第5話 キッチンクルー 小野田晃一



 最近ようやく前沢裕太が落ち着きを取り戻したと、小野田晃一は胸をなでおろして安堵した。

 裕太の様子は尋常ではなかった。ポテトを揚げながらぶつぶつと何か言っている。バーガーを作る際に、中身を一部挟み忘れることがたびたびあった。幸いなことにその多くが周囲の目によって早期発見され、客のクレームに至ったのはわずかに二件で済んだのだ。

 原因はただ一つ。瀧本あづさの存在だった。

 裕太とあづさは小学生時代の幼馴染だったらしい。それがあづさの海外移住で長いインターバルを経て、このクイーンズサンドでの夏休みアルバイトで一緒になったのが、久方ぶりの再会となったのだ。

 はじめはあづさも、懐かしさで裕太に親しげな態度をとっていたが、裕太があづさに交際を申し込み、断られた後も何度も懲りずに告白する彼独特の粘着質が露見するに及んで、あづさの裕太に対する評価は暴落した。今あづさは裕太と一言も口を利かないし、できるだけ顔を合わさないようにしている。

 しかし裕太はあづさの気持ちを受け入れることができないようだった。彼には周囲が二人の仲を裂いているように見えたかもしれない。あづさが誰だか知らない相手と付き合っているというのが最大の要因だったにも関わらず、裕太は周りのみんながあづさを唆して、自分から遠ざけているのだと勝手な解釈をするようになったのだ。

 全く困った奴だと晃一は思った。

 確かにあづさは魅力的な女の子だ。小学生時代からの積もり積もった片想いがなかったとしても、彼女に交際を申し込む男の気持ちを晃一は理解できる。現に晃一はあづさをドライブに誘ったことがある。もちろんあわよくば、あづさと楽しい関係になりたいという不純な動機を大いに抱いて。しかしあっさりと断られた。

 アメリカ人の祖母を持つクォーターで、髪を見事に金髪に染めたヤンキー風の瀧本あづさは、その明るいキャラクターと物怖じしない、はきはきとした喋り、フレンドリーな雰囲気を振りまいて、たちまち店の看板娘になった。話しやすい彼女をドライブに誘わない手はないと晃一は考え、明るく誘ったのだが、しっかり明るく断られてしまった。

「ごめんなさい、男の人とデートするような真似をすると彼氏に叱られるので」

 デートのような真似というところが彼女の配慮を感じることができる。晃一ははっきりとしたデートの申し込みをするタイプではない。漠然と、自然ななりゆきで、どこそこへ行こうか、といった誘い方をするのだ。断られても後に残らないように常に気をつけているうちに身についたスキルだった。あづさはそれを十分把握していたようだった。見掛けより相当賢そうだ。「彼氏に叱られるので」という断り方も実に様になっていて心憎い。晃一はあっさりと引き下がった。

 もともと晃一がクイーンズサンドのアルバイトをするようになったのは、若い女の子と知り合う機会をつくるためだった。晃一の家は、彼にスポーツカーを買ってやることが苦にならないくらいの資産家だった。そこで生まれ育った彼が、ファーストフード店のような薄給で過酷なアルバイトをする必要がどこにあろう。

 高校時代に、友人がファーストフード店でアルバイトをして彼女を作ったという話を聞いて、晃一も高校二年生の夏休みにしてみたのがきっかけだった。

 しかしことは思ったほど簡単には運ばなかった。友人のように彼女を作るという幸運は授かることができなかった。もともと晃一はそれほど見栄えのする外見を持っていたわけでもなく、どちらかというと口下手でもあったので、同年代の女の子の注意を引くことができなかった。しかし、地道にアルバイトをするうち、必然的に出来上がっていくいくつかのカップルを観察したりしているうちに、晃一は何となくそのコツらしきものを掴みそうになっていた。

 大学に入り、運転免許を取得して、車を転がすようになると、事態は一変した。年もそれなりに取るので、十六、七の娘なら十分晃一の相手になるようになった。大学生のアルバイトの中には、四つも五つも年下の娘を何人も食ってしまう豪快な輩がいて、晃一もその影響を受けて、少しずつ娘釣りに成功するようになった。

