第2話 11月19日

 自分は10時頃、目を覚ました。

 感染者が出た事で学校のテストは日程変更となり、自分のような一部の人間を除いて午前授業がある為、自分が身体を起こした時には授業中だっただろう。

 クラスメートは勉強している一方で、テスト勉強のスケジュールが狂った自分は、小説の次の話を作り、こないだ始めたシャニマス(アイドル育成ゲーム)のログインをし、ダビマス(競馬ゲーム)を進める怠惰たいだぶりを見せてしまう。

 とは言え、自分が保菌者の可能性もあるので、家の中でもマスクをして、極力リビングに行くのを控えた。その結果夕方までベッドで生活してしまったのだが。


 アニメを見ながら日本史をやっていると、自分への電話が来た。担任の先生からだ。

「明日も……まだ自宅待機と言う事になります」

「……そうですか」

「まだ保健所から濃厚接触者の扱いになるかの判断が来てないので………………」

 今日は木曜なので、明日も休みとなると、次行くのは週明けになる。その時、まぁテスト直前だし、正直休みでも全然構わないわ……などと考えていた。

 勿論、"テスト直前"考えさえも完全に否定される事になるなんて、その時の自分に知る由もなかった。


 6時頃だろうか。引き続き勉強をしていると、父親から携帯に電話がかかってきた。

「今から隣に行って」

 そこで言われたのは、実は前日にも一度言われていた話なのだが、今から隣のマンションに住んでる姉の部屋に行けというもの。そして、姉をこちらへ来させる。


 つまり、自分は家族から隔離される事になったのだ。


 〜〜


 最低限の荷物を用意して、隣に移動する。

 家族から隔離されるという事は、家が出禁になったのと同じである。食事すら、家族がこちらへ持って来るという話になっている。

 勿論、姉は不満だった。

 医療系の勉強をしている姉にとって、わざわざ大量の勉強道具を持っていくのは手間がかかるし、それに自分の部屋を弟に引き渡したくないという思いもあるのだろうと、自分なりに推測している。

 それともう一つが、父親の事だろう。仕事が忙しいとは言え、こう言った対処を偉そうに命令だけしているのは、普段は温厚な方だと思っている自分でも不満が浮かんで来る。現に姉は父親への怒りをかなり激しい言葉で呟いていた。

 結果、姉は居残って自分と同じ空間で生活する事になった。


 こんな光景を見ていると、これこそがコロナウイルスの怖い所なのかもしれない、と思う。

 見えない敵に対する恐れが、人々を惑わす。

 正直言って、父親に対して不満や怒りを感じたのは、コロナという見えない敵を恐れる人々に振り回される現状に、ストレスを感じていたのではないかと考えている。

 もしそうだとしても、辛かった。

 感染者と最後に接触があったのは4日前、部活の大会だ。それだけの事実の中で、自分は父親から悪い意味で特別扱いを受ける羽目になる。

 あまり物にベタベタ触るな。食事も睡眠も隣でやれ。そうやって孤立させられる度に、自分は家族から追いやられる感じがした。

 悲しい訳では無かった。

 自分への理不尽な扱いにいきどおりを感じたのだ。

 感染への対策はそこそこしっかりやっていた筈。朝には体温を測り、学校に行けば手の消毒をして、必要な時には極力マスクもつけていた。

 外出時にマスクを外していた時間なんて、食事の時と、スポーツをしている時と、自転車に乗っている時だけだ。因みに自転車に乗っている時にマスクを外している理由は、自分が10km程度の距離なら公共交通機関を使わずに自転車で行く人間である事(乗り換えが多かったりアクセスが悪い場所など、場合によっては公共交通機関より早く行ける時もある)、そして殆どの日は眼鏡をかけているので、息で眼鏡が曇ってしまうからだ。

 感染対策をする一方で、自分は過度にコロナを恐れ、対策を他人に押し付ける人々────悪く言うなら自粛警察────に対して、この眼鏡の例を使って反論したい。

 自転車に乗っててもマスクをする必要がある場合、ここ最近の寒くなってきた季節なら尚更、自転車を飛ばすタイプの自分にとっては、マスクのせいで曇る事がある。

 曇ると、視界がかなり悪くなる。それでどうだろう、曇ってて見えなかった場所から、歩行者や自転車、車が飛び出して来たら。気付かずに事故になってしまうかもしれない。そんな時に、『感染防止の為にマスクをしていたせいでぶつかりました』なんて言い訳の理由にもならない。

 一つの事に惑わされて、別の大切な事を見失ってないだろうか。人が死ぬ原因はコロナだけじゃないのだ。

 確かに、最近になって感染者の爆発的増加が続いている。しかし、その中でも、上手くコロナと関わっていくには、コロナを全てにおいて優先事項としてはならないと思う。国家的な面で考えるなら、経済を止める事も、法律を無視する事も駄目だ。個人的な点では、コロナ以外に気を付けるべき事との総合的な判断が求められる。我々は、甘過ぎず、厳し過ぎない対策を続けていくべきなのだ。

 そして、感染者や濃厚接触者に対して、差別をしていないだろうか。

 平等に……と言っては大袈裟おおげさだが、感染など誰にでも有り得る事なのだ。それが偶々自分でないだけで、そばにいたその人が偶々なだけで。

 決して差別してはいけない。差別してしまうと、感染者にとって周りが全て敵に変わり、精神的にも孤立してしまう。

 そうなるべきではない。コロナに打ち勝つ為には、個人個人の思考から、改善していかなくてはいけない。政府や自治体のような上からではなく、個人のような下から変わっていく世界にしていくべきだと、自分は思う。


 〜〜


 さて、隔離されてからの話に戻ろう。


 姉もパソコンで作業していた中で自分だけだらける訳にはいかないので、電話の前にやっていた勉強の続きを終わらせる。そして、家から持って来た食事をしていた時に、とうとう一つの事実を告げられた。


 自分はこの瞬間、濃厚接触者とされた。


 感染者のいたクラスは学級閉鎖。部活のメンバーも自宅待機。自分は、29日までは学校に行けない事になった。

 その結果を受け、姉も仕方なく自分の部屋から出て行き、自分は本当に1人で生活する事になった。

 後10日は学校に行けない。そう考えると、何を勉強すべきなのか、途端に分からなくなるような感じがした。翌日に備えて準備していたものが、スルスルと離れていくような気がした。

 この空白の時間を全て勉強に割ける程、自分は出来た人間じゃない。でも、この時間で、普段は学校に行ってて忙しくて出来ない事を、やっておきたい。ただ自堕落じだらくに過ごすだけじゃなく、何か意義のあるものを。


 そう考えた結果、自分のHeart's Cry心の叫びをこうして残す事にした。

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