第19話



「ほぉ。面白くなってきたのじゃ。」


「うむ。ユージンはそれを選んだのか……。まあ、なんというか……。まあ、選んだのなら仕方ないとしか……。」


「ふっ。ふふ。ほんとにユージンは何も知らないのね。」


 上からトリス、ギルドマスター、シラネ様。トリスとシラネ様は面白そうに笑っているが、ギルドマスターはなんとも複雑な表情をしている。


「あの……どの卵を選んでもいいと言いましたが、その卵は選ばない方が……。」


 流石にクイーンコカトリスの卵はまずいと思い、並べておいてなんなんだが、ユージンさんに卵を変えた方がいいと告げる。


「やはりこの卵にはなにか秘密があるな!この卵だけ色味が少しだけ違う。淡い金色の光をはなっていた。それに、他の卵より殻が薄いようだ。この卵だけ割れやすいんだろう?そうだろう?だから、オレが選ばないようにそう言っているんだろうっ!オレは絶対この卵にするからなっ!他の卵なんて選ばないからなっ!!」


 どうやらユージンさんは、他の卵とクイーンコカトリスの卵が違うことには気がついたようだ。まあ、見た目からして全然違うから気づかないわけもないけど。でも、殻は割れやすかっただろうか?そんなところには気がつかなかったな。


「あー、その卵は間違えて並べちゃったんです。まさか、それを選ぶだなんて思わなくて……。ほんと、それだけは割らない方がいいですよ。国が傾くってシラネ様たちが言ってました。」


「はんっ!そう言っておまえがこの卵を選ぶ気なんだろうっ!何を言われたってオレはこの卵は渡さないからなっ!」


「リューニャ。ユージンはそれを選んだのよ。」


「でも、そのせいで国が滅んだらと思うと流石に気が重いです。」


「ほほっ。大丈夫なのじゃ。あやつが来てもリューニャがいれば国を滅ぼすことはないだろう。安心するがよい。」


 ユージンさんの説得を試みるが失敗に終わる。それどころか、シラネ様とトリスが面白そうに笑いながら、そのままで良いと言い出す始末だ。

 オレとしては、国が滅ぶのを見ているのは嫌なんだけど。

 っていうか、トリス。なんでオレがいれば大丈夫とか言い出すんだろうか。


「まあ……そんなに簡単に割れないだろうから、大丈夫だろう。ユージンはもう選んだんだ。リューニャも選びなさい。」


 ギルドマスターは頬をピクピクとヒクつかせながら、オレに卵を選ぶように言ってくる。正直、どの卵も強度に差異があるわけでもない。どれを選んでも一緒なのだ。だから、オレは目の前にある卵を手に取った。ずっしりとした重みが腕に伝わってくる。


「オレは、これにします。」


「決まったか。では、各自持ち場について思い思いの方法でコカトリスの卵を割ってくれ。判定はより速く割れた方を勝者とする。また、もし仮に同時に割れた場合はより綺麗に割ったものを勝者とする。道具は何を使っても構わない。必要であればギルドから道具の貸し出しもおこなうが、どうするか?」


「オレは何もいりません。」


「……オレは、自分で用意したからいらない。」


 コカトリスの卵くらいだったら特別な道具は必要ないし、手でも割れる。だからあえて道具は不要と告げた。ユージンさんは、自分で道具を用意していたらしくギルドマスターの提案にかぶりを振った。

 よく見るとユージンさんの手になにかが握られているようだった。だが、オレからはユージンさんの身体が死角になりよく見えなかった。


「そうか、では今から始める。ユージン、リューニャ。準備はいいか?」


「はい。」


「ああ。」


「そうか。よし!では始めるとしよう。はっけよーい、のこったぁーーーー!!!」


 オレ達はギルドマスターのかけ声を合図にしてコカトリスの卵を割り出した。オレはコカトリスの卵を持ち上げると力一杯机の角に向けてコカトリスの卵を振り下ろす。

 

