第27話 入院と来訪者①
俺は入院して早4日、ちっとも心が休まらなかった。
なにせ、毎日矢継ぎ早に人が来るのだ。あまりの多さに、最初はいちいち応対していた俺も、次第にうんざりして面会謝絶にしてもらった。
あくまで知り合いに限定してもらうようにしたのだ。あと、俺が許可出した人。
ノックの音がして、看護師さんが入ってきた。
「コバさん、面会したいって方が来てますけど」
「誰っすか?」
「レイラさんです。あと、お連れの方が一人」
レイラさん。彼女なら安心だ。どうせなら美味しい料理でも持ってきてくれるとありがたい。ここの料理は正直ボリュームが足りないのだ。
「通してください」
「はい。ちょっとお待ちくださいね」
そうして、少し待っていると、すっかり見慣れたレイラさんの顔がひょこっとドアから出てくる。
そして、どデカい塊が二つ、彼女の頭の上に乗っかっていた。
「……ちょっと、重いよ」
「あぁ、すいませぇん」
そのデカい塊の持ち主の女性が、彼女の頭から離れて病室へ入ってくる。この子も見たことがあった。牛獣人で鑑定士のハートさんだ。
「お久しぶりですぅ。聞きましたよぉ、すごいですねぇ、あの怪物をやっつけたんでしょぉ」
「いやあ、ははは……」
「まー、しかし派手にやったもんだね」
レイラさんが荷物を置きながら、俺の様子を見る。俺はベッドに寝かされていて、体中に包帯を巻かれているような状態だった。歩いたりはできるけど、内臓が傷ついているしアバラも折れているので、めちゃくちゃ痛い。
レイラさんは苦笑いを浮かべると、布に包まれた箱を取り出した。
「どうせ肉とかほとんど食ってないんだろ?差し入れ」
「ありがてえ!」
「私もありますよぉ、差し入れぇ」
ハートさんはそう言って、白い液体が入った瓶を取り出した。
「とれたて新鮮ですぅ」
「あ、それって……」
いつぞや飲んだ彼女のミルクだ。強い治癒促進効果を持っているが、原液で飲むと中毒症状になるほど依存性が強い劇物である。
「それもですねぇ、奮発しちゃいましたぁ。い~っぱい、ありますよぉ」
彼女が取り出したミルクの本数は、あれよあれよと増えていった。俺のベッドの横の棚の上が、ミルク瓶で埋まる。
「……間違っても、一片に全部飲むなよ?せいぜい1日1本な?」
「わかってますよ……」
俺はひきつった笑いを浮かべてながら言った。これ、希釈している意味あるんだろうか……?
「いやぁ、でもハートさんにスキル鑑定してもらったよ。じゃなきゃ、あんなバケモンと戦うなんて無理だったからなあ」
「……やっぱり、そんなに強かったんだ。筋肉猪って」
「そうっすねえ、俺も専門家じゃないから何とも言えないっすけど、あいつ多分スキル持ちっすよ」
「そうなんですかぁ?」
ハートさんはスキルの鑑定士、つまりはスキルの専門家だ。俺は、彼女たちに筋肉猪の見せた特異な能力について話した。
「……それは、相当ヤバかったですねぇ」
「……え、そうなの?」
「実は、スキルってぇ、まだわかっていないことが多いんですぅ」
ハートさん曰く。
スキルにも様々な種類や分類があるそうだ。
俺の「単独行動」みたいに条件次第で常時発動する奴。ラウルの「一気呵成」みたいに効果が重複する奴。
「ある学説があるんですぅ。スキルはぁ、精霊が別の生き物に取り憑いて発現するんじゃないかぁ、ってやつですねぇ」
「精霊?」
それって、魔物として出てくることもあるゴーストやウィルオ・ウィスプみたいなもんだろうか?俺は、今まであったことないけど。
「そういうおとぎ話もありますからねぇ。一人の男に精霊が力を貸して、その男は人を超えた力を手に入れ、英雄になった……。そんなお話とスキルを重ねてるんですねぇ」
まぁ、諸説あるうちの一説だしぃ、確たる根拠もないんですけどねぇ、とハートさんは締めくくった。
「とにかくぅ、魔物がスキルを持っていることがあるっていうケースはぁ、私は初めて聞きましたぁ」
それ、俺はかなりすごい発見をしたことになるのでは?
「まぁ、所詮野良のしがない鑑定士の話なのでぇ、魔導学院の学者さんとかは知っているかもしれませんけどぉ」
「そ、そう……」
ちょっと上がったテンションは、またフラットに戻されてしまった。
しかし、そうなると、魔物の討伐も楽じゃないな。スキルまで持っている奴が出てきたら、対策なんていくらやってもやり足りないくらいだ。
「でも、そうそうスキル持ちの魔物なんて出くわしたりはしないと思うけどね」
「何でですか?」
「そんなのいたら、あたしのところにそういう話が山ほど来るから」
ああ、なるほど。
ドール子爵領の中心となっているのは、このバレアカンだ。そこで一番の力があるのは、まぎれもなくこのレイラさんである。何の力かは知らないけれど。
スキル持ちの魔物なんて話がこの人のところに来ていないというなら、少なくとも人前にそういう魔物は出てきていないということか。
善人でも悪人でも、ひとまず相談に持っていくのが、この人の所なのだ。
「あ、そういえば、食堂、繁盛してますか?」
「ん?……ああ、来たよ。いろんなお客さんがね」
思い出したのは、ルーフェの件だ。食堂には彼女を追っている冒険者も来ることがあるかもしれないと、レイラさんに言われていた。
ここには部外者のハートさんもいるし、療養所で彼女の名前を出すのは危険だろうから、やんわりと聞いてみる。
「なんか、金髪の女を探しているって客も3,4人来たけど、意味わかんなかったね。金髪なんて何人いるんだって話だよ」
どうやら、彼女のことが漏れたりはしていないらしい。俺はひとまず安心した。
「?……金髪ぅ?何のことですかぁ?」
首を傾げているハートさんには、とりあえず何も勘付かれなかったらしい。
ひとまず、何か飲もうとそこにあった瓶の飲み物を特に気にせず飲み干した。
治療促進効果で、意識が落ちたことに気づいたのは、二人が帰ってからだ。
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