第4話 茉白

 危険な、仕事だった。


 いつ死ぬかも分からない。急にいなくなることもある。連絡できないことそのものが、普通。


 そういう日々のなかで、彼女と仲良くなれるはずはなかった。


 ただ、ときどき。仕事の関係で会う。そして、仕事の合間に食事をしたりする。それだけの仲。友達未満。

 それでも、会えば、お互いのことがわかる。表情。まとう雰囲気。恋人以上の、何か。


 その何かを、伝えたいと、いつも思う。それでも、言葉にはできない。


 彼女の瞳のなかに、どうしようもなく、切ない何かが見えるから。


 彼女の内奥の、とても深い部分に。彼女自身も見えない、なにか、広くて大きな何かがある。それだけを、いつも、感じた。


 そうやって、彼女との日々が、少しずつ、重なっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る