第32話『クエスト頑張ってます』

そこはセイージュの街から程近い場所なある渓流地帯。


俺は黒の軽自動車プレアに乗って進んでいる。

コイツは土の魔法を操り凹凸のない平らな道を瞬時に出現させてくれる。


おかげでスピードを出し過ぎなければまず事故らない、何しろこの軽自動車自身にも自我があり運転をサポートしてくれるからだ。


……と言うかコイツ自身の意思で自由に動けるから運転する俺は要らないんだけどな。


『マスター、恐らくこの辺りがクエストの紙に記されていた場所です』

「分かった、ならここで討伐対象のモンスターを待ち伏せ……」


ズンッと言う地響きを感じた、プレアを止めて降りる。

そして周囲を確認……するまでもなかった、俺の視線の先には一体のモンスターがのみがいた。


「シュゥルルルルルルルルルルルルルルッ!」


渓流の緑の美しい景色とは違う、赤色の鱗。

巨大なトカゲの様な顔に2本の角を生やし、身体はトカゲのクセに筋肉がやたらマッスルだ。


まっ要は超デカくてマッスルなトカゲが、今回俺達が受けた討伐クエストの相手って事だ。


「よしっアレが討伐対象の……何だっけ名前?」

赤鱗せきりんトカゲの突然変異です、あんな筋肉質なのは滅多にいないそうですよ?』


そうそうそんな名前だ、それにしてもマッスルなだけで突然変異って……俺のその手のファンタジー関係の知識との齟齬がすごいな。


何でもあのトカゲはあのマッスルを見せ付ける様にこの渓流にクエストで訪れた冒険者にケンカを売っては病院送りにしているらしい。


そんな事をしてるから討伐対象になるだぞ。


「同情の余地なし、さっさとやるぞおたくら!」


俺の合図をきっかけに、ついさっきまで誰も居なかった場所に二人の女冒険者が現れた。


「行きます!ハァーーッ!」

「私も援護するわぁ~」


レイナてフリーネだ。

フリーネの魔法で姿を隠していた二人は前もってこの辺りに潜んでいたのだ。


後はプレアに乗った俺が騒音を出しながらヤツの縄張りに侵入して囮になった訳である。


「俺達も行くぞプレア!」

『分かりましたマスター!』

「………セレンも……がんばる」


おっ俺の胸ポケットから銀色の小さなスライムみたいなのがプルプルと出て来た。

俺の新たな仲間、セレンである。


現状、あのチートメイドは別件で動いているので不在である。


っと言う訳で行きますか。


「ブリッツストライク!」


レイナが身体に淡い黄色い光を纏い電光石火でトカゲに突進する。

トカゲの視線がレイナに釘付けになった所で。


「アイシクルランスよ~」


フリーネの魔法の氷の槍がトカゲに直撃、ダメージを与え氷結する事でその場に足止めする。

更にレイナがジャンプしてトカゲの顔面に斬撃をかます。


「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


そりゃあ大声を上げるよな。

無論俺達は構わず追撃をする。


『そろそろ私も本格的に戦闘に参加します!』


一体どう言った心境の変化なのか、プレアまですごいやる気になっている。


俺が乗って居ないのにも関わらず発進してトカゲに接近していく。


『ロックインパクト!』


プレアの言葉が発せられるとプレアの回りに無数の石(直径は十数センチサイズ)が出現する。


ソイツがトカゲに向かって突撃だ。

更にプレア自身も突撃していく。


『ハァアアアアアアアアアアっ!』


ドッゴォオオンッ!。


「…いやっ体当たりとかすんなら魔法を使った意味ないだろうが!?」


プレアよりもずっとデカイトカゲはプレアの一撃にも怯まずプレアを片手で弾き飛ばした。

プレアは魔法で自身の身体を少し操り綺麗に着陸した。


プレアが離れたタイミングでレイナとフリーネが更に攻撃を続けている。


「ふうっ心配させやがって、セレン行くぞ!」

「わかった……ますた」


セレンは俺の右手の甲に乗るとプルプルと震えだした。

そしてセレンがその姿を変える。


そして現れたのは……空飛ぶモーニングスターであった。


あのトゲトゲの鉄球がついたアレだ、そして浮いている、セレンは元々はインフィニティナイフと言う俺が異世界に来る前に強制的に受けさせられたチュートリアルのクリア報酬であった。


