第8話『グラード城のお宝』

いくら壁をブチ破り侵入した身元不明の塩顔三十路野郎とは言え、問答無用で餓死させようとしたこの城の連中が許せない。


まぁ字面を並べるとそれも仕方ない気がしないでもないけど気にしない。

その慰謝料として、ファンタジーな世界のお城ならお宝くらいあるだろうからそれをゲットしようと決めた俺だ。


本来なら廊下をノコノコ歩いてる三十路サラリーマンなんて秒でまた捕まりそうなもんだが、そうならない秘密があるのだ。


それは建物の中なのに差している青い傘。

コイツのスキルである。


能力は簡単に説明すると、この傘を差している間は誰も俺の出す音や気配、そもそもその存在を認識する事が出来なくなるってヤツだ。


お陰でこの城にどれだけの兵士が居ようが余裕綽々で城内を散策出来る~って思っていたんだけど………ちょっとおかしいんだ。


「……なぁっプレア。俺達この城を何分かしかまだ観光してないけど、あの小部屋の兵士以外誰とも兵士と会ってなくね?この城って夜の巡回とか一切なかったりすんの?」

『まさか、巡回する兵士くらいいる筈です。まるで何処か別の場所に兵士が行っている見たいですね、集会でも開いてるのでしょうか?』

「集会って、けどここまで誰とも出会わないってのも不気味だよな」


せっかくのマイ傘のスキルの初披露なのに、少し残念な気分になった。

まぁいいか。今はお宝がありそうな所を観光しよう。


「観光を続けるぞ」

『…………観光ですか?』


そっ観光です。



城の中をしらみつぶしに観光する。


一応プレアに確認したがプレアでもお宝がある部屋ってかお城の内部とかを覗いたりする能力は持っていないらしい。


何度も大きな階段を登ったりした。


途中でかなり慌てた様子のお城の人間を見た、俺は自分から危険に飛び込んだりしない質なのでそんなパニックを起こしてる連中が少ない方向に歩いていった。


「ふうっ大分城も上の方に来たんじゃないか?」

『はい、来ましたね』


あれから少なくとも小一時間以上は観光をしている俺達だ。

中々お目当ての場所にたどり着けないし、三十路なので体力も減ってきた。


ってかこの世界に来てから一度も食事をとれていない。喉もカラカラだ。

城の連中に一泡ふかせようと言う感情だけでここまで来た俺だ。


けど、正直そろそろしんどい。もう廊下に並べられてる台座の上に置かれたツボとかあるからそれを適当に盗ん……拝借して帰ろうかなー。


そんな事を考えていると、ふとガラス窓から見える物があった。


それはこの王都の夜景であった。


「………こいつは、凄いな」

『はいっ確かに素晴らしい夜景かと』


流石に都会程光に溢れてる訳ではない、しかし夜も人の営みがあるのか街の明かりが王都を染め上げてるのをこの城からは見下ろせる。


夜空もまるで幾つもの星雲が集まったような、前の世界では見たことないような幻想的な夜空だ。


前の世界程無駄に眩しい感じがないからこその夜空だな、俺的には好印象だ、恐らくこれが見納めだろう景色にセンチメンタルな気分になる。


本当、ここで異世界ライフが送れたら良かったのにな。


名残惜しいがあまりゆっくりするのも流石にヤバいだろう、更に観光を進める俺達だ。


◇◇◇


そして気づけばお城の最上階手前である。


何度目かも忘れた階段を上がっている途中だ。


……やべぇっどっか見落としたりしたか?兵士どもが集まってそうな所は避けたから、やっぱそっちだったのか?。


幾つもの部屋を物色したが宝物庫見たいな場所なんて一つもなかった、プレアも隠し部谷とかの痕跡とかを見てもらっていたがそんなのはなかったと言っていたし……。


『もしかしたら更に地下にその手の部屋があったのかも知れません、もう一度下におりますか?』

「………勘弁して下さい」


あっけどどのみちプレアの本体がどこにあるかを探さなくちゃいけないか?いやっそこはコイツに聞けばいいか?。


「プレア、もし次に入る部屋がハズレでも、もうずらかるからお前の本体のある場所を教えてくれ」

『私の本体はあの後城の兵士により城の外に運ばれました、そしてそこで私の内部を見る為にドアを無理矢理開けようとする兵士と魔法でどうにかするから傷一つつけるなと言うローブ姿の女性が言い争っていました』