 こうした遊びは同じ店で何度も行うと、どうしても暴露され、収拾のつかない事態に陥ってしまう。だから晃一はつぎつぎと店を変えるようにしていった。そして今年の夏がクイーンズサンド明葉ビル店である。

 驚いたことに、店長の趣味が良いのか、この店のアルバイトクルーは今まで見たことがないくらい美少女を揃えていた。まさによりどりみどりといった様相である。

 しかし晃一は自分の力量もしっかりとわきまえていたので、明らかに無理があるという勝負には参加しなかった。この店の場合、外見だけで判断すると、高見沢神那や赤塚亮子などが晃一の好みになるのだが、残念なことに彼女らは口数の少ない、晃一の苦手とするタイプであり、ドライブに誘うなどもってのほかという雰囲気を纏っていた。従って、必然的にナンパの対象は、明るく、話しやすく、愛嬌のあるタイプということになる。もし断られたとしても後に残らないドライなタイプ。

 晃一は蒲田美香に真っ先に声をかけた。彼女はまさに看板娘というにふさわしいくらい陽気で可愛い、愛嬌のある娘だった。それにレジの仕事もそつなくこなす。晃一は賢い女の子も好きだったので、迷うことなく彼女を誘ったのだ。しかしそれはこの店での躓きの始まりだった。

 蒲田美香は高校生のようなあどけない童顔をしていたが、実は晃一より一つ年上だった。しかも彼氏もちである。

「ごめんねえ、小野田君」と美香はしっかりしたお姉さまの態度で、申し訳なさそうに晃一に断りを入れた。「私、彼氏以外とはドライブに行かないことにしているの、他の子を誘ってあげて、ね?」

 最後の「ね?」が余計である。とろけそうな愛らしい笑顔を向けるので、本当に惜しいことをしたという気分にまでさせられた。

 晃一はすぐに対象を変更した。他の店で培ったことの一つに、くよくよせず気持ちを切り替える、というのがある。女の子を誘う時もそうだった。断られたら、すっぱり諦め、次を目指すのだ。

 そこで晃一は瀧本あづさに目を向けたのだった。

 結果は二番手も見事に玉砕。晃一は今、森沢富貴恵に狙いを定めている。

 このような切り替えのはやさ、要領の良さが、前沢裕太にはなかった。彼はひたすら恋い焦がれた瀧本あづさのことばかり考えていたのだ。何度断られても不屈の闘志で裕太は立ち上がった。その姿は見事というよりも、不気味にさえ感じられた。このまま放置しておくと何か良からぬことが起きてしまうかもしれない。さすがにそう感じた晃一は、年上の蒲田美香に相談し、裕太を説得するよう促したのだった。

 結果はどうやらうまくいったみたいだった。

 裕太はぶつぶつ言うこともなくなったし、何よりキッチンの仕事に集中できるようになった。もちろんあづさに付きまとうこともなくなった。

 晃一はほっと胸をなでおろしたのだった。



 その日は早朝のシフトだったので、四時頃には着替え終わって店を出た。近くの駐車場へ向かう。朝早いときは適当なバスがないので愛車で出勤している。いかにも若者が乗りそうな真っ赤なスポーツカー。大きくはないが四人乗りだった。

 車まで数メートルというところで、後ろから声がかかった。

「あ、いたいた」

「待ってちょー」

 声の主はすぐわかった。振り返って、にっと笑う。

 森沢富貴恵と泊留美佳が駆けて来た。彼女らも早朝シフトだったらしい。

「ラッキー、アッシー君がいた」と富貴恵はすっかりご満悦といった顔だ。「ねえ、送ってよ」

「ほいきた」と晃一は了解した。

 この二人は一緒にいる時行動が大胆になることを晃一は知っていた。さすがに見も知らぬ男の車には乗らないだろうが、晃一のスポーツカーはお気に入りらしく、何度か乗せたことがある。特に富貴恵は積極的で、真っ直ぐに家の近くまで送ると物足りない顔をするのだ。

