未来を視る力

「難波が何を考えているのかは分からないけど、これだけは言えるんじゃないかな」

「難波君が竜也くんの邪魔をしたこと?」

難波は自分で言っていた。僕が警察に捕まる未来を変えて時系列を組み直している時、難波は僕の未来を必然とし、その組み直しを壊した。

「うん。難波は僕を刑務所に入ることを必然としたんだ。でも難波は僕の邪魔をしたとしか言ってなかった。でもさ、難波がただ単に邪魔をしていたとは考えられないんだ。もしかしたら、不老不死についての情報を初めに警察にリークしたのは難波なんじゃないかな」

その言葉を聞いて志桜里は何かをふと思い出したらしい。

「そういえば難波君がね、竜也くんが刑務所に入っている時に家に来たの。その時は警察もさすがに不老不死の薬があると国民に知られたらまずいからと、ニュースや新聞で報道しないようにと規制をかけていたの。それ以前に、この事件だけは特例として扱われていて、知っているのはリークした本人と私、警察の人だけのはずなのに――難波君は竜也くんが不老不死の薬で警察に捕まったことを知っていたの。その時は難波君も一緒に作っていたから、なんとなく分かってもおかしくないと思っていたけど、確かにおかしいよね。だって薬の作り方を竜也くんから見て盗んだとしても、わざわざ警察にリークする必要はないのに。もしかしたら、竜也くんのあの薬は本当は完成してなかったんじゃないかな。それで本当の完成にするためには竜也くんが邪魔だった。だから、難波君は警察に薬のことをリークして――そう考えればすべての辻褄が合うよね」

「志桜里の言う通り辻褄が合うな。難波が家に来た時まだ報道されていない、いや報道されるはずのない不老不死の薬で僕が捕まったのを知っていたこと。そして、難波も言っていたけど僕は計画に邪魔な人間だって言ったわけが――そういうことだったんか」

「ただ、難波君は竜也くんが自分で教えてきたって言っていたけどね」

「そうだね。僕は難波のことを疑っていたんだけど、毎回情報を教えていたんだ。難波を疑いきれなかった僕も悪いんだけど……」

志桜里との会話のやり取りの中で、僕が今まで難波に対して持っていた疑念が晴れた。この前難波に会った時、警察にリークしたのが難波だと分かった。改めて振り返ってみると、全てが一つに繋がった。難波の計画に僕は邪魔者でしかなかった。だからこそ、難波は警察にリークするという未来を決定づけたのだ。

「すべて難波が一人でしたことなんだな……」

小さく呟いたが志桜里には聞こえていた。

「そうだね、難波君が一人でしたこと何だろうね」

志桜里から返事が返ってきた。

「僕たちは不老不死なんだ……でもさ、体の内側からバラバラにされたらどうしようもないはずなんだ。たぶん、難波も不老不死の薬を作っているから気づいていると思うんだ。それが分かっていても僕は難波を止めたいんだ。志桜里ついてきてくれる?」

「うん。竜也くんとこれからも一緒にいられるのなら、どこまでもついていくよ」

 その言葉に僕は涙しそうになった。でも今は泣くわけにいけない。

 代わりに僕は――

「ありがとう」と小さな声で、志桜里に聞こえないように言った。

まだ、志桜里に「ありがとう」と大きな声では言えない。それに泣くこともできない。これからが僕や志桜里にとって今まで以上につらい経験になる。その全てに決着がつけられたら、志桜里に「ありがとう」と大きな声で言おう。それまで「ありがとう」は取っておこう。「刑務所で最後に視た未来の話をしてなかったね。それは、僕たちの体がバラバラになっても、プラナリアのように体が再生する薬を作る場面だったんだ。志桜里はこの未来が視えてなかったよね?」

志桜里にこの未来が視えていたのかを確認した。もし視えていたのなら、難波もこの薬の存在を知っていることになる。逆に志桜里が視えていなければ、この薬の存在を知られることもない。前者なら薬を先に難波が作っている可能性もある。後者なら密かに薬を作り、難波に体の内部から破壊されたとしても、僕たちの体は再生し死ぬことはない。

ただこの薬の大きな欠点は、本物が全ての断片から再生するのに対し、これは頭部からしか再生できないという弱点があることだ。

「ううん。私にはそんな未来視えてないよ。竜也くんが力を失う前は、私より視える力が強かったのかも。だとしたら、今虚像干渉が使えて未来を視る力が強いのは私のはずだから、難波君はこの薬について知らないと思うよ」

今まで恐怖に駆られていた志桜里の表情が少し和らいだのが分かった。

いくら不老不死になったといえども、体の内部から破壊されて死ぬのは怖いことだ。

しかし、新たな突破口となりうる薬を作れるとなれば少しは気が和らぐはずだ。

「そっか……。じゃあ、これが最後の切り札になるかも知れないな。これは僕と志桜里だけの秘密にしておこう。決して難波に気づかれないように」

「私たちは死ぬことなく難波君を止めなければいけないね。だって仮に難波君を止められたとして、私たちが死んでしまったら難波君一人になってしまうもんね」

これから会うこの残虐な計画を実行している難波に対して、こんなことを言えるのは世界中のどこを探しても志桜里だけだと僕は思う。

僕は志桜里の全ての人を助けたいと動く性格に惹かれた。子供の頃はただの幼馴染だと思っていたけど、学年が上がるごとに志桜里は優しい母親のような存在になっていった。     

勉強もできて性格もいい、そんな志桜里を僕はいつしか幼馴染としてではなく恋愛対象として見るようになっていた。高校に入ってからは、お互いが忙しくなり高校も違ったから会うことが出来なくなった。それから僕たちはそれぞれの道を歩むことになった。それが嫌で過去を変えてまで志桜里に告白した。

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