第12話『土下座フェス』

◇◇◇


ナンだこれ?。


王女の後を中年ボディにむち打ちながら追いかけて行ったら物凄い数の兵士達や騎士がいた。


そしてその全てが土下座をしていた。


あのゲームとかで王様が偉そうなにしている筈のばかでかい椅子の前で土下座をしているのはこの国の王様だろうな、隣のジーさんは知らん。


あの金ぴかの騎士は俺を牢屋にブチ込んだ兵士を指揮していたヤツだ、銀色の方は知らない。


そして部屋に入ったお姫様が国王に声をかけた所で、あの謎メイドが訳のわからん魔法を発動して金ぴかと銀色を吹っ飛ばして、意味不明な発言をしたらご覧の有り様である。


王女も国王も強制的に土下座させられている、おそらくファンタジーな世界だと言うから魔法とか呪いとかだろう。呪いの線が濃厚だな。


何が詫びろ詫びろ詫びろだ。


お陰で俺は謎メイドことユーレシアの隣で土下座フェスティバルの輪の真ん中で姿を現すはめになった。


あのまま傘をさしたまま知らんぷりしても良かったけどこのアホがこれ以上バカをする前に止める必要があると思ったんだよ。


「もう一度、聞くぞ?何やってんのお前?何があったらこんな土下座フェス見たいな事になるんだよ?」

「フフッサプライズだ相棒。私達を牢屋に入れてくれたこのファンタジー世界の文明弱者どもに私達に逆らったらどうなるかを教えてやったのさ!」

「……………………」

「どうだ相棒。このままこの城をっいやこの国を乗っ取るっと言うのはどうだ?あるいはそこら辺にいる貴族から屋敷の一つでも取り上げるくらいで勘弁してやるのでもいいと思うが……」

「…………………」

「偉そうな人間がいたら取り敢えず土下座をさせると言うのも悪くないだろう?何しろこの場の大半の人間は人を見下して仕事を丸投げするのが自分の仕事だと思っている連中だ。相棒の感覚なら即死刑確定の雑魚どもだろう?」


…………なるほどね。確かにこの謎メイドの言うことも分かる。

俺は人に舐められるのが嫌いだ。こちらが下手に出て敬語とさん付けで話しているのに『アンタは』っとか言う感じで話をするヤツとかにもイラッとする人間だ。


そしてそんなヤツに限って日頃の態度から悪く、やたらと対応する人間によって態度をあからさまに変えるから余計に殴りたくなるもんだ。


自分より上の人間にはにこやかに。下の人間には侮蔑した様に。そんな態度を入社時期がたかが二、三週間早く入っただけのオバサンにされた時はマジでぶっ殺したくなった俺だよ。


そんな感じで基本俺はこの世界では俺を見下すヤツに対しては遠慮なくドォーーンッ!、と行こうと決めている。

仮にここの王様やら貴族やらが俺達に何か面倒な事を仕掛けてきていたのならこの土下座フェスも心の底から楽しめていただろう。


………しかしこれはダメだな。


……っと言うわけで。


ドロップキック入ります。


「………この、大バカメイドがぁああああああ!」


ドゲシッ!。


「ぬぅあああああああっ!?」


隣の俺からのゼロ距離ドロップキックが炸裂し、このオッパイバカメイドを蹴り飛ばした。

女に暴力はダメ?。

俺は真の男女平等主義者ですから、差別なんてしません。


「なっ何をするんだ相棒。一体何が気に入らないと言うんだ!?」

『貴女はこんな真似をした後の事を考えなかったんですか?』


全くだ、リスクマネージメントって言葉を知らないのか。

……知らないんだろうなぁコイツ。チートだし。


床に尻餅をついて女の子座りをかましてくる、コイツ全然余裕だな。

俺はユーレシアの顔を真っ直ぐ見つめて。


この世の真理を語ってやる。


「いいか、ユーレシア。そもそもだ、そんな知りもしないお偉いさんなんかにいきなり土下座されても俺はそんなに嬉しくない」

「なっなんだと!?」

『……マスター?』

「何故か分かるか?そもそもざまぁ系のお話とかのお約束とかなら、まず相手の方から何かしらの目障りなアクションがあって、その後になんやかんやあって結果的に悪役をコテンパンにするんだよ」

『……マスター?ざまぁ系とかではありません。異世界に来ていきなり国に喧嘩を売る様な真似を……』

「つまり!コイツらを土下座させて俺が気持ちいい感じになるには、まずこの土下座要員達が何かしら俺をイラつかせ、ムカつかせ、目障りだと感じる様なアクションを事前にしてもらわなくちゃあいけないんだよ!」


とある倍返しさんだって。敵さんの物凄い嫌なヤツ感があったらこそ見事にやり返した時の爽快感が半端じゃないのだ。


「ユーレシア、コイツらを土下座させるのもボコボコのフルボッコにするのも、全てはコイツらが俺達の異世界生活の邪魔をしでかしてきてからの話だ。それまでは……泳がせるんだよ、分かるな?」


