第36話『冒険者の大発見と質量兵器『O』』

カインは地面に着地する、それと同時に真っ二つにされたクマ見たいなボスモンスターは左右に別れて地面に倒れた。


どっかの冒険者パーティーの完全勝利である。


戦闘が終わると冒険者パーティーは次の仕事、倒したモンスターの現場での解体作業に移る。

強力なモンスターの素材は希少で高価な物が殆どだ、しかし生ものである事には変わりない。


ちゃんとした処理をしないと肉であれ皮であれ一気に劣化して使い物にならなくなるからだ、ゲームとの違いである。


折角苦労して倒したモンスター、その素材を重たい思いをして街まで運んで来ても処理が雑だと無価値になって泣きを見る駆け出し冒険者は珍しくない。


それ故に冒険者は現場でのモンスターの解体術や一定水準以上の知識を持っていてこそ一人前とされる、誰だって苦労した分の稼ぎは欲しいのだ。


この若くて実力と才能に恵まれた冒険者達もそんな苦い経験はもちろんある。


「オラッ!オラッ!オラッ!どんどん解体してくぞ!?細かい処理はそっちに任せたぞカイン」

「分かってるよ、僕とアンジェラがコイツの解体をするから他のみんなは血のニオイでモンスターが集まってこないか警戒してくれ」

「分かった、ナリア、リベルタ私達は周囲の警戒だ」

「ふうっモンスターの解体は勘弁だから助かるわ」

「すみません、私も血は苦手で……1番重労働だった前衛の2人に任せてしまって」


そしてそれぞれが振り当てられた役割をし始める。


アンジェラが自慢の戦斧で大まかにカットし、カインは腰の解体用のナイフを滑る様に動かして更に処理を進める。


パーティーを結成して3年程しか経っていないが、それぞれの長所や短所を理解してそれを補いあいこの『巨壁の神殿』に挑むまでに成長した。


今のセイージュの街でカイン達は正に出世頭的な立ち位置であり、憧れる若い冒険者も少なくない。


「………あっ!今カインのヤツ絶対にアンジェラの胸をチラッて見たわよ!?」

「ハァ……カインも男性ですからね、それにアンジェラもスタイルを主張する装備してますから」

「そもそもあんなデカイ戦斧を振り回して解体する必要あるの?絶対に見せつけ様としてるのよ!」

「……それは一理ありますね」

「何を言ってるんだ2人共、胸なんてそんな自慢する物でもないだろうに……」

「「……………………………………」」


アンジェラは恐るべき質量兵器『O』を装備していた、更に恐ろしいのはその質量兵器『O』を包み込む様にデザインされた金属鎧である。鎧の作者は絶対にオッパイ星人だと確信が持てる程に力が入った逸品だ。


そしてそれに対して陰口を叩くのは質量皆無な兵器を装備しているローブ娘と法衣娘である。

そこに中々の質量兵器『O』を装備した大きな盾を持った女戦士からの言葉に笑顔で殺気を放つ。


どこぞの三十路リーマンが目にすれば異世界の青春か………クソが!っとでも言っていそうな光景である。


余談だが三十路リーマンに青い春など存在しなかった。灰色の世界であったとリーマンは語る。


「……ん?ナリアとリベルタがシルドナと何か言い合ってないか?」

「ほっとけカイン、ありゃあ下手に首突っ込んでもお前も泣きを見るぞ……」

「?……分かった、そうするよ」


そんなタイミングであった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!。


突如てして低い地鳴りのような音が『巨壁の神殿』に鳴り響く。

当然カイン達も作業の手を止めて周囲の警戒をする、するとシルドナが異変に気付いた。


「ッ!見ろ!ボス部屋の1番奥を……」


冒険者パーティーの全員が視線を集める。


そこにあるのは木の根っこで覆われた壁である、この『巨壁の神殿』の内部は外見の神殿然とした感じと同じであるのだが、長い時間を掛けてダンジョンの外の木々がその根を伸ばしたのか壁や廊下や天井にまで無数の木の根が張り巡らされていた。


それはこのダンジョンのボスモンスターの住み家でも変わらないようで、至る所に木の根は張り巡らされていた。


だから視線を向けた壁にも木の根が張り巡らされていて神殿本来の壁を完全に隠している事に誰も不自然だとは気づかなかったのだ。


その壁には変化が訪れる。


その木の根が動き出したのだ、更に木の根は意思でも持つようにその壁から引いていく。


やがて木の根の向こうには……。


「カイン……こいつは……!」

「ああっまさか、あの木の根は……この門を隠す為の物だったのか!?」


そこには巨大な門が存在していた。


高さ、幅共にかなりの物である。更にその門には何やら絵が描かれている。


「りっリベルタ、アンタ神殿の出でしょう?あの絵って何かの神話をモチーフにしたヤツだったりしないの?」

「う~ん、そうですねぇ」


描かれているのは全体的に青色の配色で、海を思わせる様な絵と船の様な物、そして角の生えたヘルメット見たいな物を被った人間らしき者が何かと闘っている様な描写であった。


闘っている何かの部分は絵が風化しているのか殆ど判別出来ない状態である。


そんな門に描かれた絵画にしばし心を奪われる冒険者パーティー、しかしここがダンジョンの中である事を思い出して気を取り直す。


そこでカインはある事に気付いた。


「………この穴は……鍵穴か?」


見ると巨大な門には不釣り合いな位小さな鍵穴が空いていた。


(鍵穴か……恐らく、この門を開けるにはその鍵が必要なんだろうな)


試しにパーティーの力持ちであるカイン自身やアンジェラが押したり引いたりするもピクリとも動かない。


戦斧で門を破壊しようとしたアンジェラをカインとシルドナが止めたり、魔法で破壊しようとしてナリアをリベルタが止めたりと一悶着あった。


そして取りあえずこの門の発見と『巨壁の神殿』のボスモンスターを倒した報告をギルドにしようと言うことになり、冒険者パーティーは帰路につく。


カインはもう一度その巨大な門に視線を向けた。

そこにシルドナが語りかける。


「カイン、どうかしたのか?」

「シルドナ……いやっもしかしたら新しい発見かも知れないのに、引き返すのが勿体なく感じてさ」

「そうだな、あの門を開ける鍵さえあればっと私も考えてしまったよ……」

「次に来るときは……あの門の先に行こう!」


カインは新たな冒険への期待で胸を膨らませる。


ナリアとリベルタも無い胸を膨らませる。


シルドナとアンジェラはただでさえアレな質量兵器『O』を更に更に膨らませる、鎧の下にあるのが残念だと誰かが語った……。


そしてどっかの冒険者パーティーが成した大発見の情報はセイージュの街に賑わせる事になる……………………筈だったのだが。


何故かこの後冒険の舞台に立つのは………。



アカシアとユーレシアと愉快なバカ共である!。








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