第10話 笑い話





 久しぶりの社用車の運転。少し緊張気味。

 信号待ちだ。

 隣の右折車線には、可愛いフォルクスワーゲンが、わたしの斜め前に止まっていた。

 女の人が一人で乗っているようだ。

 フォルクスワーゲンは何故か不自然に揺れている。

(なんだろう?)

 わたしはフォルクスワーゲンを凝視した。

 ドライバーの女の人が、両手を肩まで上げて、上下運動させながら、体も大きく左右に振っていた。

(えっ? 踊っているの? 車の中で?)

 まさかと思いつつ見惚れていると、助手席にあるチャイルドシートに、ふと気が付いた。

(赤ちゃんがいるのね? あやしているうちに、可愛い反応するものだから、思わず身振り手振りが大きくなったのね)

 わたしの位置からは、赤ちゃんの存在は確認できなかったが、そんな想像をしながら、どんな可愛い赤ちゃんが座っているのかとても気になった。


 間もなく信号が変わり、フォルクスワーゲンは少し前に出た所で、右折待ちで止まった。

 直進するわたしは、そのフォルクスワーゲンを追い越しがてら、助手席をチラっと覗いた。

 が……。

 助手席には誰もいなかった。

 拍子抜けした後、わたしは思わずひとり笑ってしまった。

(単に音楽に合わせて踊っていただけなのね)

 そう思うとまた笑ってしまった。

 彼女の踊りを思い出す度に笑いが込み上げて止まらなかった。

 が……。

 次の信号待ちでわたしは気が付いた。

 片道二車線の隣り車線の男の人二人が、今度はわたしを見て笑っていたのだ。

 先程の交差点から次の交差点まで約300メートル。

 その間笑いっぱなしだったわたしを見て、並走していた隣の車の人は、ずっと笑って見ていたに違いなかった。

 恥ずかしいよぉ。

 

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