何か自分でもどうかと思うことを言ってる自覚はある、しかしこのチートなメイドをどうにかするには無駄に良いノリの良さを利用するしか一般人には手段がないんだよ。


何しろ単身で城の全戦力とやり合うとか、その戦闘力の高さは流石に俺の予想の斜め上過ぎる。

何かベラベラ喋り過ぎて途中から何言ってんのか自分でもワケわかんなくなってるけど、それはそれである。


今はこの歩く核爆弾を回収してこの城から脱出するのが先決だ。


お姫様にまで土下座させたことは心の中で謝罪します。


俺の紳士な言葉に果たしてユーレシアは。


『……………』

「フッ……流石だな、それでこそ私の契約者であり相棒だ。今回は相棒に免じてこの雑魚どもは見逃すとするか」

「ああっそれじゃあ………ちょっと待て」

「?」

『?』


俺はトトトッと俺達を牢屋送りにしてくれた金ぴか騎士(土下座状態)の側に行く。

そいつの近くには如何にも値がはりそうな黄金の剣があった。


「これもーらいっ!金ぴかだし絶対に高く売れるぜこれは!俺達を牢屋にブチ込んでくれた慰謝料代わりに戴くからな」


「ッ!?………ッ!………て!」


金ぴか騎士が土下座の体制のまま小刻みにプルプルしている。全力で拒否してるのだろうが俺はその抵抗を見なかった事にした。


「プレア、おたくこの場にこれるんだよな?来てくれないか?」

『…分かりました』


プレアが返事をすると直ぐに俺達の目の前に見慣れた黒い軽自動車が現れた。


よしっそれでは脱出しますか。


俺達がプレアに乗り込もうとした時、土下座のまま王様が何やら話してきた。


「お……お前は、何…者だ?名を……くっ」


「ほうっ私の拘束魔法を喰らって喋るか、流石はこの城で一番強い人間だっと言った所か?」


え?この王様一強いのかよ。それに土下座をしている連中が一言も喋らなかったのまでこの謎メイドの力だったとは。


名を名乗れってそんな素直に……っいや、ここにいる連中は土下座して額まで床につけている。


つまり今俺の姿を見れているヤツはいない、なら別にいいか?声とか三十路野郎はみんな似たようなダミ声だろうし、この世界の人間に判別つかないんじゃね?。


名前か、偽名なら良いか?。


佐藤圭吾って名前は、この中世でファンタジーな世界観には似合わない。

どこぞの島国な感じがな、何となく嫌な俺だ。


そう常々思っていたので俺はこの世界での自分の名前を変える事にした。


「……俺の名は、アカシア。じゃあな」


スマホゲーとかで主人公の名前によく使っていたのを採用した、何となく人の名前っぽくね?。

どうせその場限りの偽名である、変に俺が以前いた国の感じを出す名前よりは良いだろう。


プレアに乗り込む。


「アカシアか、それが相棒がこの世界バールリードで名乗る名前か。良いんじゃないか?」

『マスターの名前をアカシアで固定しました』


え?もうアカシアで固定されたっぽいぞ?今さら身バレ対策の偽名ですとは言えない雰囲気だ。


「ユーレシア、プレア。城から出るぞ、準備はいいか?」

「勿論だ」

『問題ありません』


それじゃあ、発進!。


俺はアクセルを踏み込む。

エンジンの音がしだして、我が愛車は当たり前の様に宙に浮かぶ。

土下座連中をひかない為の対策である。


土下座連中の上を通りすぎ、謁見の間とやら大きな扉から脱出する。


「はあっ!」


ボガァアアアンッ!。


ユーレシアが魔法で城の渡り廊下の壁にデカイ風穴をあけた。


『貴女はまた、城の破壊は重罪ですよ』

「フフンッいけ、相棒!」


脱獄から強制土下座までしてるからな、今さら罪状が一つ増えた所でなんだって話だ。


「………分かったよ」


その風穴からおいとまする俺達であった。


◇◇◇


お城を脱出して 空の移動をする事しばらく。


「ってかよ、ユーレシア。お前は本当になにもん何だよ?」


そもそもな話だがな。異世界に来て1日目からブタ小屋に入れられたり、本当に色々あったから、そんな本来なら最初に気になる事を今の今まで質問出来なかったのだ。


俺の質問に謎メイド事、ユーレシアはいつもの不敵な笑みを浮かべながら話す。


「私は相棒が手に入れた『異界契約の指輪』の力で相棒と契約し、相棒の異世界生活のサポートをする為に召喚された存在だよ。お世話サポートがメインだから服装がメイドなんだぞ?」

「……どこがメイドだよ、初めて会った時から相棒呼ばわりしてたじゃねぇか」

「フフンッそこは仕方ないな、私は誰かの下にいた経験がないんだよ」


ならなおのこと何でメイドなんだよ。


「フフッしかし城での事は面白かったな!」

「ふざけんなよ、こっちは餓死されそうになったんだぞ?」


………まっ面白かったのは否定しないけどな。

そんな事を考えてるとユーレシアの満面の笑みが視界に入った。


人間離れした美貌ってやつだ。まるでめが…。


「……はぁっ面食いの性ってか?美人に弱いってのも考えもんだぜ……」

「うん?どうしたんだ相棒?。あっそれよりもだ……」

「なっ何でもねぇよ……それよりも?」


俺がユーレシアを見るとお綺麗なニマニマ顔で聞いてきた。


「次はもっと面白そうな場所に行けるんだろ?期待してるぞ」

「……………」


フニュッ。


俺はこのアホメイドの頬っぺたを片手でつまむ。


「なっ!?この私に何をするんだ相棒!」

「うるせぇこっちはこの世界に来て何も飲み食いしてねぇんだぞ?メシだよメシ!その後は取り敢えず寝る!分かったな」

『人が来る前にどこかに下りますね』


空も白み始める。時期に夜明けだろうな。


まったく、散々な異世界初日だったぜ。










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