第18話・第37回・漢気勝負

「漢気勝負に参加される方はこちらへどうぞ」


 アニメや漫画に出てきそうなファンタジーのコスプレをした男が見た目プラスチック製の剣を持って案内している。


「白鳥の奴一体どこに行きやがった」


 案内された枠を潜って360度見渡すがやはり白鳥は見当たらない。変な服装をした奴らがウジャウジャと居るだけだった。

 そういえば体育の時もこんな事あったっけ、入学したてで白鳥の心の声だけが聞こえなくてそれから気になってバレないように目で追ってたっけ。それは今も殆ど変わらないけど、とにかく今はあいつを一刻も早く見つけねぇとな。



 当の麗音はと言うと参加特典として無料で配布された戦士服を身に着けて鉄雄の直ぐそばにおり、麗音はやってきた鉄雄に気がついて近づこうとしていたが鉄雄の身を隠すように人が増え華奢な麗音の体は端の方へと押し流されていた。


(駄目だみんなデカくて近づけない…心瞳くんに気づいて欲しいのに)


 自分の小さい体に悔しさを覚えて押し流されていると、枠の中心地からマイクの作動する音が聞こえてきた。

 いよいよ始まるんだ漢気勝負。

 心瞳くんに気づいて貰えなかったのは残念だけど勝ち進んでいけばいつか当たる筈、そう信じて頑張るしかないよね。


「ではこれから第37回・漢気勝負を始めていきたいと思います!!」


 若い女性司会者がタルの上で大会の流れから決闘のルールを分かりやすく説明してくれた。

 ルールは久我くんが言っていた通り武器を使っての決闘方式みたいで3種ある、剣。槍。弓。の中から一つ選びそれを使う。

 勝敗の決定は体に付けられている3つの小風船を先に割ることで決まるシンプルなルールで小風船が付いている場所は頭と肩のどちらかと心臓だ。

 怪我をしなければ少々強引な攻撃も戦略的にはアリ。強引な攻撃って何だろうって考えてみたけど自分の選手ナンバーをいきなり呼ばれて対戦相手の方へと向かう。


(いきなり呼ばれちゃった!しかも凄い数の人が集まってるし)


 対戦場は5つあり僕は中心の方に置かれていた。対戦場は大縄でぐるりと円形型に巻かれており地面は全て石のない整えられた砂みたいだった。外野からこっちを応援する人達が居る。

 2メートル程離れた対戦相手を兜越しから盗み見して驚く。相手が自分と同じくらいの体格だという事に。

 自分と似た体型の人も出てたんだ!もっとガッツリ鍛えている人ばかりなのかなって。

 よし、単純だけど自信が湧いてきたぞ!


 左手に持ったプラスチック製の剣を強く握ると審判から決闘開始の掛け声が飛び出した。




 試合開始早々に相手が腹痛を訴えリタイア、僕の不戦勝利となった。


 そこからは怒涛の奇跡ラッシュが起きて気がつけば僕は準決勝まで勝ち上がっていた。

 勝ち上がるというより神の力で引き上げられている気がして現実を受け入れられない。

 だけど勝ちは勝ちなのでこのまま奇跡が続いてもし優勝出来れば…!


(────心瞳くんと遊園地に行ける)



 その頃、鉄雄は秒速的速さで対戦相手を負かし決勝戦まで残っていた。


 今は試合どころじゃねぇのに。白鳥が何処にも居ないぞ。

 確実に漢気勝負に行ったはずなのにどうして見当たらないんだ?こうなりゃ最悪決勝戦をリタイアしてでもあいつを探し見つけ出す。


 早歩きで準決勝の枠を手当たり次第に探し回る。なんでどいつもこいつもコスプレしてやがるんだ。これじゃあ白鳥が見つけられ……!


「コスプレだ!!!!!」



 何故気づかなかった。あいつも出場者なら戦士服を貰ってるんだ。

 なら今度は小さい戦士を探す!!

