国長(くにおさ)の子、ゼロ

 アルルの身体に宿やどった生命いのちも、順調に大きくなっている。

 アザトは次の国長くにおさにするとまでは明言めいげんしていないが、国と同じ名前を持つ子どもだ。

 みなの期待は大きかった。

 ゼロは通常の予定よりやや早く産声うぶごえを上げた。早産の男の子だった。

 新しい春の手前ということもあり常にだんを取り、最も頑丈がんじょうに作った乾燥土かんそうどの建物で、アルルとゼロは過ごした。

 母子ともに衰弱すいじゃく気味で、すぐに薬草や鶏卵けいらん、お湯で炊いた豆などの穀物こくもつ、そして塩が用いられてアルルは持ち直した。

 問題はゼロだ。

 その一年間は、少なくとも子育てに関しては試練しれんが待ち受けていた。

 あまり授乳を受け付けず、体格も未熟児ということもありそう大きくはない。はっきり言ってしまえば、この時代の普通の赤子あかごのように、高い致死率ちしりつだったことだろう。

 違うのは、周囲の環境か。

 国長の息子ということもあって、手厚い保護は受けられていた。

 よく煮込んだどろどろの食べ物を食べられるようになる頃には、ゼロの体調は快方に向かっていった。

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