第3話

「好孝、将来は何になりたいの?」

「うーん、やっぱり教えるの好きやからな〜、教師とかかな。まあ、このまま家庭教師でもええかな。」

「そっか。でも、小学校の先生とか似合いそうだね。なんか一緒に遊んでそう。」

「なんか、俺が子供と同じ精神て言いたいんか?」

「違うよ!」

「なんてな。杏子本当に真面目さんなんやから。」

そんな話をした時はまだ幸せだったな。


「ママ!」

「わっ!沙莉どうしたの?」

「どうしたのって、お鍋グツグツ言ってるよ?」

「え、あ!やだ私ったら!」

煮込みすぎて泡を吹いている鍋の蓋に素手で触れてしまい、熱さについ蓋を落としてしまった。

「ママ!」

「あつ・・・・沙莉怪我ない?」

「私は大丈夫だけど、ママおてて赤いよ?」

「ママは大丈夫。もうご飯出来るからね。向こうでテレビ見て待ってて。」

はーいと言いながらキッチンを出ていく沙莉と入れ替わりで豪君がキッチンに入ってくる。

「大きい音したけど、大丈夫か?」

「大丈夫よ、つい煮込みすぎて。」

「手赤いじゃないか。ダメだ、ちゃんと冷やさないと。」

豪君は私の手を見ると慌てた様に手を取ると、流しの水を出し手を当てた。

「大丈夫か?あと皿に入れるだけだろ。俺やるよ。」

「大丈夫。すぐ蓋離したから。ありがとう。」

私が少し困ったように笑うと豪君は手を離した。

「ごめん。つい。」

「心配してくれるのは嬉しいけど、心配性過ぎるよ。」

「でも仕方ないだろ。そういう性格なんだから。もう慣れてくれ。」

「はいはい。でも、ありがとう。」

お礼を言うと満足そうに豪君は私の頭を撫でて、盛り付けたサラダをテーブルに運び出した。


豪君は付き合い始めた頃から変わらず、今も私の事だけをずっと愛してくれている。

それは私にとってずっと求めていた幸せ。

でも、それでも、私は出会ってしまった。

入学式で目の前に現れたあの人の姿が、私は頭から離れられなかった。

「ママお腹すいたー!」

沙莉の声に我に返った私は鍋のシチューをよそい、豪君と沙莉が待つテーブルに向かった

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