 走り出そうとした時に欲しかった情報が頭に直接飛び込んでくる。


 ──────あの子、あんなに細いのに準決勝まで残ってる


 ───────ほぼ無傷で準決勝まで勝ち上がるなんて相当な実力者よね


 ────────どんな戦い方をするんだろ


 無差別に他人の心の声を受信しながら、これから始まる準決勝の選手二人を見る。

 片方は俺と同じくらいの体型をした男で、もう1人はかなり細身の戦士服を纏った性別の分からない奴で俺は確かめるように大縄を両手で持ち体を前に傾けて目を細める。


「君!!入りすぎですよ」

「わかってる…」

「わかってるならちょっと引いて!」

「わかってる…」

「だから入りすぎ!!」


 警備員らしき男が俺を注意しているが今はかまっていられなかった。さらに細い方を観察すると右手にスケッチブックを持っているのがハッキリと見えた。




「白鳥!!」



 審判の試合開始合図と共に俺の声が放たれ白鳥に届いた。

 白鳥が驚いてこちらをずっと向いているので、向かってきている相手に気がついていない。


「白鳥!前!前を見ろ!!」


 相手の振りかざしたチープな剣から風を切る音がここまで聞こえてくる。

 どんだけ速い攻撃だったんだよ、玩具とはいえ奴の全力の振り下ろし食らったら結構痛い気がする。

 剣の持ち方といい足の筋肉、おそらく剣道部だろう、経験者と完全な素人。


 俺は白鳥を応援するべきか?もし奇跡が起きて白鳥が勝ってしまえば俺と決勝戦で当たる訳だが。

 それはなんというか複雑だ。だけどあんだけ必死で食らいついている白鳥を見ちまったら応援するしかない。

 大きく息を吸い全力で白鳥を応援する。


「ファイト!!!!!!」



──────なんだコイツ??めっちゃ応援してるじゃん


───────なにビックリしたんだけど



────────彼氏さんの応援かしら?



──────────決勝戦に上がった人だ


 前のめりが過ぎて警備員に大縄から少し引き離される。


「もうちょっと離れて下さい!」

「頑張れ!!白鳥!!!」

「だからもうちょっと離れて!!」


 太い腕に吹き飛ばされて地面に転がる白鳥の近くは大きく砂埃が舞っていた。

 戦士服は砂まみれでマスクも汚れており、砂を飲み込んでしまったのかゲホゲホと苦しそうに咳をしている。





(僕が勝つんだ…絶対に)


 相手に目線を向けながら手だけはゆっくりとスケッチブックを地面に優しく置く。

 ここに来て眠気が雪崩の様に意識を襲うが必死で抗う。


(こんなに動いたのいつぶりかな)


 自分より遥かに大きい相手はこちらを見たまま全く動かない。不気味な笑顔でこっちを見て剣を両手で構えているだけ。

 多分勝ちを確信しているんだと思う。

 そういえば何かの本に書いてあった。試合中の勝ちの確信は油断に繋がり敗北を呼ぶって。


(僕はまだ負けていない!)


 右手で砂をめいいっぱい取り相手に正面から向かっていく。

 相手との距離が手の届く距離まで来たので右手に持っていた砂を容赦なく投げ、出来るだけ低い体勢で懇親のタックルを仕掛けた。


「目がッ!!!」 


 咳をして器用に自分の風船を守りながら目を擦っている相手にかまわずタックルしたが驚くくらいにビクともしなかった。体を使って必死でタックルを続けていると相手に首元を掴まれ簡単に投げられてしまう。


「砂はまじで予想してなかったわ…」

「ほら飛んでけ!!」


 背中から地面に落ちれたおかげで心臓の小風船は無傷で済んだ。

 頭を左右に振って付いた砂を落としもう一度、砂を使ったタックルを仕掛けたが相手に見破られ砂を簡単にかわされてしまう。


(!)

(こっちに来るっ)


 今度は相手が向かってきて僕は呆気なく左手に持っていた剣を取られてしまう。

 相手が指で心臓部分の小風船を今から割るぞとニヤついた表情をしている。


(まだだよ!!)


 右手の裾に隠していた黒マーカーペンを出し相手の下腹部に素早く突くと、突然の事にびっくりして相手は僕の左手を解放してくれたので急いで相手との距離をとる。


(クラクラしてきた…だけどまだ戦えるよ)

(見ててね心瞳くん)



 白鳥の残る風船は心臓部分の一つだけ、一突きされればそれで決着がついてしまう。


 ──────あの子まだ戦おうとしてる。俺ならリタイアするのにな


 ───────風船一個じゃあ勝ち目なんてないと思うがどうなる…


 ────────相手が相当強いな、頑張れちっちゃいの


 ────────なんか俺も緊張してきた


 観客も騒いで盛り上がるというより、全員が固唾を飲んで静かに応援をしていた。

 勿論、俺もその中の一人だが誰よりも白鳥に勝って欲しいと思っている。

 何故お前がそこまで頑張れるのかは分からんが、お前の白く真っ直ぐな心と行動は俺含め周りを魅了する。


 ────────だから俺はお前のそういう所が…………




 もう一度声を出して応援しようとした時だった。

 ようやく立ち上がった白鳥がフラついて地面に倒れた。

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