おうっなるほど、兵士とか脳筋野郎な感じありそうだし、空を飛べる鉄の塊を調べたいと考える科学者気質なヤツとかもいるのか。


『……ですのでそんな二人が言い争っているうちに私も異次元収納のスキルで私の本体は別の空間に移動しました』


冷静な対処だけれども…。


「そっそうか、ならおたくも俺が喚べばナイフや傘みたいにその場に出てきたりするの?」

『はい、その通りです』


それは物凄く助かる情報だ、何も金になりそうな物をゲット出来なかったらしゃくなので次の部屋に何もなければそこで我が愛車を召喚。


再び壁をブチ破り夜空へ逃走飛行だな。


あっけど軽自動車の中で傘とか広げられないぞ?そんな真似をしたらまた例の攻撃魔法とかってファンタジーな遠距離攻撃でプレアが落とされないか?。


んーそれは困る、後でプレアと相談して決めるか。


それからしばらく黙々と階段を上がる。


やがて階段を上りきると左右に騎士みたいな鎧や剣で武装したゴツイのが控えていた。

普通に怖い、鍵を開けたりしたらバレるよな?。


「なぁプレア、流石にあの騎士みたいな奴等の目の前で扉が開いたら気づかれると思うか?」

『……いえっ恐らく目の前で鍵があき、扉が開いたらとしてもあの騎士達は何も理解出来ないでしょう』

「………マジでか?」

『もしそれでバレるなら少し前の兵士の頭をはたいた時にバレてるかと、恐らくマスターが触れた物にも多少なりとも認識無効のスキルが影響が及んでいます。ですから問題なくあの部屋にも侵入出来ます』


俺はプレアの言葉を信じる事にした。

インビジブルアンブレラって言う妙な命名をされた由緒正しき俺の傘、コイツのスキルにかけるぞマジで。


傘をさしたままど真ん中を普通に歩く。

ナイフを取り出して、鍵に変える。

普通に鍵を開ける、ガチャッて音も当然した。


しかし左右の騎士は微動だにしない、ヘルムを装備してるから表情とかまったく伺えないけど多分キリッとした感じの表情をしているんじゃないかな。


俺達はネズミ一匹通さんぞ!キリッ!みたいな(笑)。


「………フフ」


そんな事を考えると、騎士には悪いが何かウケる。君らの目の前で三十路のサラリーマンが平然と入室しようとしてますよ?。


扉を開けて、そして閉める。


結局騎士達は全く反応を示す事はなかった。


やべぇっこの傘一本で俺は世紀の大泥棒になれそうな気がしてきた。



そして扉を通ると、何故か少し眺めの廊下になっていた。

そう言えば城のテッペンは二つのトンガリが繋がってる感じのデザインしてたな、なら俺は本当にあの一番上の所まで上って来たんだなぁ。


何となく達成感がある。

気のせいだけどな、何しろ戦利品はいまだにゼロなんだから。


そして万が一罠とかあったら嫌なのでその辺りを素人なりに気をつけながら進む。


やがて今度は普通の部屋サイズのドアの前に前に立つ。


「……いっ行くぞプレア」

『はい、マスター』


騎士が手前の扉を守ってるとか今までなかった、これは間違いなくこの先にはこの城のお宝があると考える。


覚悟決めて、お邪魔しまーす。

そして無事に部屋に侵入した俺達。


そして中には……………人がいた。


「……………!?」


そこにいたのは金髪碧眼の物凄い美少女だった。


『……彼女は確かにこのグラード城のお宝ですね。何しろお姫様ですから』


なるほどね。確かにお宝の部屋にはたどり着いたって訳だ。















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