第7話 茉白 ENDmarker.

 ひとりで、仕事を受けて。


 ひとりで、死にに行った。


 そして今。


 死のうとしている。


 建物の、瓦礫のなか。

 ぎりぎり、ひとりぶんの空間。身体は動かない。


「死ぬのか」


 死には、何の感慨もない。

 知っている。死んだところで、彼女に逢えるわけでもない。ただ、消えてなくなる。それだけ。死と幻想は、繋がったり繋がらなかったり。結局は、死んでみないとわからない。一度きりの、死。どこへ行くかも、わからないまま。


 胸ポケット。

 がんばって、手を動かす。他の瓦礫に擦って、少し血が出たけど、気にしなかった。

 この前、もらった、偽物の煙草。

 がんばって、口許くちもとに持ってきて。吸う。


 ミントの匂い。

 和らぐ気分。


 彼女とキスしたことは、ない。ふれたこともない。


 死んだら。

 彼女とふれ合えるだろうか。


 ここではない、どこかで。きっと。


 煙草の落ちる音は。


 聞こえなかった。

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