第18話『ダンジョン起動』
ブロロロロロロロロロロロロロロロッ。
我が愛車が『迷宮大陸』を行く。
本来なら舗装も何もされてない地面を走るとかあり得ないのだが、そこはファンタジーの世界で自我を持つに至った謎車両。
俺を差し置いて手にいれた土魔法の力で地面を幅五メートル、高さ一センチくらいでニョッキさせて土色のまっ平らな道路を生み出した。
魔法を発動する際には邪魔な雑草やら木々やらは全て退けさせているのでこの広大なダンジョンを我が物顔で突き進んでいるのが俺達である。
ちなみにプレアには運転手で俺、他はフリーネ、レイナ、金ぴか騎士が乗っている。
速度は時速40キロくらいだ、俺は知らない道は安全面を取って少しノロノロで行く男だ。
そしてユーレシアは……。
「相棒、このまま真っ直ぐに走れば、日がくれる頃にはこの『迷宮大陸』にある、唯一の冒険者達の拠点。冒険者の街セイージュがあるぞー」
普通に巨大なイノシシの死骸を担いでる状態で時速40キロで走るプレアについてきている。
既に走り初めて小一時間は経つんだけどな、相変わらずぶっ飛んだチートメイドだよ。
ちなみに金ぴか騎士は既に簀巻きから解放されて剣も返されている、しかし返す時にユーレシアがボソボソと何かしら呟くと金ぴかはとても悔しそうにしていた。
金髪女騎士の悔しそうな表情に、少しエロい気分になった。くっころってヤツだな。
「アカシアさん、確かにこのスピードならつきますけど、ここは『地下世界』ですいつモンスターが出てくるか分かりません。移動の時は常にモンスターと戦闘出来るだけの体力は残しておいた方がいいですよ」
レイナからの助言だ。女子高生くらいの歳くらいにしか見えないとは言え冒険者としては今日なったばかり(本当はなってないけどな)の俺より後輩って事はないだろう。
ここは先輩からの言葉としてしっかり受け取っておく。
「分かった。おたくの言う事ももっともだし少し気をつけるか。プレア移動は三十分くらいずつで休憩を挟んで行こうと思うんだが」
ゲームとかならずっと移動も出来るけど、リアルだと車移動をし過ぎるといざって時に身体が固まってろくに動けなくなるからな。
その辺りを考えて休憩とかストレッチが出来て車から下りる時間を用意しておこう。
『私はマスターの言葉に従います』
「私も相棒の意見に賛成だな」
「同じく賛成です」
「………………」
よしっ問題はなさそうだな。
それからはこまめに休憩を挟んでの移動をする、そして三度目の休憩を取ろうかって時に……。
「ギャアギャア!」「グルルルルル」「ギィィイ!」「グルガァアアアアア!」
何やらゴブリン見たいな連中が通せんぼをしている、腰には腰にはボロ布、手にはこん棒と言うゲームに出てくるまんまのゴブリンだ。
「ゴブリンか、雑魚だが仲間を呼ばれるのも厄介だ。どうするつもりだ冒険者」
「……………」
どことなくトゲのある金ぴか騎士のセリフだな。
どうするも何も……。
まず、プレアの土魔法で地面をニョッキさせて道路を作る。
「「「「ッ……ギヤッギャアアアッ!?」」」」
いきなり地面が動いて、こちらをガン見していたゴブリンはふらついている。
そこに……。
『ストーンランス』
「雑魚の代名詞どもがぁっ!どくがいいっ!」
プレアの土魔法が生み出した岩の槍に串刺しにされたり、ユーレシアの担ぐイノシシを叩きつけられたりしてゴブリン達が可哀想な事になっている。
「……私達は出る幕がないわね」
「凄いですねぇ~」
俺は隣に座る金ぴか騎士に一言。
「……こんな感じだよ。はいっ終わり終わり」
「………………」
釈然としないって顔の金ぴかを無視してプレアは自家製道路を走る。
俺も少し周囲を見る余裕が出てきた。
「………凄い自然だな」
回りを見るとどこまでも続いてる草原地帯だ、ぱっと見何もモンスターはいなさそうだが。これが草むらに色々と潜んでいるらしい。
そう言えばさっきのゴブリンもいきなり草むらから出て来たよな。
その辺りは注意が必要だが、ここまでの自然の中で車を走らせたのは田舎にキャンプしに行く時くらいか?。
自然はいいな、のどかな風景に心が癒されるのを感じる。田舎に住みたいとは思わない俺だけどな。
