濃厚接触者が伝えたい事

トレケーズキ【書き溜め中】

第1話 11月18日

 部活の人で感染者が出た。


 11月18日の9時半過ぎだったろうか。

 電話を切って、母親がそう伝えた。

 大きなリアクションはしなかった。自分がそもそも、衝撃の事実を聞かされてもすぐ受け入れる性格なのもあるのだろうけど、『あぁ、ついにか』というのが最初の感想だったと思う。

 夕飯を食べていたら電話が鳴り、母親が受話器を取った。普段より高い声で相槌あいづちを打つ母親が、途中から驚きを含んだ声に変わる。

 何となくの勘で、自分は弟の小学校で感染者でも出たのかな、などと考えていた。


 それが、自分が外野でいられた最後の瞬間だった。


 〜〜


 時はその日の午前に戻る。

 定期テストがあった。教科は政経と数学だった。政経でテスト範囲の周回が足りなかった事を悔やみ、数学で他人の半分も勉強してないお陰で追試にならないか心配になる、いつもの生活。

 それが終わると、自分は部活のミーティングに呼び出された。

「今日Y休みなの?」

「もしかしてとうとうコロナかかったか」

「そしたらやばくね」

 そんな会話がありつつ、人が揃ったのでミーティングが始まる。

 内容を一言でまとめるなら、大会が中止になった、というものだった。確かに、警戒レベルも引き上げられるような感染者の急増もあったから、妥当な話ではある。他の部活だと、既に中止になっていたのもあったから、むしろ自分の部活はギリギリまで粘った方なのかもしれない。


 ミーティングが終わると、先に向かっているクラスの友達を追いかけた。その日、テストが終わった後にラーメン屋に一緒に食べに行く事になっていたのだ。

 何故か自転車を飛ばし過ぎて友達より早く着いてしまうという現象が起きたが、なんとか合流してラーメン屋に入った。自分達より後に同じ学年の人達もやって来たけど、席の空きが足りなくて外で待たされる程に、その日は偶々なのか客足が伸びていた。地下の穴場的な店だと思っていたので意外だ。

 自分は醤油焼きラーメンの2倍盛りを注文する。

 暫くして、艶のある麺にいい香りを漂わせて、やって来た。

 割り箸を割って、手を合わせる。そして、醤油が絡んで茶色に輝く麺をすする。味が濃すぎず、それでいて食べ応えのある麺が今日のテストで沈んだ自分の心を癒やしていく。

 勿論、飽きる事なく完食。ボリュームがあるのに750円はそこそこお得な値段だ。


 1時間弱の時をそこで過ごして、自分達は公園に向かった。次の日は1教科しかない予定だったので、ある程度遊んでもいいやろ‼︎なダメダメ学生の思考が原因である。

 全然上手くもないバスケをそこそこ上手い友人とやる。幼児と母親が沢山遊んでいる中で、バスケ部でもない高校生4人がバスケをやるという、言葉に表すとシュールな光景である。

 かれこれ2時間程プレーして、疲れて来た上に、自分の周辺に放課後の小学生の姿も見えて来たので帰る事にした。

「Dの家で手洗ってもいい?」

「あぁいいけど」

「あ、じゃあ俺も洗わせてもらうわ」

 1人だけ帰って、残った3人はDの家に手を洗いに行く……といいながら怠けに向かった。

 色々な事(一応勉強もしたけどね)をして、3時間弱もの時間を過ごしてしまった。

 自分達は真っ暗になった外に出て、別れの挨拶あいさつをして、それぞれの帰路についた。


 そして…………………

 自分の高校生生活の日記は、午後9時半過ぎそこでおしまいになった。


 母親の電話の中で、自分は学校から自宅待機を告げられていた。

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