終―天地開闢―(ゼロ)

 イェードはゼロを国王の位に立たせると、アザトの補佐をしていた者たちをまとめて善き治世をするべく行動した。

 暗黒時代に少しは光が灯ったが、まだまだ先は長い。

 アザトの遺志は獰猛どうもうな危険生物の駆逐と、文字や数字を広めることだったはずだ。

 あれほどの知性を持った親友、男であり、その全てを把握することなどできようもない。

 ゼロはおよそ一三歳になると、イェードからある石版を手渡された。

 アザトの若き日に彫られた石版で、現在にしても未完成だが、読める文字で書かれていた自身の名の由来を知り、ゼロは不思議な気持ちになった。

 意味をまとめると、『“なにもない“ということがここにある』。

 不思議だった。

 いなくなった父も、ないということがあることになったのだろうか。

「ならば尽くそう。全てが〇に帰すまで、この身を国に捧げん」

 原始の時代。

 これはまだ、天地が開闢かいびゃくしたということを人類が知ったばかりの『記録』だ。


 近現代の歴史学者によると最近まで、この古代文明はさらに後の世の創作であると見做みなされ、真剣には取り扱われてはいなかった。

 あまりにも、文明がいちじるしく進みすぎている。

 あまりにも強大な軍事力を持ちすぎている。

 散逸さんいつした『アザト国王』の石版が暗号のように組み合わさり、本物であることが分かると、後の世は恐怖さえ覚えたという。

 ゼロの治世後は次第に権力闘争などにより、その石版がごとく散逸し現在は小国家のゼロ国だ。


 ゼロとはなにか。


 それは始まりにして、全てであった。

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Country Zero(カントリー・ゼロ) 書い人(かいと)@三〇年寝太郎 @kait39

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