「おなかが空いたねえ」と富貴恵が留美佳に言った。

 こういう時は、暗黙の了解のうちにパフェをご馳走することになっていた。

 晃一は十分ほど走らせたところにあるファミレスに向かった。

 森沢富貴恵は不思議な子である。笑うと実に可愛いが、決して美人ではない。表情のない時の顔を見ると、よくこれで江尻店長の眼鏡にかなったと思うような地味でどちらかというと暗い印象の外見をしていた。しかし笑うと白い歯がこぼれ、愛らしい顔になり、見る人のこころをほんわかとさせるのだった。パートのおば様たちには大変気に入られており、「富貴恵ちゃん、富貴恵ちゃん」と頭を撫でそうなくらい可愛がられている。

「おろろ、めろカワイー」など、いつの時代の言葉なのか、独特な言い回しも似合っていて、営業用の言葉遣いが、客のいない時に突如スイッチが入ったかのように富貴恵語に変わるのだった。

 まるで人懐こい犬のようだと晃一は思った。高校一年生の癖して四つも年上の晃一にタメ口を利くところも彼女の場合魅力に映った。おそらくスタッフの中で最も話しやすい相手だろう。

 泊留美佳の方は、直接話をしたことは少ないが、カウンタークルーの問題児という印象がある。ミスが多く、毎日叱られていた。彼女も富貴恵と同様中学を卒業したばかりという容姿をしていて、瀧本あづさや高見澤神那と比較すると、本当に一学年しか違わないのかと疑ってしまう。そのくらい幼い高校生だった。

 しかし富貴恵の横に並んだ時は、留美佳の方が大人っぽく見えるのだから不思議だった。口数が少なく、聞き上手の留美佳はおしとやかで思慮深い娘に見えた。レジでパニックになっている時の彼女が嘘のようだ。一年一年成長して、精神的にも安定してくれば、もっと魅力的な女になるのかもしれない。

 この二人が並ぶと、富貴恵がアクセル、留美佳がブレーキという絶妙のコンビネーションを見せるのだった。

「今日もめろ大変だったねー、オイラーなキッチン、暑くなかった?」

「オイリーじゃないの?」

と言う具合だ。

「ポテトの油がしみ込んでくるよ、ほら臭うだろ?」

 そういう時、富貴恵は本当に間近まで顔を寄せて臭いをかぐ。目を閉じて鼻を突き出した顔は思わずキスしてしまいそうだ。隣で留美佳は呆れていた。

「キッチンのみんなは我慢強いから、チョー尊敬」

 確かにキッチンのクルーは真面目でおとなしい男が揃っていると晃一は思った。しかし内心はどうだろう。裕太のような奴が他にいてもおかしくはない。真面目で目立たない田丸誠や、なよなよしている癖に女の体を舐めるような目つきをときどきしている伊堂寺つばさなど、怪しめばいくらでも怪しむことができた。

「ねえねえ、キッチンのクルーって、彼女いない人ばかりなんでしょう?」

 富貴恵はこういう話が好きなようだった。パフェを口にしていると、一度はこういう話題になる。そろそろこどもも色気づいてきたということか。

「さあ、どうだろう、もてそうな奴はいないけど、人は見かけによらないからな」

「またまた、めろ知らんぷー」

 滅茶苦茶知らないふりをして、と言っていることがわかるようになったのは最近のことだ。

「あのね、ぼくは野郎には興味ないの」

「だよねー、いきなりミカちゃんとタッキーを口説いて玉砕したんだからー」

 富貴恵は誰に対してもニックネームで呼ぶ癖があった。最近は面と向かって本人にいうことまであるが、みな富貴恵のキャラクターを知っているから放任している。彼女にかかると誰もが許容してしまうのだ。五つも年上の蒲田美香を「ミカちゃん」、瀧本あづさを「タッキー」と呼んでいた。ちなみに自分のことを「フッキー」ということもある。