俺はストレスフルな社会人生活から一時の解放を求めてキャンプとかしてた人間なんだよ。
この車にも後ろにキャンプの時に使ってた小物とかを放り込んだままにしていたのだが……。
プレア曰く、用途が不明な道具は全て異空間だかに置いてきたそうだ。
じゃなけりゃあ軽自動車に四人乗りはキツイからな、特に鎧を着込んだ人間とか大丈夫なのか心配するよ。
主に我が愛車の心配だ。
ダンジョンにいる事も忘れて車を走らせる、最初は緊張していたフリーネとレイナも普通に会話を楽しんでいる。
「それにしても、相棒も中々やるじゃないか?パーティーメンバーも簡単に揃えてしまうし、案外冒険者の才能があったのかも知れないぞ?」
ユーレシアも俺と会話をする……イノシシを担いで走る車と並走しながらな。
この謎メイドは本当に色々と謎過ぎるよな。
「才能?三十路野郎にそんなもんあるかよ、ただの流れだよ流れ」
「フフンッそうか?」
「……そうだよ」
とかなんとか言いながら褒められると内心嬉しいのが人間だけどな。
そんな感じで冒険者の街とやらに向かっていた時である。
俺達の耳に、まさかの声が聞こえた。
『プレイヤーを確認しました。プレイヤーを確認しました。これよりダンジョン【機兵軍の地下アジト】を起動します。』
『「「ッ!?」」』
「おいっ!今の声ってまさか……!」
「ん?声?何の事だ?」
「聞こえましたか?」
「アカシアさん、声とは一体何の事ですか?」
『……マスター、私には聞こえました』
「私も聞こえたぞ?相棒……」
………マジかよ。俺達にしか聞こえないってか?。
「プレア、あの声って……」
『はいっ私が音声データをコピーした相手ですね、全く同じ声でした、つまりアレは……』
そうっ俺がこの異世界に来るときに聞こえたあの声だ。
あの時は確かチュートリアルがどうのとかって言ってたよな。
「相棒、これは何か起きるかもな~」
「………だろうな、何を笑ってんだよ」
コイツはこんな時でもニマニマしてやがる。余裕なのか何なのか……しかしこんな時だと、少しは心強く感じるな。
すると変化は早々に起こった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!。
地割れが起こった、それも目の前に。
いきなり目の前にそんなのができたもんだから急ブレーキも全然間に合わない。
俺達は地割れにダイブする。前にも似たような経験があるな。
「なっなぁんだとぉおおおおおっ!?」
「あぁあああああああああアアッ!?」
「キャアアアアアアアアアアアッ!?」
ちなみにヘルダイブの経験がない美少女連中は女性らしい悲鳴をあげている。
若干一名少女でも女性らしい悲鳴もあげない金ぴかがいるけどな。
そこで俺は見た。地割れによって地層が見えたがその地層にまるで蟻の巣を何倍にも複雑にしたような物があった見えた。
アレがダンジョンだっ間違いない、しかもちらほらと機械みたいなのが見えるのできっと内部はSF映画の秘密基地に違いないな。
そんな風に現実から目をそらしてると。
一瞬の無重力の後に、プレアは重力によって落ち始める。
「プレア!飛べ………ちっ!」
『マスターこの『迷宮大陸』では私の、或いは全ての飛行系のスキルが封じられているかと思われます』
全ての飛行能力?。おいおいっそれじゃあ。
「ユーレシア!まさかお前も……!」
こいつなら空くらい飛べてもおかしくない、しかしその能力が封じられたら流石のアイツも……。
チートメイドを見る。
するとアイツは人差し指を上に向けて、いつものニンマリ顔で何事がボソボソと呟く。
「………ッ!?」
そしてユーレシアが指を前に向ける。
するとプレアは見えない力に引っ張られる様にその地層から見えるダンジョンに向けてすっ飛んで行く。
あのバカが何かしたらしい。
「ユッ……ユーレシアァアッ!」
空中をすっ飛んで行くプレアから顔を出してユーレシアを探す。
アイツは地割れによって生まれた裂け目の底に消えていった。
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