っているんだ!あいつはっ!!こんな凶暴な魔物を食うとかアホじゃないのかっ!!」
「あり得ないわっ!あり得なすぎるわっ!!」
クイーンコカトリスのヒナはオレの言葉がわかったのか、甲高い声を上げた。
「あ、ごめんごめん。食べないから。安心して。あくまで食べたら美味しそうってだけで、本当に食べたりはしないから。」
オレはにこっと笑うと、ふわっふわな毛並みのクイーンコカトリスのヒナの頭をそっと撫でた。
その様子をギルドマスターやユージンさん、ローゼリアさんが目を丸くしてみていた。その他大勢の観客も同様だ。
トリスだけは面白そうにニヤニヤと笑いながらその様子を見ている。
「ぴっ!」
謝ったオレに、クイーンコカトリスのヒナが許すと言うように一言鳴いた。
やっぱりこのクイーンコカトリスのヒナは人間の言葉がわかるようだ。
うん。可愛いな。それに、とても大きな魔力を持っているがオレに敵対心はないようだ。
「おまえ、とっても可愛いな。」
「ぴぴぃ~♪ぴぴぃ~♪ぴっぴっ♪」
クイーンコカトリスのヒナに微笑みながら可愛いと言えば嬉しそうに鳴きながら辺りをパタパタと飛び跳ねて回った。まだ産まれたばかりだから、飛ぶことはできないようで飛び跳ねるだけだ。
その様子すら可愛く思えてしまう。
「どうやら気に入られたようじゃな。」
トリスはにんまりと笑うとうんうんと頷いた。
「ぴっ♪ぴっ♪ぴっ♪」
クイーンコカトリスのヒナはトリスの言葉に頷くように返事をすると、オレの前までよちよちと歩いてきた。そして、オレの顔をじっと見つめる。つぶらな二つの燃えるように赤い瞳がオレをじっと見つめてなにかを訴えているが、オレには残念ながらクイーンコカトリスの言葉はわからない。
「リューニャに名前をつけて欲しいそうじゃ。」
「え?オレ?なんで??」
トリスが言うには、目の前で可愛らしく鳴いているクイーンコカトリスのヒナはオレに名前を決めて欲しいということだ。そのためにオレに向かって甲高い声でぴぃぴぃ鳴いているらしい。
「このクイーンコカトリスのヒナに親だと思われたのであろう。」
クツクツとトリスは笑いながらそう言った。
その表情から、トリスがオレにクイーンコカトリスのヒナの親になるように仕向けられたのではないかと思ってしまった。だが、クイーンコカトリスの卵を間違えて持ってきてしまったのはシラネ様だし、そもそもクイーンコカトリスの卵はユージンさんの手元にあった訳だし、オレの考えすぎかな。
「え?鶏みたいな感じ?孵って一番最初に目に入った者を親とみなすかんじなの?」
「ちょいと違うのぉ。クイーンコカトリスのヒナはその場にいる者の中で一番強い者を親だと認識するのじゃ。」
トリスは「ふふんっ」と笑ってクイーンコカトリスのヒナの生態について教えてくれた。どうやらクイーンコカトリスのヒナは鶏と同じような性質を持っているらしい。ただ、鶏のヒナが初めて見たものを親だと思うのに対して、クイーンコカトリスのヒナは、近くにいる人々の中で一番強い者を親だと思うらしい。
「まあ、それじゃあ、ここにいる人の中で一番リューニャが強いってことね。トリスよりも強いのにはびっくりしたわ。」
「そうじゃなぁ。リューニャは妾よりも強い。クイーンコカトリスのヒナはそれもわかるのじゃ。実にすごい。」
「へ、へぇ~。」
シラネ様とトリスが感心したようにクイーンコカトリスのヒナとオレを交互に見ている。
うーん。っていうか、このクイーンコカトリスのヒナは間違えてしまっているんじゃないだろうか。コカトリスの卵を割ることはできても、オレはユージンさんやギルドマスターには敵わないはずだ。っていうか、そうであって欲しい。じゃないと、この街では冒険者よりも料理人見習いの方が強いとかいうことになってしまうのだから。
「ほぉ……。クイーンコカトリスにそのような習性があったとは知らなかった。まあ、クイーンコカトリス自体そうそうお目にかかれる存在ではないしな。それの卵とあっては、滅多にお目にかかれるものではないからなぁ。高ランクの冒険者でも知らんだろうなぁ。」
ギルドマスターも感心したように「うんうん」と頷いている。
「さあ、リューニャ。早くクイーンコカトリスのヒナに名前をつけるのじゃ。名前が与えられるのを今か今かと待っておるぞ。」
「あ、うん。そうだなぁ……。」
トリスに急かされてオレはクイーンコカトリスのヒナの名前を考える。っていってもオレ、ネーミングセンス皆無なんだよね。しかも、こんなに大勢の人の視線が集中していると余計頭が回らない。
クイーンコカトリスのヒナは大きな目をパチパチと瞬かせて、キラキラとした瞳でオレを見つめてくる。きっと、どんな素敵な名前をつけてもらえるのかと期待でいっぱいなのだろう。
オレは、そんなクイーンコカトリスのヒナに名前をつけてあげなければならない。なんて、重大な任務なのだろうか。
「うーん。ぴぃちゃんというのは……。」
「却下よ!却下!なに、その安直な名前はっ!!」
頭を振り絞って考え出した名前はシラネ様に速攻で却下をくらった。
トリスもおまえ何言ってんだ?というような目でオレをジトッとした目で見てくる。ギルドマスターや周りにいた観客までもがトリスと似通ったような視線をオレに送ってくる。
「ぴぃっ♪ぴぃっ♪」
だが、ぴぃちゃんだけは嬉しそうに鳴きながら飛び跳ねていた。
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