「じゃあ、タッキーの次は、フッキーにしようかな」

「来た来た、乙女のピーンチ」

 富貴恵はそう叫んで、両頬に手をあてた。留美佳がしらっとした冷笑を浮かべた。

「キッチンで女性の話はしないのですか?」

 珍しく留美佳が口を開いた。この三人の間のお喋りでは彼女の台詞は全体の五パーセントにも満たない。

「俺たち、仕事忙しいからな、そんな暇ないよ。それにゆっくり話し合ったりして親睦を深めたこともないし、俺は最年長だけど、他の奴が何を考えているのか全くわからない」

「こっちにいると、よーくわかるよ」と富貴恵が自慢げに言った。

「マジかよ」

「少しだけですよ」と留美佳が訂正した。

「うんにゃー、こーいっちゃんがミカちゃん、タッキー。ユータがタッキー。ニシくんがリョーコさん、カンナちゃん。ツバサくんがタッキー、リオさん。マコトくんがカンナちゃん。誰が誰に興味を持っているかお見通しでーす」

「俺の話は、もう済んだというに」と晃一は苦笑いしてから、「そういう話って、カウンタークルーのみんなはすべて知っているというのか?」

「そんなことないと思います」

「フッキーたちがそう感じただけだよ。他のみんなはあまりこういうこと話し合わないし……」

「参ったね、君たちだけが知っているというわけか」

「そうそう、でも私たちには誰も来ないのにゃー」

 富貴恵は心底不服そうだった。

 こういうのは脈がある。そう思った晃一は、留美佳がトイレにたった隙に富貴恵に持ちかけた。

「じゃあ、今度俺とドライブに出るかい?」

「うん、行く行く」

 富貴恵は躊躇いもせず答えた。その笑顔に何の曇りもなかった。



 晃一は日曜出勤をしないことにしていた。どうしてもクルーが不足している時は出ることもあるが、晃一にとって休日は体を休めたり、遊びに出かける日なのだ。ずっとそのポリシーは曲げていない。

 晃一は富貴恵とメールのやり取りをして日曜日ドライブの計画を立てた。その日は富貴恵は早朝から昼過ぎまでの勤務だったので、二時には彼女を拾うことができる。

「これは内緒だからね」と晃一は釘を刺したが、どこまで富貴恵が守るだろう。他のクルーたちとの関係を考慮すると、留美佳や美香に漏らしてしまう虞があった。男とデートなどしたこともないだろうし、それを誰かに自慢したくなる気持ちもわかる。

「あたし、お喋りと言われるけど、内緒ねって言われたことまで喋ったりしないよ」

 こうなったら富貴恵の言うことを信じるしかない。富貴恵は内緒のお出かけを楽しみにしていた。

 当日、約束の場所に車を向かわせると、店から少し離れた公園の入り口あたりに富貴恵は立っていた。

 黒とグレーのチェック柄の五部袖ワンピース。ハイウェストで、細いリボンをゆるゆるにしているので体の線は全くわからない。丈は膝上、黒のレギンスが脛を半分くらいまで隠している。富貴恵にしては随分地味な格好で、黙って立っていると暗い女の子に見えた。

 助手席に乗り込むなり、いつもの富貴恵になった。

「涼しーい、天国だっちゃ」

 小さな籠バッグを膝の上にちょこんと載せた。その様子はまさに子供みたいだ。

 それほど時間もないのでどこかで歩くことも考えず、ひたすら車を走らせた。

 話は必然的にQSでのエピソードやクルーの話題になる。晃一は気にしていた前沢裕太と瀧本あづさについてそれとなく振ってみた。

 富貴恵は簡単に話に乗った。

 裕太はやはりあづさについての情報を集めるために、富貴恵と留美佳のところまで話を聞きに来たという。あづさと彼女らは同じ高校だからだ。あづさの彼氏と呼ばれる人物について、裕太はしつこく訊ねたらしい。

「つい、うっかり名前を出しちゃったものだから、追及が凄かったんですよ」とシリアスな部分に触れる時、富貴恵の喋り方は普通になった。「どんな奴だ、何をしている、って感じです。正直『御木本英司』という名前を出したことを後悔しています」

