動く災害

 その村までもう少し、というところで豪雨ごううに見舞われた。

 雷鳴が鳴り響き、これは敵わないと思ったが、遠くを見渡すと晴れ晴れとしていた。

 あまりに局地的すぎる豪雨だった。

 イェード隊の近くに雷が何度も落ち、まばゆい光と轟音ごうおんが鳴り響き、それが続く。

「まさか、魔法生物か?」

 イェードが上空を見上げて声を上げる。自然が敵対するとは考えづらい。こういったものは元来、誰にでも平等なものだ。

くも稲妻いなずまが力を得たのかもしれない」

 他の男もそう言った。

「弓を貸してくれ」

 イェードの大きな得物、ファングボーンでも天空には全く届かない。

 イェードは背中に抱えた木製のかごに入った矢を引き抜くと、その剛力ごうりきで矢を射った。

 狙いは豪雨に雷鳴、大きな風を巻き起こしているつまりはあらしの暗雲の中心部だった。

 雲は不自然な風と共に円環えんかんのように回転しており、何やらその中心部分だけ太陽光が貫かれ、光が通っていた。

 嵐の中で、正確にその風を予測するのは不可能に近い狙撃技能だが、イェードはそれを可能とする。

 渦巻うずまく円環の中心に矢が通ろうとするが、小さな雷が落とされる。

 矢に直撃し、それが砕け折れる。

「なんなんだあれは……」

 隊の一人がほうけたような声を発した。

「あれは、生きているな。

 どうやら我らは、あの災害に付け狙われているらしい」

 イェードは苦々しげにそう言った。

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