 ガッ。


 ガッ。


 ガッ。


 机に打ち付けること3回。コカトリスの卵にヒビが入った。オレは、ヒビの入った箇所に指をあてると、思いっきり指に力を込めた。

 指がコカトリスの卵の殻にめり込む。

 そして、大きめの器にコカトリスの卵を割って中の白身と黄身を入れた。


「流石……速いな。1分かかってないぞ。」


 オレがコカトリスの卵が割れたことをギルドマスターに告げると、ギルドマスターが唖然とした表情で告げた。対するユージンさんの方を見ると、手に持ったなにかでクイーンコカトリスの卵を何度も叩いているが一向にヒビが入る気配もない。

 ギルドマスターのオレが卵を割ったという言葉を聞いたユージンさんは大きく目を見開いてオレのことを見てきた。そうして、すぐに卵の方に視線を向けると今まで以上に力を込めて卵を叩いた。


「うをっ……っ!?」


 その瞬間、ユージンさんの手元にあったクイーンコカトリスの卵がまばゆいばかりの光を放った。


 へぇ……クイーンコカトリスの卵ってヒビが入ると光るのか。


 なあんてことを思わず思ってしまった。


 ……ん?

 ヒビが入った?

 それって、大問題じゃ……。


「ヒビが……入ったのか?まさか、ユージンが?」


「えっ。やばいかしら?ユージンにはヒビも入れられないと思って安心してたのに。」


 ギルドマスターとシラネ様はユージンさんがクイーンコカトリスの卵を割ることはないと思っていたようだ。だが、予想外にもヒビが入ってしまった。クイーンコカトリスの卵にヒビが入ってしまったことにより、クイーンコカトリスが来襲する可能性が高まった。そのことにギルドマスターとシラネ様は慌て出す。

 慌てるくらいなら止めて欲しかったのに。


「ふっ……ふふ。オレにも割れたっ!オレにもコカトリスの卵が割れたっ!!オレの勝ちだなっ!!」


 ユージンはクイーンコカトリスの卵にヒビを入れたことを素直に喜んでいる。なにも知らないってうらやましい。っていうか、ヒビが入っただけでまだ割れてないし。それ以前にオレの方が速く卵を割っているからユージンさんの勝ちではないと思うんだけど……。


「お主が割ったわけではあるまい。孵化するのじゃ。ほれ、内側からコツンコツンと殻を叩く音がするであろう?孵化するぞ。クイーンコカトリスが孵化するのじゃ。」


 トリスがうっとりとした目でユージンさんの手元にあるクイーンコカトリスの卵を見ながら言う。

 どうやらユージンさんが卵を割ったわけではなくて、卵がちょうど孵化するところだったようだ。

 ってことは、クイーンコカトリスが来襲することはないんだな。ユージンさんが卵を割ったわけではないんだから。オレはそう思って胸をなで下ろした。

 だが、シラネ様とギルドマスターは引きつった笑みを浮かべている。


「孵化した……だとぉ。」


「孵化したの?え?大丈夫なの?これ?ちょっとトリス。本当に大丈夫なの?これ?」


「ああん?オレが割ったのにいいがかりつけんじゃねぇ!!」


「そうよ!ユージンが卵を割ったのよ!ユージンが勝つことが嫌だからって馬鹿なこと言わないでちょうだいっ!」


 ことの重大さに気づいていないユージンさんとローゼリアさんが抗議の声を上げる。

 うん。知らないってうらやましい。

 オレはトリスに視線を向けた。ほんとに大丈夫なのだろうかと。


「うむ。問題ないのじゃ。」


 トリスが力強く頷くのでオレは安心した。孵化したばかりのクイーンコカトリスだし、そんなに強大な力はまだないのだろう。きっと、トリスがなんとかしてくれるのではないかと思って。

 だが、それは大きな間違いだった。


 クイーンコカトリスの卵が内側から少しずつ衝撃を受け、卵の殻が剥がれ出す。それとともに、ものすごい魔力が卵からあふれ出してきた。

 思わず背筋がぞくっとした。

 ユージンさんとローゼリアさんも、そのおぞましいほどの魔力を感じたのだろう。慌ててクイーンコカトリスの卵から距離を取って臨戦態勢を取る。二人とも腐っても冒険者のようだ。

 そして、卵からクイーンコカトリスの幼獣が姿を現した。

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