「そうだよな、俺もあいつが何かやらかすんじゃないかとひやひやしていたんだ。それで蒲田さんに相談したんだよ」

「ミカちゃんに?」

 富貴恵にかかると蒲田美香も「ミカちゃん」だ。たとえ年上であっても親しみやすい蒲田美香、高見澤神那には「ちゃん」付け、とっつきにくい赤塚亮子、古木理緒らには「さん」付け、瀧本あづさや泊留美佳には「タッキー」、「ルミキー」と愛称をつけていた。

「そう、ミカちゃんに」と晃一は受けた。「そしたらミカちゃん……蒲田さんが間に入ってくれて、あいつを呼んで説得し、どうにか今は落ち着いていると思うよ。前沢も仕事に集中するようになったしな」

「ふうん、そういうことがあったんだ」

 富貴恵は感心した。

「瀧本さんも、これで一安心じゃないのかなあ」

「ううん、そうでもないようなんだけど」

「え?」

「何だか、ちょっと思いつめた感じかな。あまり表に出さないので、よおっく観察しないとわからないくらいなんだよね」

「君でも、ひとのこと観察するんだ」

「あ、馬鹿にしたでチョー?」

 富貴恵が思わせぶりなことを行ったが、晃一はつい茶化してしまった。もはや他人のことはどうでも良い。特に裕太やあづさのことについては、晃一の中ではもう済んだことだった。

「ところで」と晃一はハンドルを握りながら話を変えた。「田丸が高見澤さんのことを思っている、みたいなことを言ってなかったか?」

「そうそう」と富貴恵はすぐに話に乗る。よほどこの手の色事が好きなのだろう。「マコトくんはねえ、カンナちゃんがレジにいる時に限って、ふらっと出てくるのよ、バーガーやポテトを抱えてね。他の子の時にはそういうことしないの」

「あいつは君の高校だったよな、確か学年も同じはず」

「押坂の一年。クラスが違うから会ったこともないけどね、ほらマコトくんて全然目立たないじゃない?」

「その割には馴れ馴れしく、マコトくんって言ってる」

「やあね、これはフッキーの券売特許よ」

「それを言うなら、専売特許だろ」

「そうともゆう」

「しかし、見に来るだけじゃあ、誰でも見に来るだろう。特に江尻店長なんか、高見澤のこと超お気に入りなんだからな」

「だよねー。ありゃ今までにあちこちの店でクルーをいっぱい食ってるよ。すでにカンナちゃん食われているかも」

「そ、そうなのか?」

「きゃあ、前見て運転してチョー」

 あどけない顔で恐ろしいことを次々口にする。富貴恵は思った以上に面白い子だった。しかし高見澤神那の話は少し気になるところだ。声をかけこそしないが、晃一の好みはどちらかというと、神那のような花のあるお嬢様だった。

「大丈夫、カンナちゃん、そんなことしないから」

 富貴恵は晃一の内心を読んだかのように宥める声色になった。

「カンナちゃんはねー、男の人に興味がないの」

 聞きようによっては意味ありげだが、富貴恵の顔には他意はなさそうだ。

「それより、田丸が顔を出すからといって、高見澤にご執心だとは限らないだろ」

「ところがねー、同じくカンナちゃんがレジにいる時に顔を出そうとするのがいて、それがニシくんなんだけど、彼がいると、『俺が持っていく』って言って、マコトくんの役をとっちゃうのね。おかげでマコトくんはカンナちゃんの顔が見られなくて、超不機嫌になり、殺しそうな顔をニシくんの後姿に向けるのよ。こわー」

 もしそうなら、田丸誠は前沢裕太二世だと晃一は思った。

「しかし田丸の方が高見澤より一つ年下だろ?」

「愛に年は関係ないわ」

 富貴恵は唇の前で人差し指をちっちと振った。ませた態度が面白く、可愛い。

「言うねえ、じゃあ、お城の中でゆっくり愛を語るとするか」

「きゃああ、お城? きらきらした夢のお城がいいー」

 天然ボケかもしれないが、大人をからかう奴にはお仕置きが必要だと晃一は思った。



(作者注 R指定のため非公開としました。別のサイトで公開するかもしれません。)

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