そしてそのチートアイテムがどう言う訳か進化して銀色のスライムっぽい謎生物になったのがセレンなのである。


しかも進化して銀色のプルプルは、何と自分単体だけで戦う術を手に入れやがった。

今もモーニングスターはひとりでにトカゲに突撃してその手足を大きな鉄球で打ち据えているぞ。


プレア、セレン、レイナ、フリーネこのパーティーによる怒濤の攻撃にトカゲは為す術なくフルボッコにされている。


………俺?俺はセレンが単独で戦闘に参加する様になった時点でお役御免ってヤツだ。


つまり俺は連中の戦いをただ見物する為にここに来たようなものなのだ、だってクエストに行かないと俺の取り分の報酬が貰えないからな。


「これでっ終わりよ!」


最後はレイナの一撃がトカゲの喉を切り裂き終了となった。


「よしっそれじゃあモンスターを解体して討伐の証明になる部位と金になる所を切り出すぞー」

「……アカシアさんは解体作業を?」


俺は無言で明後日の方を向く、生き物の死骸をどうこうするとか勘弁だぜ。

しかし俺のこの反応に不満を見せるのがレイナである。


「もうっ!戦闘にも参加しなし解体作業も見てるだけ何ですか!」

「……解体した物をプレアに載せて運転するのは俺だろ?生物とか車内に乗せるとかニオイが半端じゃないんだぞ?」

「そっそれはそうですけ……え?プレアさんは自分だけで動けますよね?」

『マスター、載せるのは構いませんが車内が汚れない様に万全の用意をお願いします』


レイナが余計な事に気付いたりプレアは生臭くなるのを何としてでも阻止してほしいと主張したり、本当にまとまりがないパーティーだな。


「かいたい……がんばる…」

「なら私は解体された部位を魔法で凍りづけにするわぁ~」


見ろよあの二人の見事な連携を、身体を分裂させたセレンが無数の刃物に変身してほぼ単体で解体作業を進めてるぞ。


俺がする仕事なんて無いんだよ。


「ほれ見ろ、セレンが一人頑張ってるから俺達は見てるだけでいいんだって」

「良くないですから!仕事が無いなら自分で探して来るんですよ普通は!」


……そんな正論で俺が動くと思うなよ。


「……そんな正論では動かないって顔してますね、ハァッ……っあそれよりもユーレシアさんですけど…」


何で表情だけで心が読めんだよ。


「ん?ユーレシア?アイツがどうかしたのか?」

「どうかしたのかって心配じゃないんですか?ユーレシアさんは今……」


レイナが言う心配、それはここにあのアホメイドがいない事の説明にもなる。


実は数時間前に金ピカ騎士が俺にあらぬ罪をなすりつけようとしてきたのだ。

そこで俺は『知りません』『分かりません』『記憶にございません』を連呼して応戦、しかしあの金ピカ騎士は何故か俺を有罪だと判断して来やがった。


結果くだらない取っ組み合いをする俺達にユーレシアが、しようがいなっなら私がパパッと行って解決してくるぞっと言って金ピカ騎士とどこぞに行ったのだ。


そうっそちらの面倒ごとも丸投げである。


社畜の時もこれくらい簡単に仕事をあのクソ上司に投げつけてやりたかったなぁ……。


「アカシアさん!早く解体して凍らせたモンスターの部位をプレアさんに運びますよ!」


へいへい分かりましたよ。

レイナが学校の委員長見たく口うるさいので渋々働く、あ~~っ早くお金持ちに戻りたいわ……。




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