第33話『スピード解決』

【名もなき脇役の視点】


「おのれおのれおのれーー!何故だ!?何故この私の計画が失敗したんだ!?」


私は激昂していた。

何故なら十数年以上掛けて進行していた計画が相次ぐ失敗で破綻するにまで追い込まれていたからだ。


私はある世界を股に掛ける秘密結社に所属し、この国の転覆を命じられたのだ。


そして国に潜入し、末端ではあるが貴族にまで成り上がった。


そこまでは順調だった。後はこの国の野心家な貴族達を結託させたり王族の暗殺計画を立案し、進めたりと私はとにかく働いて、働いて、働きまくった。


とにかく貴族は金だ面目だと五月蝿いし一々下手に出てペコペコして、結託させたバカ貴族達が計画の前に衝突や潰し合いをしない様にと何度私が泥を被った事か……。


そんな……そんな手間暇を掛けて進めて来た計画がァアアアアアアアッ!。


「何もかも……あの!あの時グラード城に侵入した訳の分からん賊共のせいだぁあああっ!」


あの日、今から二週間と少し前にこのグラード城に入り込んだ男と女の二人組。


男はよく知らないが、女のほうは正にやりたい放題に暴れ回り、城の屈強な兵士や騎士を虫ケラの様に蹴散らし、魔法兵団の魔道士も歯牙にも掛けず、貴族連中も吹き飛ばしていた(アレは気分がスッキリしたが)。


たった一人で国の中枢を、力ずくで蹂躙する。


そんな真似は私が所属する秘密結社でもまず不可能な行いだ、それを鼻唄を歌いながらやってのけたあのメイド姿の化け物に私は心底恐怖した。


「………アレは一体何者何だ?あの力、明らかに人間ではない、他種族が人間に化けている?いやっそもそもあんな桁外れの力……最早、精霊王や亜神と言っても……」


………ハァッ一体何を言ってるんだ私は?。


そんな馬鹿げた存在が顕界して来てたまるか、とっとにかくあの化け物のせいで王族の護衛は増えて守りが堅くなった。


更に王族はあの賊に対して貴族が勝手に動いて余計な真似をし、ヤツらを刺激しない様にと王命を出して、王族特務の部隊まで使い貴族を監視する徹底的な対処をしたのだ。


流石は大国の王族だと私は思った、少なくともあの女は人間の国の1つや2つが歯向かうべき相手ではない。


万が一男の方も同格の存在であった場合、下手をすれば国どころかこの大陸1つ消し飛ばされかねない可能性すらあると、私はあの女と相対した時に直感した。


恐らくそれを勘づいたからこその王族の行動だ、やはり結社から抹殺指令が出るだけはある。


私の命じられた指令は国を転覆させるのともう一つ、王族達を根絶やしする事だったのだ。

しかしここに来て一気にその難易度が跳ね上がった。


だが、私にはまだ起死回生の一手があったのだ。


そして………それが先日失敗した。


わざわざ隣国の王子を誘拐、監禁してまで用意した暗殺者を使っての王女暗殺計画がな、王女が身につけていたバラのブローチ、あのジュエリーは魔道具だったのだ。


ブローチが光ったと思ったら用意しておいた王子の姿をさせた暗殺者は吹っ飛ばされていた。


完全に殺気を隠した私の僕は王女を確実に仕留める筈だった、社交場での自然な会話に見せ掛けての懐にしまった毒針での一刺し。それで王女は死に、2つの国の関係は最悪、更に貴族達のクーデターを利用しての王族全ての暗殺。


後はボロボロになった国を隣国が勝手に掃除してくれて、そしてその隣国は既に我が秘密結社が手中に収める手筈は整っていて……っといった具合で私の国家転覆作戦は成功する筈だった。


しかしその一手はあっさりと潰され、今回の失敗を重く見た結社はこの国から手を引いた。


当然、私を見捨ててな。


「くそっ!あんな妙な魔道具どこから引っ張り出して来たんだ、この城に十何年勤めて来たがあんな魔道具の話は聞いた事が無かったのに……」


しかしここで何時までもこの城で愚痴をこぼしている訳にもいかない。

既に王族は動き出し、王子が偽物である事を突き止められているしそれを差し向けたのが自国の貴族だとも気付かれるのも時間の問題だ。


そもそもあの化け物みたいな賊達のせいで常に見張られていたので何人か怪しい動きをしたバカ貴族は既に裏で捕まってしまった。


果たしてあのバカ貴族が口を割るのに何日も保つかどうか……。


「いやっ数日も保たないな、連中は絶対に私を売る。どうせ自分達は既に消される事になっている事すら分からずベラベラと喋るだろうからな…」


一刻も早くこの国から脱出を……。


バゴォオオンッ!。


その時だ、いきなり私の個室のドアが吹っ飛んだ。


「なっなに!?」


「おーいっここだここ、この部屋にその王女暗殺の黒幕がいるぞー」


こっこの声は……ッ!?。

私の目の前に、あの悪夢が姿を見せていた。


蒼い髪と瞳にメイド服を着ながらも全く誰かに従う気などないと全身から溢れる暴力的な魔力が物語る化け物。


あの人間の男は何故こんな化け物をとなりに置いて平然としているのか私には理解出来なかった、その化け物がここに……。


「……オイッ言っておくが私は今、貴様の心の声が聞こえる魔法を使っているからな。さっきから化け物だ何だと……殺されたいのか?」


「なっ!?心を声を聞く魔法だと!?そんな巫山戯た魔法が」


「お前がこの国で貴族になったのは国を転覆させる為で王女の暗殺はその為の布石だったんだろ?」


「ッ!?…………」


バカな………そんなバカな。


そして部屋にはぞろぞろと兵士が入ってきて最後に黄金の鎧を着た女騎士が入ってきた。


「ブランニーシャ殿!?これは一体どう言う事ですかな!?まさか貴女ともあろう者がこの前科のある賊の戯れ言を……」


「…悪いが、その女はウソの類いはつかないと私は考えている。お前を拘束させて貰うぞ!」


クッ!美貌だけで騎士になったとか言われるお嬢様ボンボンが!とんでもない化け物を連れて来たものだな!。


「だから心の声を聞いていると言っただろうが、誰が化け物だそれと女騎士、お前はお嬢様ボンボンとか呼んでいたぞ」


なっ余計な事までチクりやがって……!。


「上等だ貴様!皆の者確保ーー!」


「くっ………!」


私は咄嗟に飛行魔法で窓から脱出をしようとしたが、魔法は発動せず更に身体も動かなかった。


間違いない、あの化け物メイドの魔法だ。


「………………………ッ!」


気付けば声すら上げられなくなっていた私は兵士に囲まれてしまった。


「さらばだ………名もなきザコモブよ……」


なっ!?貴様は私と1度相対してるんだぞ!、私の名前はサイ……。


その瞬間、私の意識は刈り取られた。










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