第2話

久しぶりに見たあの笑顔は、相変わらず優しくて。

「ママ?」

ふと声がした方を見ると沙莉が不思議そうに私を見つめていた。

「ママ、どこか痛いの?」

「どうして?」

「なんかママ、悲しそうな顔してたから。」

少し心配そうに見つめている沙莉の頭を撫でた。

「目にゴミが入っちゃっただけだよ。もう大丈夫。」

「なら良かった!あのね、もう隣の席の子とお話したの!」

沙莉は私の返事を聞くと安心した様に話を始めた。

「あとね!先生がすごく優しいの!格好良くてね!王子様みたい!」

「・・・・そっか。良かったね。」


もう4年くらい経ったはずなのに、変わらない様子の好孝がそこにはいた。

「みんなが毎日楽しいクラスに出来るよう、何でも俺に言うてな!」

一瞬目が合ったような気がして、思わず目をそらしたけど、好孝は気付く事無くホームルームは終わった。


「ママ、お昼パン食べたい!」

「じゃあ、いつものパン屋さん寄って帰ろうか。」

「やったー!」

嬉しそうにする沙莉を見て、自分も嬉しく感じる。

そう、もうあの頃の私ではない。

この子の為に、豪君の為に、私は今生きている。

もう前を向いているのだから。


「あ、好孝先生だ!」

「え?」

沙莉が私の手を離し、少し先にお見送りしている好孝の方へ走っていく。

好孝は沙莉を見ると笑顔で迎えた。

呼び戻さなければいけない。

沙莉を呼び戻さなければ、きっとこの後元に戻れなくなる。

「沙莉帰るよ」

呼びかけた時、見てしまった。

目を丸くして、こちらを見ている好孝の姿。

それは、私の事を認識した事を実感させた。

「沙莉、帰ろうか。」

「はーい!先生ばいばい!」

「気をつけて、帰ってね。」

沙莉の手を握り、歩き始めた時。

「すみません!」

好孝の声につい立ち止まってしまう。

「あの、どこかでお会いしたことありませんか?」

戸惑うような声に振り向き、私は笑みを浮かべた。

「さあ、勘違いですよ。沙莉をよろしくお願い致します。」

少し会釈をして、歩き出した。


これでいいんだ、これで。

「ママ?」

「さあ、パン何食べようか。」

「どうしようかなー?」

私はその時、気付いてなかった。

自分の中に喜びが芽生えている事を。






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