魔法生物、ボルテクス

 その魔法生物らしきものは、『渦巻うずまき』を意味する『ボルテクス』と命名された。

 生き残れたら、アルルさんによってより良い名前を付けてもらおう、そうイェードは思った。

 余裕ぶっている状況ではなく、降り落ちる雨により体温が奪われていく。軽装なのがあだとなった。

 周囲のくもを吸収しているのか、イェードからだいぶ離れた平原の場所はずいぶんと晴れている。

 戦いの選択肢としては、アザト村にすぐ戻れるような距離ではないし、交易を行う村に行けば増援となるのかもしれないが、災厄がそこを襲うだろう(すでに襲われている可能性もあるが)。

 つまるところ、この場でボルテクスを倒すのが最適解だ。

 戦いの手段は、今のところ矢のみ。

「全員散って、矢を放て! 弓を持たぬものは各班に続け!」

 隊の人数は八〇名ほど。

 マルスおさや他の副長が居ないので、全てイェードの指揮下で行動する。重大な責任を感じながら、イェードは戦いにのぞんだ。

 幸いこちらの矢よりかは、ボルテクスの主な攻撃手段、落雷の命中精度は高くないようだった。

 さらにイェード隊が放つ大量の矢の対処に追われて、落雷をその円環えんかんの近くに走らせていた。

 ここまで来て、この災害はやはり生きているのだろうと、そう実感が持てた。

 ボルテクスはどういう思考をしているのかわからない。不気味な魔法生物なのはわかった。

 戦い続ける最中、周囲の暗雲がだんだん狭まっていくのが理解できた。

 人間なら、動きすぎてだんだん腹が減っていくような状況だろう。

 落雷の頻度も落ちていき、ボルテクスは全く別の方向へとふわふわと移動していった。

 両者、一時撤退てったいの時だ。

 死人や怪我人は出さずに、撃退はできた。

 イェードたちは寒くなった身体を温めたかったので、交易の村に向かうことにした。

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