人類不老不死化計画

五日目に僕たちは難波に会うため地下室から家の外へ出た。

恒平は地下室で留守番させた。留守番といえば聞こえはいいが、本当は難波がしている残虐なことを恒平に見せたくなかった。恒平も一緒に行くと駄々をこねていたが「一人で留守番できるよね」と志桜里が言うと、素直に留守番をしてくれることになった。

地上へ出ると、そこは焼け野原と化していた。

爆撃地から離れてはいたが、山奥の自然に一度牙をむいた火は留まることを知らなかった。燃え広がった火は次々と木々を飲み込み成長していった。

初めて僕は恒平を留守番させてきて良かったと思った。子供が見るには凄惨過ぎた。大人の僕や未来を視た志桜里でさえこの光景には目を疑った。

直接、難波から計画の真意を聞くため、僕たちは車へと乗り込んだ。

中央国立公園へ行くため、焼け野原となっているその中を走っていると、想像を絶する光景が僕たちの目を奪った。そこには、どこへも逃げることのできなかった人たちが無残な姿で倒れていた。それも両手で数えきれないほどの数だった。

「原子爆弾――想像以上だ。こんなにも殺傷能力が高いだなんて……みんなこんなことが起こるだなんて夢にも思ってなかっただろうに」

僕たちは残虐な場面から目を逸らすことができなかった。

「酷い……。難波君の目的はこんなに残虐なことなの。竜也くん難波君はね……」

志桜里は深く息を吐いて、一呼吸おいてから話を続けた。

「難波君の目的は分かってたんだ。でも、こんなにも残虐なものだなんて……」

「志桜里、難波の目的はなんなんだ?」

「難波君はね……人類不老不死化計画という目的を達成しようとしているの」

「人類不老不死化計画?」

名前の通りなら素晴らしい計画なのかも知れない。兼ねてから人類は不老不死を夢見てきた。誰しもが、少なからず生涯を終えるまでに一度は考えたことがあると思う。僕はその長年の夢を叶えたく不老不死の薬を作った。

だが、なぜか僕にはただありがたいだけの計画でないと思った。

「そうだよね。それだけで理解してというのは難しいよね。難波君は今の日本、ううん、世界に面白味を感じていないの。そう竜也くんみたいに。政治はまともに行われているか分からないし、テレビも面白くないし、戦争は世界からなくならないし――そんな世界に面白味が見い出せない難波君は、世界に有能な人材を残し、それ以外の人間を全員殺そうとしているの。そして、残った人には不老不死の薬を飲ませて、その人が死なないようにするの」

「五日前に志桜里が言ってたのは、この計画のことだったんだな……」

志桜里の話を聞いているときに僕は一つの疑問を持った。難波は確かに僕と同じなのかも知れない。でも、僕は人を殺してまで自分の世界を作りたいとは思わない。僕が疑問に思ったのは、なぜ有能な人間を保護してから原子爆弾を発射しなかったのか。そこには将来有望な人材がいるかもしれないのに。唐突にその疑問が浮かんだ。

それに、なぜ難波が不老不死の薬を持っているのか。不老不死の薬が完成したとき、難波の務めている病院に行ったが、そこに難波の姿はなかった。ただ、難波は虚像干渉を使うことができる。だから難波が不老不死の薬を作れたとしても何も不思議はなかった。

「でもさ、それなら有能な人間を先に保護するべきじゃないか?」

「確かにそうだよね……。難波君は何を考えているんだろう」

未来が視える難波なら……

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