第35話『どっかの冒険者の激闘』

そこは『迷宮大陸』または『地下世界』と呼ばれる果てしなく巨大な迷宮である。


大陸の地下にあることから、真っ直ぐに進むと東西南北全てがやがて見上げる程に高い岩の壁に阻まれる。


洞窟型、建造物型、領域型など様々な種類があるとされる迷宮だが不思議とはこの壁の近くには迷宮の類いは皆無であった。


それを理由にこの『迷宮大陸』を主に活動する冒険者はわざわざ壁の調査やその付近の探索は滅多にしない、何しろ壁の近くに行くだけでセイージュから数カ月はかかる程の距離だからだ、時間も金も無駄にしたくないのである。



そんな理由で壁の近くに冒険者は殆ど近付かない、しかしそこには例外がある。


西南北は正にその通りで何もないのだが、東の壁だけは違う、東の壁には迷宮があるのだ。


その迷宮は大きな神殿を思わせる建造物型の迷宮で、その巨大な神殿が壁から出現している。


自然とその迷宮は壁の内部へと続くのだ、しかしその広大さは他の迷宮とは次元が違う。その広さは幾つもの迷宮を合わせた位の広さで、出てくるモンスターも強い。


それ故に手に入るお宝の質も良くセイージュから多くの冒険者がこの迷宮を目指す。


その迷宮の名は、果てしなく巨大な壁と同化する神殿の外見から『巨壁の神殿』て呼ばれる。

セイージュの冒険者の中でもトップクラスの実力者が集い攻略を目指す今最もホットな迷宮である。


そしてそんな迷宮の最奥と思われる場所、そこにあるボス部屋にて……。


アカシア達では……ないっ!。どっかの冒険者パーティーが。


激闘を繰り広げていたーーーーッ!。


ガキィンガキィンと硬い金属が同じく硬い何かに振り下ろされた様な音が響く。


「くっ!こんなに硬いモンスターは初めて見たな!」

「当たり前だ!このダンジョンをここまで攻略したのはオレ達のパーティーしかいないんだからな」

「二人とも余裕ですねぇ、こちらが押されてるのに……」

「たくっ!無駄口叩かないの!ホラっハイヒール!」

「………よしっ体制は立て直したな?ここから反撃するぞみんな!」

「「「「「了解!」」」」」


そこにいたのは5人の男1人に女4人と言うバランスが極めて怪しいパーティーと1体の大きなクマの様なモンスターが激闘を繰り広げていた。


もちろんクマはただのクマにあらず、体毛の色は黒で茶でも黄色でもなく紫色である。

更に身体の大きさが軽く七メートルを超えていて、腕が左右に2本ずつの合計四本、頭に至っては何故か3個もある。


ゴツくてキモい。完全に迷宮のボスの風格である。


一応顔や身体の感じがクマに近いだけの正真正銘の化け物だ。そんな化け物を前に軽口を叩ける冒険者パーティーもかなりの手練れである。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


ボスモンスターの咆哮が戦闘再開の合図となった。


冒険者パーティーは一瞬で散開し、陣形を組む。

前衛3人が前に後衛2人が距離を取る。


ボスモンスターは冒険者パーティーに真っ直ぐ突っ込んで来た、それを真正面から受け止めるのは冒険者パーティーで盾役タンクを担う大きな盾を装備した女戦士だ。


「私が受け止める!援護を頼むぞナリア!」

「任せなさいシルドナ!ディバインガード!」


ナリアと呼ばれたローブを着込んだ魔道士が、シルドナと呼ばれた女戦士に物理攻撃への加護を付与する魔法を放つ。


魔法の加護を受けたシルドナは大きな盾を突進するボスモンスターの前に出す。


「バカみたいに突進ばかりだなお前は!これでも喰らえ、ウォールオブシールド!」


シルドナの盾が光を纏うと突然地面が隆起して、巨大な岩の壁を無数に出現させた。

ボスモンスターはブレーキを掛けたが間に合わず壁に直撃する。


「よしっ!一気に畳み掛ける!リベルタ、僕とアンジェラに魔法で援護を!」

「わかりました!カインとアンジェラに加速の魔法を!アクセルフォース!」

「ッ!コイツは助かる、オレ達で仕留めるぜ!」

「ああっ!行こう!」


神官の様な法衣を着た少女リベルタの付与魔法を受けて金属鎧と戦斧で武装したつり目の女性ジェルラと金属鎧と大剣で武装したパーティー唯一の男カインが一気にボスモンスターに迫る。


アンジェラは戦斧を軽々と振り回しボスモンスターを襲う、それにボスモンスターは四本の腕からかなり長い爪を出して応戦する。


まるで鉄塊をぶつけ合う様な音が何度も辺りに響く。


「くっ!流石にタイマンは分が悪いか!」


「オオオオオオオオッ!」


「………なんてなっ!カイン!」


ボスモンスターがジェルラに注力している間にカインはシルドナが生み出した見上げ程に巨大なクマモンスターの頭上に掛け上がっていた。


「これで決めるっ!ミデオン・セイバー!!」


「!?」


ボスモンスターは頭上に感じた気配でようやくカインの存在に気付く。

3個ある頭はそれぞれが死角を補い合うのだが、今回はそれが仇となったのだ、何故なら……。


(事前の作戦で決めていたんですよ、付与魔法を行使する時はジェルラは揺動、そしてカインはトドメを担当するので更に姿を眩ませる魔法をヤツの隙を見て付与するとね!)


リベルタが内心ほくそ笑む。


そもそもある程度の難易度の迷宮ではモンスターも普通に言語を理解してくる、つまり口で直接指示を出してたりしたら作戦が筒抜けなのだ。


ボスモンスターはさっきからデカイ声だけを出していたのも、自分は人間の言語なんて分かりませんよ~ッと言うなんちゃってアピールである。


本当はバッチリ分かっていた、それ故に途中までは善戦していたのだ。


それを冒険者パーティーは気付いていて敢えてそれに乗ったのだ、全てはパーティーリーダーのカインがこの一撃を確実に決める為に。


「グゥオオオオオオオオオオオオオッ!」


その事にようやく気付いたボスモンスターは怒りの咆哮をする、思えば目の前の口の悪い女は手や足にダメージを与える攻撃ばかりしていたなっと全ては咄嗟に回避が遅れる様にする為だったのかっと…。


ようやくそこまで考えが及んだボスモンスター、しかしカインの剣は蒼い光を宿しボスモンスターに迫る。


「オオオオッ!」


しかしボスモンスターも抗う、このまま好きにやられてたまるものかと。

3つのクマな頭からそれぞれが口から炎を吐き出す、火炎放射を遥かに超えた勢いと熱量を持ってカインに向けられる。


ナリアとリベルタが咄嗟に魔法で援護しようとするが間に合わない。

シルドナとアンジェラはクマの四本腕を捌いている。


「うぅおおおおおおおおおおおおっ!」


カインはそのまま炎の中に突っ込んで行った。


そして炎はカインに直撃した瞬間……消し飛んだ。


「………………ッ!?」


驚愕するボスモンスター、一瞬完全に動きが止まる。


そこをカインの剣が一刀両断した。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る