第23話 よくぞ聞いてくれました!

 ゴトゴト、ゴトゴトと揺れて馬車は目的地へ向かって進んでいるようだ。

 小窓から見える景色は森や草むらばかりだが、それらが流れるように窓枠の外へ消え去っていって、きちんと進んでいることを確認させてくれる。


「見える景色が空だけだったら、進んでいる感じがしなくてまいってたんだろうなぁ」


 そんな風に呟くけど、馬車の速度が加速するわけでも街道の距離が圧縮されるわけでもない。

 この荷台の中でできることといったら、話に花を咲かせるぐらいだ。


 のだが、先程一人でぶつぶつと言っていた金髪メガネの少年は、壁に背を持たれてやはり一人で本を読んでいる。

 心なしか、クロンとリームをチラチラと見てるようだけど……? やっぱり竜族ってのは珍しいんだろうか。


 ところで、薄暗い環境でよく字が見えるな。目を悪くするぞ?


 そして彼からは話をする気が無さそうなため、これからのためと暇をつぶすために、暇そうにしているクロンとリームへ話を振る。


「なぁクロン、リーム。クロムベルってどういうとこなんだ? けっこう大きい街?」


 出発してからまだ時間はそうそう経っていないけど、よっぽど暇だったのだろう。

 箱に腰掛けて足をぶらぶらとさせていたクロンが胸を張り、説明しよう!とでもいうような姿勢になった。すげぇドヤ顔だ、まだ何にも説明していないのに。


「よくぞ聞いてくれましたご主人様! ここユズガルディ王国に存在するクロムベルの街はとっても大きな街です! クロムベルの街は何回か行ったことがありますけど、すごいですよ! こーんなにおっきな門があってですね、たくさんの人がいてー、周りの国からいっぱい人が集まります!」


「だ、だいぶおおざっぱな説明ありがとう」


「それほどでも! どうですかリーム、私も説明できましたよ!」


 ふふーん、とクロンは鼻を高くする。いや、大きい街ってぐらいしかわからなかったから……。

 隣にいたリームは苦笑しながらクロンの頭を撫でる。友達っていうより姉妹って感じだな。もちろんクロンが妹だけど。


「それでリーム。リームたちはクロムベルに何しに行くんだ?」


「そうね、そこにいる争闘騎士団コンフリクト・ナイツに用があるとでもいえばいいかしら。あまり深いことについては話せないわ」


「ごめんなさい、これについてはご主人様でも話せないです……」


 単純な疑問をリームへと投げかけたが、彼女には軽く受け流された。ついでに口の軽そうなクロンもこの件については言及しない。

 話したくない内容のようだし、こちらも深く追求するのはやめておこう。……と心の中で決めたその時だった。


「……クロムベルの街は大規模な交易都市です。僕達が今現在いる場所は、湾や他の複数の国に近い、ユズガルディ王国の北方領域です。そこに存在するクロムベルは陸路・海路を通して、各国のカード・特産物が集まるために巨大な商業都市になっています」


「お、おう」


 クロンのあまりに頭の悪い説明に呆れたのか、壁際で本を読んでいた金髪の少年がぶつぶつと説明しだす。いきなり話に入ってきたものだから驚いてしまった。


「また、周辺国に対して最も近い都市になっているため、防衛手段としても活用可能な城塞都市となっています。エリート集団の争闘騎士団コンフリクト・ナイツも常駐していますし、商売・武力両方で優れた都市と言えるでしょう……」


「君、凄い詳しいんだな。流れるように説明が出てきて、わかりやすかった」


 説明を補助してくれたことに礼を言うと、少年は「しまった」というような顔をして、さっと本で顔を隠してしまった。

 なおクロンは知識の自信を打ち砕かれて、一気にしゅんとなってしまっている。もっと勉強しような。


「あっ……すみませんすみません。決して僕凄いだろとか思わせるつもりじゃなかったんです、すみませんすみませんごめんなさい……」


「えっ? いやいやっ、なんでそこで謝るのさ。きちっとどんな街なのか説明してくれたし、そこが周辺国に近いとかの補足情報もありがたかったよ」


 本の陰に隠した頭を謝罪の言葉と同時に何度も上下させる金髪メガネの少年。

 それにしても腰低いなーこの子。さっきからこちらをチラチラと見ながら本を読んでばかりで、目線を合わそうともしてこないし。


 こんな湿った木の匂いが気になる荷台の中に乗ることになった仲間なんだし、せっかくだから仲良くなって色んな情報を聞いてみたいとは思う。


 例えばクロムベルにはどんな有名な決闘者ブレイカーがいるのとか、近頃この付近が物騒みたいだけど何が起こっているのとか、どんな目的でクロムベルに行くのかとか……。質問攻めみたいになってしまうだろうか?


 いや、まずは先に自己紹介だな。俺より明らかに年齢の低い少年を安心させるためには、まず自分たちが何者なのか明かさないと。


「えっと、まだ自己紹介してなかったよな? 俺は風間かざま朝陽あさひ。え~っと、何ていうかこの世界にやってきた転生者なんだ。よろしく」


 安心させるためには腹を割って話してしまったほうがいいはずだ。無駄にこの少年相手に隠し事しても得はないし、誠心誠意な態度の方がこちらの事情も理解してくれそうだし。


「……なるほど、転生者なんですね。どおりでクロムベルに向かうはずなのにそこを知らないと言う訳ですか」


「そうなんだよ、そこに座っている彼女たちに会わなければ馬車に乗せてもらえなかったり、行き倒れとかになっていたかも。で、その彼女達で緑色の髪の方がクロン、背の高い方がリームだ」


「よろしくお願いしますね!」


「クロムベルに着くまでの間だけど、お話相手になってもいいかしら?」


「は、はい。よろしくお願いします」


 やっぱりリームの可憐さってぴか一なんだろうな。さっきまで彼女たちのことをチラチラと見ていた少年が焦るように返事を返す。

 するとまた慌てたように持っていた本をぱたんと閉じ、すくっと立ち上がって一度お辞儀をした。


「あっ、僕の自己紹介がまだでしたね、すいません。僕はナフ・メイカと申します、よろしくお願いいたします。先日まで隣国であるブギントネス王国のトゥーマダに滞在していて、用事が済んだためにこちらへ帰る途中のところです」


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「ナフ・メイカ君っていうんですね! それじゃあナフって呼んでもいいですか?」


「え? はい、お好きなようにどうぞ……」


 クロンがささっと気軽に呼んでもいいかと笑顔で確認をとる。こういう時にクロンがいると助かるなぁ。

 踏み越えにくい境界線を率先して自分から行ってくれるし、仲良くなるのに時間がかからないからだ。


 ……いや、違うなこれ。心なしかクロンの顔はナフに張り合おうとしているように見える。さっきの解説をいぢらしく根に持っているらしい。強烈な笑顔にナフ君ちょっと引いてるぞ?


 元の位置に戻ったクロンが、ぎゅっと握った両拳を自分の膝の上に置く。自信喪失状態から回復したのはいいけど、ちょっと機嫌悪くなってるし。


 頬をぷっくーと膨らませるクロンと腕を組んで呆れ顔を見せるリームを、またナフはちらりと見るのだった。

 さっきからなんだろう? 単に珍しいのか、もしかしてまさか彼女たちのパンツでも見えているのだろうか……!?

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