「帰ったら、抱いてね」


「わかった」


 手を繋いで歩く。帰り道。


「最近ね。わたし。ひとりでいられるように、なったの。友達もできた」


「配信者のひとか?」


「うん。一緒に、ゲームしてくれるの。優しくて、わたし。うれしい。話し方とか、教えてくれるの」


「よかったな」


「でも。あなたの温度を感じていないと、まだ。外にひとりでいるのがこわい」


「そっか」


「わたし。やっぱり、おかしいの、かな。あなたにはじめて逢ったときも」


「あれはまあ、事故だろ」


「いま考えても、はずかしくてはずかしくて。わたし」


 彼の手が。わたしのおなかに、触れる。


「まあ、はじらいを持つのは良いことだな。そうやって、ゆっくり、普通になっていけばいい。一緒にいるよ。俺は」


「ごめんなさい。わたし。あなたの気持ちを考えずに。わたしは」


 なんてだめな女なのだろう。彼を押し倒して。血と液体を撒き散らしながら、学校の廊下で。


「俺は、セックスの経験がある。おまえが初めてではない」


 その言葉が、心を差した。そう。わたしにとって彼は、ひとりだけだけど。彼にとってわたしは、たくさんいる女性のうちの、ひとりでしかない。


「でも、出したのは、おまえがはじめてだった」


 彼の。


 それを考えただけで、お腹の底のところが、じわっと熱くなる。


「たぶん、おまえにしか、出ないんだろうな。そういう身体の仕組みなんだ。いや、心の仕組みか。愛のあるセックスしか、俺にはできない」


「愛」


 わたしが、どうしても欲しかったもの。彼に求めて、強引に奪ってしまったもの。


「だから、遠慮するなよ。好き同士なら、別に構わないだろ」


「うん」


 彼のやさしさを受けて。これからも、生きようと、思った。わたしも。彼に寄り添いたい。いつか、わたし自身が。彼の心を、包んであげられたらいいな。


 二人で歩く帰り道。


 彼の手の温度。


 暖かかった。


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彼の温度(※えっち注意) 春嵐 @aiot3110

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