第11話

 ルシアは息をすーっと吸い込み、目を閉じる。

 五感を極力遮り、第六感である魔感に全意識を集中させる。

「…あなたの望みに幸あれ。人の望みを叶える魔女、ルシアが最後に命じる。かの者の望みを叶えよ。マジカル…ブレス」

 詠唱するルシアから何かが溢れる。

 

 ―――それは、彼女の慈しみであり、祈りであり、愛であった。

 

 キラキラした光がルシアから、そしてリアムからも溢れ出る。

 その光に飲み込まれたデーモンは一瞬で消え去り、重々しい雲を吹き飛ばし、神々しい光が天から、そして二人から放たれる。


 ―――光だけではない。


 そこにいる人々は眩しさに目を覆っていた。そして、その白き光に包まれると、体の疲れが癒えるのを感じ、心地よい気持ちに包まれる。それは、誰もが体験したことがある感覚。



 ―――それは愛。

 厳しい愛、肯定される愛、守られる愛。

 聖母に包まれているような慈愛や、神に認められたような自己肯定感に涙していた。

 その感覚に負の感情は洗われて、清らかな気持ちになる。

 そして、祝福するように草木は生い茂り、花々は満開になる。


 ルシアは黒き感情から解き放たれ、自身の中に溜まっていた人々のことを想う白き感情が溢れて感動する。

 ずーっと抑圧されてきた感情は留まることを知らない。


 人々は感動した。

 ルシアを天使のような人だと。

 

 白い光が大陸全土を覆うとようやく光が消えていく。

「リアム…」

 ルシアはリアムの青い瞳を見つめる。

「ルシア…」


「私は一人に一回しか魔法かけられないから。だから、魔眼とかじゃないから」

「なっ」

 リアムとルシアはお互いの気持ちや記憶を共有していた。


「そんな風に言ってもらったの…初めて。そんな素振り見せなかったのに。多分あの時、私の目を見て惚れちゃうなんて思ったのは…ふふっ、リアムだけだったと思うよ?ちょっと照れるかも」

「言ってはいない、言っては。ルシアだって、私の瞳を…っ」

「うん、大好き」

 年相応な純粋で、それでいて魅力的な赤い瞳でリアムに上目遣いをするルシア。


「こほんっ。デーモンは消えたのか」

「…うん。消えたみたい」

「そうか」

 リアムはまたルシアを抱きしめる。


「これからは魔法も魔物もいない、人の手によってのみ作られていく世界だ」

「えぇ…でも」

「君は人だ。魔女じゃない。人の幸せを願える優しい女性だ」

 二人は目線を交わした。

 

 世界から魔法が消えた。

 そのことを残念がる人もいた。

 何かを代償にしてまで願いを叶えたい瞬間というのは人に訪れる。


 しかし、その代償の怖さを知っている新たな王と王妃は信じた。人の力を。

 人は自分を、他の人を幸せにする力を持っていると信じていた。

「まずは、私たちから始めなければ、なっ」

 リアムはルシアをお姫様抱っこする。

「わっ、私も。頑張る」

 胸のあたりにあった両手で小さくガッツポーズするルシア。

「あぁ、一緒に頑張ろう」

 二人はキスをした。

 自分を、相手を、そして世界の人々を幸せにすることを誓うキスを。


 ―――こうして、リアムとルシアを始めとした人が人を幸せにする世界が始まり、多くの人が相手を思いやり、お互いを大切にする、愛に溢れた幸せな世界が築かれていった。



 ~Fin~

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法の代償 西東友一 @sanadayoshitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