絵と計算の男、アザト

 アザトは絵と計算に長けた青年で、何事も効率を際立たせることに躍起やっきになる人物だった。

 物事を手早く終わらせようと素早く動くより先に、その際立って冴えた頭でもって、そもそもその仕事をどうすれば早く終わらせられるかを考え、果てはその仕事を別の方法に変えるなどをして無くしてしまう名人であった。

 アザトは決してなまものではなく、余った時間で彼は『新しいこと』を考える作業をしていた。

 彼の関心事は新しい技術による絵と計算に関してで、それは難航なんこうを極めた。

 アザトは毎日、加工職人が削ってくれた石版せきばんものをしていた。

 一日最低一つは彫り物の絵を作り、これを彼は『記録』と呼んだ。

 『記録』とは、彼自慢じまんの造語だった。

 表向きは狩猟や採集、川での魚取りに祈りを捧げるものとしており、その精巧な彫り物の石版は、族長が個人でいくつか蒐集しゅうしゅうするほどの出来栄えであった。

 ある日彼は、一つのものと、また同じ一つのものを組み合わせ、一つのもの二つぶんを表す絵を作った。

 いわば、絵と計算を合わせ、数字を生み出したのだ。

 始めは理解されなかったが、多くの数を表せるように改良を重ね、大まかな数字を表す絵文字でもって、食料の貯蔵庫などに石版を数多く並べて、数の管理をしやすくした。

 アザトは、大人から子供までの教育の係を族長から任され、その大きな村で最も美しいとされる、司祭を務める少女、アルルと婚礼を交わした。

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